第81話 段田娘と
「本当にやるの? 段田さんの娘さん」
「長いです! ナンナって呼んでください!」
前会った時もそうだったけど、この子は本当に勝ち気だなぁ。
「また今度でいいんじゃない?」
「駄目です! 一緒に戦う仲間なのに、お互いの力を知らないなんて有り得ないです!」
そう言って段田さんの娘──段田ナンナ──は俺の手を引いてコロッセオへと誘導する。観客達はまた始まったと囃し立てている。どうもこの子は強そうな召喚モンスターを見つけると、バイトそっちのけで戦っているらしい。しかも、武蔵に負けた以外では連戦連勝だとか。
「水野さん、胸を貸してあげて下さい」
盛り上がる店内の空気を読んだ段田さんがすっと横へ来てやんわりと対戦を促す。もう、やるしかないか……。
「分かりました。でも、手加減はしませんよ?」
「大丈夫です。娘には私の秘蔵の召喚石を譲ったので。私よりセンスがあるようで、なかなかの戦いをします」
……秘蔵の召喚石。段田さんがそこまで言うんだ。ちょっと楽しみになってきた。
コロッセオについて懐から召喚石を取り出すと、いつもより光が強い気がする。どうやら、やる気らしい。
「よし。ゴ治郎、来い!!」
スッと現れたゴ治郎は一呼吸するとコロッセオへ飛び降りた。
そして、ナンナは召喚石のついた指輪に軽く指を這わす。
「モカ、おいで!!」
さて、どんな召喚モンスターが出てくる?
#
──疾い!!
鋭い
「来るぞ!」
「ギギ!」
ガチンッ! と空を噛む音がコロッセオに響いた。ゴ治郎はナイフで押し返しながら後方へ飛び退き、距離を開けるが──。
「モカッ!」
「「ウォン!」」
真っ直ぐがとにかく疾い! 双頭の狼──オルトロス──は瞬く間に距離を詰めて今度は前脚で爪を振るう。モカなんて可愛い名前をつけやがって。凶悪な面構えなのに!
ゴ治郎が左右の爪を躱すと、モカの動きが一瞬止まる。ふん、狼が立ち上がるなんて機動力を捨てるようなもんだ。
「行儀の悪い口を閉じてしまえ!」
「ギギッギ!」
後転するように飛び上がったゴ治郎がモカの頭に向かって弓形に溜めた脚を放ち──。
ドバンッ!
よし、決まった! 天に向かって打ち上げられた双頭の片割れは完全に意識が飛んだと見える。これで俺達の勝ち──
「モカッ! 今よ!!」
──なんだと? 青白い光が口腔内にともる。
ウオオオォォォンンン!!
アイスブレス!? 凍てつくような冷気がばら撒かれ、コロッセオに靄が立ち込めた。
「ゴ治郎!!」
サッと冷気が引くとコロッセオの状況が露わになる。
「……ギギッ」
そこには肩から指先まで左腕を氷で固められたゴ治郎がいた。
「モカ、次は!」
意識を取り戻したもう片方の頭が息を吸い込む。これはまた、ブレスが来る。しかし、もういい加減やってもいいだろ──。
ウオオオォォォンンン!!
今度は灼熱の息吹がコロッセオにばら撒かれた。きっと焼け爛れたゴ治郎の姿を期待しているのだろう。しかしな、ゴ治郎はもう本気モードなんだよ。
「──居ない!! モカ、気をつけて!!」
「「ウォン!」」
ナンナの指示にモカが周囲を警戒するが……残念。そんなところには居ない。そして、一部の観客がざわつく。その視線の先にはコロッセオの最上段にいるゴ治郎の姿。
「行けええぇぇ!!」
「ギギギッ!!」
ゴ治郎が空気を蹴る度にバギンッ! と甲高い音が響き、大気が震える。そして、星となったゴ治郎が降り──
ドゴォォオオオォォォンンン!!
──コロッセオに大穴が開いた。その脇には戦意を喪失して縮こまるモカがいる。立会人が意思を確認すると、ナンナは呆然とした表情で小さく「参りました」と呟いた。
「……し、勝者、ゴ治郎!!」
あれ、ちょっとやり過ぎたかもしれない……。
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