第62回 結婚相手は抽選で その4

 続きです。


 いよいよ最終章。章題は「それぞれの1年後」です。


 まずは好美から。


――僕からのメールが迷惑だったら言ってください。

 嵐望のメールには毎回、この一行が添えられていた。

 嵐望、違うよ。違うんだよ。迷惑なんかじゃなかった。だから、何も言わなかったんだよ。だって、迷惑だったら言ってくださいと書いてあるじゃないの。

 返信しないことで、迷惑には思っていない気持ちが伝わっていると、勝手に思い込んでいた。

 でも、もし逆の立場だったら?

 嵐望の言うように、「迷惑だ」と返信するのさえいやがっていると取るかもしれない。一切関わり合いたくないと思えば……そう、相手がストーカーだったりしたら、きっとどんな内容であれ返信しないだろうから。

 でも違う、嵐望、違うよ。

 どうしよう。このままだったら、もう二度と会えなくなるかもしれない。

 今すぐ返信すればいいんだ。元気です、の一言でもいいから。

 慌てて返信しようとして、ふと思いとどまる。

 もしかして、嵐望には新しい恋人ができたのではないだろうか。だから、メールを最後にすると言ってきたのではないか。その可能性は十分にある。考えてみれば、女性にモテる嵐望が、この一年間恋人ができなかったわけがない。――(結婚相手は抽選で 文庫版 P.254、P.255)


 なんてもどかしいすれ違い。好美は見合いを三回断り、今は離島で看護師として働いています。重要な専門職である事からテロ撲滅隊行きは免れました。また、この経験は子離れ出来なかった母親を独り立ちさせる事になったのです。

 ようやく恋に素直になれる状況になったのに。悲しいですね。


 続いて龍彦。なんと二十三人とお見合いしてまだ結婚が決まりませんでした。奈々以外すべて相手からのお断わりです。さすがに同情しますね。


――最近になって、抽選見合い結婚法の内容がまた改正された。それまでは、見合いを断った回数が三ポイントに達した場合、テロ撲滅隊へ行くことになっていたが、それ以外にも「一生独身コース」というのを選べることになった。結婚自体を望まない人にも柔軟に対処するという触れ込みだが、このコースを選ぶと独身税を払わなければならない。今や共働きでなければ食べていけない時代にあって、独り身で生活できているのは、経済的に恵まれた者であるという決めつけからである。しかし本当の目的は増税と、テロ撲滅隊の人数が増え過ぎて対処できなくなったからだという噂だ。――(結婚相手は抽選で 文庫版 P.259、P.260)


 出ました「独身税」。それにしても行き当たりばったりの改正ですね。


 好美と嵐望パートの最後は、好美ではなく嵐望目線です。好美は嵐望と交際中に妊娠した子を一人で産み、育てていました。


――好美からメールが来るなんて、別れて以来初めてのことだった。

 メールを開く指が緊張で震える。

 いつもメールをありがとう。

 私は元気でやっています。

 今まで返事をしないでごめんなさい。

 私は見合いを三回断ったので、今は離島で看護師として働いています。

 今も独身です。

 一度、島に遊びに来ませんか?

 カワハギをご馳走します。

 それと、写真を添付します。

 嵐治と書いてランジと読みます。

 生後五ヶ月の男の子です。


 写真に見入った。

 変な顔。

 オットセイか大福みたい。

 いや、待てよ、七福神のどれかに似ているのでは?

 嵐治か……妙な名前。

 えっ? その「嵐」って、もしかして……。――(結婚相手は抽選で 文庫版 P.273、P.274)


 ちょっともやっとしますがいいラストですね。私の脳内ではとっくにくっついてます。


 龍彦と奈々はどうなるのでしょうか。


――思いきってかけてみようかな。

 でも、かけてみたところで、何を話せばいいんだろう。

 今さら何の用だと罵声を浴びせられるかもしれない。

 相手の電話番号をじっと見つめるうち、親指が勝手に動いて発信ボタンを押してしまった。

「もしもし、私だけど」

――ワタシ? と申されましても……。

「なんなの、あなた、私の携帯番号を登録していないわけ?」

――もしかして、まさか……奈々さんですか?

「そうよ。奈々よ。あなた、もう結婚した?」

――いえ、まだです。もうずっと断られっぱなしで。

「でしょうね」

――そういう言い方……。

「あなたの良さをわかる人は少ない、という意味で言ったのよ」――(結婚相手は抽選で 文庫版 P.286)


 あいかわらず奈々の言葉遣いは高圧的ですが、かなりいい感じになってきました。


――野菜炒めも作れるようになりましたよ。

「やるじゃない」

――奈々さんも頑張れば、きっと料理上手になれますよ。

「いい加減なこと言わないで」

――すみません。

「何を根拠に言ってるの?」

――すみません。

「そもそも余計なお世話なの」

――チョーすみません。

「外食でもコンビニでもファストフードでもいいのよ。とにかくお母さんから離れることが第一歩なの。お母さんも私も半人前だってあなた言ったの憶えてる? あなたって人は本当に失礼よ。いい人だと言ったの、やっぱり取り消す。私はね、トマトのみじん切りとツナ缶を混ぜるのは得意なのよ。なんなら一生それ食べてればいいんだから。なんか文句ある? ああそうだ、その前に餅ピザおごりなさいよ」

――餅ピザ、ですか?

「そうよ、あの店の餅ピザよ」

――それはもう是非。今から行きませんか?――(結婚相手は抽選で 文庫版 P.292、P.293)


 覚えていますか? 伏線。

https://kakuyomu.jp/works/16816927859434938319/episodes/16816927861606972188


 もう、奈々の「行くに決まってるじゃない」という返事しか想像できませんよね!


◇◇◇◇◇◇



 読んでいただきありがとうございました。


 もし、なる程と感じる所がありましたら、ぜひ★評価や♡評価とフォローをお願いします。


 よろしければ、私の代表作「妻の代わりに僕が赤ちゃん産みますっっ!! ~妊娠中の妻と旦那の体が入れ替わってしまったら?  例え命を落としても、この人の子を産みたい」もお読みいただけると嬉しいです。

https://kakuyomu.jp/works/16816927860596649713



 次の第63回は「アジアンタムブルー」の秘密に迫ります。お楽しみに。

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