第60話 オカンの言い分

さて、何から聞いたらよいのか? コタツに置かれたみかんの皮を剥き、丁寧に白い筋を取りながら考える。


「ハルくん、その白い筋に栄養があるんよ?」


「……知ってる」


対面に座る母親が大変だ。そもそもなんだ? その衣装は? 東南アジアの山岳民族のように派手な刺繍の上下。頭には羽飾りのついた帽子。ダンジョンのイメージ間違ってないか?


「ダンジョンを見つけたのはいつなの?」


「うーん、1ヶ月半ぐらい前かしら? 流石にもう蛇もおらんやろーから裏庭の掃除をしよう思ったら、ニョロニョロー! って蛇が出て来たのよ」


蛇、本当にいたのか!


「お父さんに言うても面倒臭がるし、どうしよーって雑談ついでに町内会長さんに相談したら蛇の駆除業者さんを紹介してくれて」


そんな業者あるのか!?


「流石は業者さんよねー。蛇もさっと捕まえてくれて。で、念の為に裏庭の怪しいところをチェックしてくれたんよ」


余計なことを。


「そしたらビックリ、業者さんが穴を見つけて。これ、ダンジョンですよーって言うじゃない? 慌てて市役所に相談したら"それはプライベートダンジョンです! 是非、オープンしましょう! 我が市にもついに2つ目ダンジョンが!!"みたいなこと言われて。もうそっからはあれよあれよと話が進んで先週から水野ダンジョンパークオープンよ」


「お、おめでとう」


なんだ? 地方ではダンジョンは観光資源扱いなのか? 確かに全国のダンジョンマップを見るのは楽しいが……。


「でも、一言くらい相談してくれてもいいんじゃない?」


「何回か夜に電話したけど、ハルくん全然繋がらんやん?」


そういえば着信履歴あったな。ここのところ夜はバイトかダンジョンに潜っていることがほとんどなので、完全に無視していた。


「お客さんはどんな感じ? けっこう来てる?」


「いい感じなのよー!」


母親の顔が緩む。


「ウチのダンジョンはゴブリンばっかり出るんやけど、最近はゴブリンが結構人気あるらしくてねー。Youtobeとかでなんか盛り上がってるって」


母親の口からゴブリンって単語が出てくるのはなかなか衝撃的だな。そしてYoutobeで盛り上がってる動画ってのは多分、ゴ治郎です。


「そういえば、母さんちょっと痩せたんじゃない? もしかして無理してない?」


「ふふふ。全然平気よ! 健康そのもの。痩せたのはね、凄いダイエットを見つけたんよ」


そう言って母親は帽子から羽飾りを取る。よく見るとそれには小さな緑の石がついている。これは、まさか。


「出ておいでー、ゴブ太!」


羽飾りにつけられた針でさっと指を突くと、緑の石──ゴブリンの召喚石──に当てられる。そして──。


「この子を召喚してるだけで勝手に体重が減るんよー! お腹も減るけど、甘いもの食べても全然体重増えないし、凄いわ」


コタツの上に現れたのは見慣れた緑のモンスター、ゴブリン。


「母さん、召喚石手に入れたの!?」


「そーよー、市役所の人がその辺のこと教えてくれてね。しばらくスコップでゴブリン叩いてたら、コロンて出たわ。ゴブ太はええ子よ。ハルくんの弟やと思って可愛がってね?」


それはなんか違うぞ!


心の中でツッコんでいると不意にインターホンが鳴った。


「あっ、お客さん! じゃ、園長に戻るからゴブ太と仲良くね」


そう言って母親はコタツから立ち上がり、俺はゴブ太と2人残されるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る