第63話 再び東京へ

「ハルくん、これ作ったから持ってて。これやったら東京でも目立てるよー」


そう言って渡されたのは母親と同じ羽飾り付きの帽子だった。実はこたつで裁縫をしている姿を見て、嫌な予感はしていたのだ。これをかぶるのは流石に恥ずかしい……。


「……あ、ありがとう」


「そんな暗い顔しなくても、ちゃんとゴ治郎のもあるから! 安心して!」


息子の気持ちを全く分かってない! 胸元に仕舞っているゴ治郎の召喚石が俄に熱を持った気がする。ゴ治郎の場合は帽子オン帽子になるからなぁ……。もうわけがわからない。


「晴臣、これ持ってけ」


父親からは封の開けられたウィスキーのボトルを渡されそうになる。


「いらない!」


「おま、これ山咲の18年だぞ!」


「ダンジョン経営で稼げるようになったからって贅沢しない方がいいんじゃない?」


「ちっ、分かってねーなー。俺はダンジョンに頼らないようにするために、なるべく金を使ってるじゃねーか。本業はしっかりやってんだぜ?」


「……ごめん。もらってく」


父親から渡されたボトルをリュックに入れると、一気に重くなった。これが山咲の18年……。


「じゃ、行ってきます」


「いってらっしゃい! 次は彼女でも連れて来てくれると嬉しいわー」


「元気でな。ちゃんと就活もしろよ」


両親からそれぞれ刺さる言葉をもらって、俺は家を出た。



#



新幹線の控えめな振動に眠気を誘われながら、うつらうつらと年末年始の出来事を思い返す。


色々とありすぎた。実家は水野ダンジョンパークに姿を変え、母親は園長に肩書きを変えていた。親子でダンジョンに潜ることになるなんて夢にも思っていなかったし、蕎麦アレルギー騒ぎには肝を冷やした。


「結局、隠し通路はなかったなぁ」


少し一人で裏庭ダンジョンに潜る時間があったので隠し通路を探したのだが、第2階層まででは見つけることは出来なかった。本当はがっつりダンジョンアタックして第3階層以降にチャレンジしたかったのに……。


スマホの振動にハッと目を覚まして画面を見るとlineeの通知だ。


"召喚の免許制度、具体化しそうよ!"


えっ!! 八乙女さんからのメッセージはまさかの内容。一体、どういうことだ。


"ただのネットのネタじゃなかったんですか!?"


"あれは地ならしの為にわざとリークされたモノかもね"


"S級召喚者、爆誕!! ですか?"


"それはないわ"


ないのかぁ。少し期待したのに。


"召喚者に対して教育が行われるのと、召喚石/召喚モンスターの登録が義務付けられるみたいよ。詳しいことはまだこれからでしょうけどね"


"車の免許みたいなものですかねぇ。召喚石にナンバーつけられたり"


"ふふふ。意外とあり得るわよ。税金取られたり?"


"ええー、それは嫌すぎる。車検みたいな制度出来たら泣きます"


"モン検ね"


モン検かぁー。ベルトコンベアーの上を走らされるゴ治郎を想像する。


"ところで水野君は、いつまで実家なの?"


"今、東京に戻ってきているところです"


そう入力している内に、新幹線は東京駅に到着した。


"ちょうど着きました"


"長旅お疲れ様。お土産待ってるわ"


あっ、何も買ってない!

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