第37話 ヴァンプ

青白い肌に銀色の髪が流れ、紅い瞳が輝く。なめらかで女性的な肢体は消しゴムサイズでも扇情的だ。これが人間サイズなら緊張して見ていられないだろう。


「ヴァンパイア?」


そう問いかけると六車は頷いた。


「モブ?」


シシーが俺を見てからつぶやくと、六車は頷いた。


「仕込んだだろ!?」


「仕込んでないわ! 素直な反応よ!」


まさか召喚モンスターにまで馬鹿にされるとは。地味なのは認めるが、初対面でひどくないか?


「さぁ、ゴジロウも召喚してよ」


「……わかった」


懐から取り出した召喚石を座卓に置いて、いつもの手順をふむ。


「出てこい、ゴ治郎!」


眩い光が収まると、いつものゴ治郎が現れた。SMCでの対戦で磨かれ、ますます隙のない佇まいだ。


「ゴ治郎。ヴァンパイアのシシーだ。これから一緒にダンジョンアタックをする仲間になる。挨拶しろ」


「ギギッ」


ゴ治郎が近寄って手を差し出すと、シシーは顔をしかめた。


「ゴブリン風情ガ私ニ触レラレルト思ウナ」


「なんだと!」

「ギギギッ!」


「ちょっとシシー、仲良くやりなさいよ! これから一緒にダンジョンに潜るのよ!」

「フンッ。セイゼイ足手マトイニナラナイヨウニスルンダナ」


こいつ、六車よりも更に性格が悪いぞ! 日本語が上手な分、ストレートに伝わってくる。


「サア、凛。ダンジョンニ行クゾ。ソコノ赤帽子ニ私ノ強サヲ見セツケテヤロウ」

「もう、シシーったら」


これはダンジョンより先にシシーの攻略が必要だな。



#



六車ダンジョンではアンデッド系のモンスターが出現するという話だった。第1階層を少し進むと、ズリズリと引き摺るような音をゴ治郎の聴覚がひろう。


先を行くシシーが身構えると、上半身だけで這ってくる人型のモンスター、ゾンビが現れた。


「見テイロ」


そう冷たく言い放つと、シシーの体が妖しく光る。そして次の瞬間──。


「えぐっ!」


地面から現れた闇の牙がゾンビを呑み込み、細切れになった腐肉が残った。


「あそこまでやらないとゾンビは倒せないのか?」


「そんなことないわ! 頭を叩けば大丈夫」


なるほど。シシーは俺とゴ治郎に力を誇示したのか。ならばこちらもお返しをしないとな。


「次はゴ治郎がやるぞ」

「ギギッ!」


アンデッドにナイフは相性が悪い。そこでゴ治郎は両手に鉄のガントレットをつけている。武蔵ほどではないが、ゴ治郎は腕力も上がっている。今日は撲殺スタイルだ。



また少し行くとズリズリと嫌な音が聞こえてくる。どうも数が多い。少しするとゴ治郎の視界に3体のゾンビが──。


タンッ! と地面を踏み抜くような音が響くとそのまま一体目のゾンビの頭を蹴り飛ばし、一呼吸の間に右、左と拳を振るった。いずれも爆破されたように跡形もない。


くるりとゴ治郎が振り返ると、シシーは呆気に取られた顔をしていた。


「本当に消えるのね……」


「本気を出すともっと速くなるぞ」


「……頼もしいわ」


ダンジョンは始まったばかりだ。

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