第76話 歓声は2度やってくる
コロッセオの中央には大の字に伸びたデビルアーマーの姿がある。ゴ治郎は静かに拳を天に突き上げ、勝利を宣言した。
ウオオオオオオ!!
激戦に静まり返っていたギャラリーが思い出したように歓声を上げ、勝者を讃える。その声を全身に浴びていると、いつの間にか俺はギャラリーに取り囲まれていた。
「凄い戦いでしたね! 痺れました!!」
「うちの大学の最強はアナタですよ!!」
「是非、ウチのサークルに入って欲しい!!」
「仇をとってくれてありがとう!!」
「水野君、とても素敵だったわ!!」
えっ、この声は、まさか!? 声のした方を見るとギャラリーを掻き分けて八乙女さんがやって来た。今まで大学に来たことなんてなかったのに、一体何故?
「凄いじゃない、水野君! 相手はレアモンスターよ!」
興奮しているのか声がいつもと違う。
「なんとか勝てました」
「楽勝だったじゃない! 流石、私の水野君よ!!」
ちょっと大胆じゃない? どうしたの八乙女さん。
「どうしたのボケっとして?」
リアクションが気に食わないのか、八乙女さんは手を俺の肩に置いて揺する。
「水野晴臣!!」
「な、なんですか、急にフルネームで」
「俺を見ろ! 水野晴臣!!」
「見てるじゃないですか。急に俺とか言ってどうしたんで──」
八乙女さんの顔がグニャリと歪み始める。
「……えっ、な、なに!?」
「俺だ! よく見ろ!!」
うん? この顔は──。
「鮒田! なんで八乙女さんが鮒田に!!」
「まだボケてるのか!? 闘っている最中だぞ!!」
「えっ、もう勝負は決まって──」
コロッセオの方を見ようとすると、鮒田が突然俺の顔を掴む。
「見るな! あの鎧野郎を見てからお前はおかしくなった!」
俺が、おかしくなった?
「ゴ治郎と視界を共有しろ!」
鮒田に言われるままに目を閉じてゴ治郎の視界を共有してもらう。視界は狭く、いつもの半分しかない。一体、何が?
「ゴ治郎は途中で正気に戻った。看破の魔眼のおかげだろう。普通のモンスターなら晴臣と同じようにずっと呆けていた筈だ」
……そういうことか! 俺は警戒する間もなくデビルアーマーの術中にはまっていたのか!!
「ゴ治郎、行けるか?」
「ギギッ!」
返事はするものの、ゴ治郎の動きが重い。どうやら俺が呆けている間にあの不可視の刃をくらってしまったようだ。
「クソ! 邪魔しやがって! やれ!!」
テツオの声と同時にデビルアーマーが剣を操り、不可視の刃を繰り出す。全て躱せるか? ならいっそ──。
「ゴ治郎、短剣で斬れ!」
「ギギギッギ!」
青く光る短剣が振るわれると、空気を引き裂くような音が何度も響いた。この短剣、なんでも斬れるな。
「なんだと! ふざけるなよ!! もっとだ!!」
何度やっても同じこと。微妙な空気の歪みに向かって短剣を振るえば、不可視の刃は霧散する。
「はぁ、はぁ、……もっと、だ」
テツオの声から疲労が伝わってくる。レアモンスターに何度も大技を使わせたんだ。その消耗は激しい筈。そろそろ決めよう。
「ゴ治郎、行け!」
「ギッ!」
一気に踏み込むことは出来ないが、ゴ治郎は一歩ずつ間合いを詰める。一歩、また一歩。デビルアーマーの姿がはっきりと見えてきた。鎧に浮かんだ悪魔の顔はもう笑っておらず、焦りすら感じさせる。そして、その額には角が一本。
「や、やめろ! 来るな!」
「!!」
力なく長剣が振るわれ、ゴ治郎が短剣で跳ね上げると剣身が真っ二つになる。
「テツオ! 召喚を解除して!」
「わ、わかった!」
「ゴ治郎、あの角を斬れ!!」
「ギギッ!!」
召喚が解除されるその刹那、短剣の青白い刃が悪魔の角を跳ね飛ばす。光とともにデビルアーマーはテツオの元へと戻っていき、角は弧を描いて落ちてくる。ゴ治郎の手元に。
「勝者、ゴ治郎!!」
ウオオオオオオ!!
鮒田の勝ち名乗りを上げると、ギャラリーから破れんばかりの歓声が上がった。今日、これを聞くのは2回目だ。八乙女さんの姿がないのは残念だが、本物の歓声は悪くない。
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