第77話 呪いの進化アイテム?

「……うーん、確かに似てるわね」


八乙女さんはテーブルの上に置かれた小さな2本の角を見比べている。1つは酒呑童子、もう1つはデビルアーマーから斬り落としたものだ。


俺は大学での騒動の翌日の夜、八乙女ダンジョンを訪れていた。召喚者にまで影響を及ぼすモンスターの能力について相談する為だ。その話の中で、八乙女さんが角について興味を示した。


「偶然ですかね?」


「進化アイテムとして角とか牙って割と割とメジャーだから、これだけではなんとも言えないわね。ただ……」


「ただ?」


「どんなモンスターでも進化させられる角があってもおかしくないと思うの。……そこに何か代償があるなら」


「……代償」


「ゲーム的に言うなら、呪いの進化アイテムって感じかしら。召喚モンスターの寿命と引き換えに進化を促すとか、召喚者に何か悪影響が出るとか」


八乙女さんの言葉を聞いて、2本の角が急に邪悪なものに思えてきた。


「召喚者に何か影響を及ぼすってのはあり得そうですね。召喚モンスターはそもそも召喚者のエネルギーで活動する。デビルアーマーの召喚者、妙に攻撃的な性格でしたし」


「デビルアーマーを召喚した新入生の素性は探れないの?」


「それがですねー、その新入生カップル、ウチの大学の学生ではないみたいなんですよ。鮒田が寄付金をちらつかせて探りを入れても、学生のデータベースに該当する人物はいなくて」


「……ますます怪しいわね。もしかして、水野君が狙われてた?」


「えっ、なんで俺が!」


「単純な力試しかも知れないし、名前を売るためかも知れない」


「なんて迷惑な……」


「ふふふ。まぁ、今回は撃退出来たんだから、良しとしましょう。水野君、おかわりいるでしょ?」


八乙女さんは立ち上がり、コーヒーのお代わりを淹れ始めた。


「ところで水野君、新しい闘技場の話は知ってる?」


サーバーからコーヒーが注がれ、カップから香ばしい湯気が上がる。


「えっ、闘技場が増えるんですか?」


「そうみたいよ。ゲームセンターとかを運営している会社が新宿に新しい闘技場を作るんだって。相当宣伝にお金をかけてるみたい。急に色んな雑誌で取り上げ始めたわ」


慌ててスマホで検索すると、確かに幾つもの記事がヒットする。


「……サモナーズ・フィールド」


「そうそう。それよ。法整備が整ってきたから、これから幾つもの企業が参入するかもね」


「どうやってお客さんを集める気なんでしょう。SMCはダンジョンの割引があるけど」


八乙女さんはコーヒーカップを持ったまま、うーんと首を捻る。


「企業でプライベートダンジョンを買収したか、それとも全く別の集客方法を考えたのかも」


「なんにせよ、この界隈が活性化するのは嬉しい事です」


「そうね」


この時はまだ、この新しい闘技場に自分が巻き込まれることになるなんて全く想像していなかった。

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