第26話 ダンジョンオーナーの苦悩

段田ダンジョンでの5回目の訓練を終え、恒例となった焼肉食べ放題(鮒田の奢り)で腹を満たしてから駅へと向かっている時のことだ。


急に鮒田がもう少し飲みたいと言い出した。まぁ、俺だって酒は嫌いじゃない。今日は段田ダンジョンの第2階層にも到達した。その余韻をもう少し味わいたかったのだろう。


そこで、ちょうど駅の近くに立ち飲み屋を見つけて入ったのだが──。


「あれ、段田さんじゃないか?」


「ああ、ダンジョンオーナーで間違いない!」


壁にもたれかかるようにして、へべれけになっているのは段田ダンジョンのオーナー、段田さんだった。見ていると何度もずり落ちそうになり、その度にギリギリ現世に戻って来ていた。


「どうする?」


「一緒に飲むに決まっているだろ!」


お世話になっている人だ。無視は出来ないよなぁ。ちょうどよく段田さんの隣のカウンターが空いていた──他の客に避けられていた──ので、鮒田と2人でそこに収まる。


「段田さん、お疲れ様です」


「ダンジョンオーナー、飲んでるか!」


「うい? あー、ああ。水野さんと鮒田さんですかぁ」


焦点の定まらない目で段田さんは応えた。これは、相当に酔っている。


「どうしたんです? 随分酔ってるみたいですけど、今日、何かありました?」


「ういー? 今日? 今日も何もないですよー。何もないからこうして飲んでるんですよー」


ダンジョンオーナーはそんなに忙しいようには見えないからな。いくら飲んでいても平気なのかもしれない。


「結構な身分だな! あんまり飲んでいると家族に嫌われてしまうぞ!!」


「うっ、ううぅ……」


えっ!? 鮒田の言葉に突然、段田さんがむせび泣く。泣き上戸だったのか?


「私にはもう……家族はいないですから……うぅ」


これは参ったな。どうやら地雷を踏んでしまったようだ。困って周囲を見渡すと、カウンター内の店主が呆れた顔で段田さんを見ていた。もしかしたら、いつもこんな感じで泣いているのかもしれない。


「ダンジョンオーナー! そんな時は、飲むんだ!」


勝手に頼んだハイボールを鮒田が勧めると、段田さんはガッとジョッキを掴んであおる。


「あぁ、そんなに一気に飲んだら……」


「大丈夫れす! 大将、もう一杯!」


頼まれたからには仕方ない。店主はしぶしぶハイボールを作り段田さんの前に置いた。


「ちくしょー! 家族がなんだっていうんだよー!」


先程までとは打って変わり、強気だ。泣かれるよりはマシだが、起伏が激しくて大変。


「うっ、ううぅ……かずこぅ……」


また落ちた。


段田さんはこの上げ下げを数度繰り返した後、完全に沈黙した。やっと落ち着いて飲める。段田さんの隣が空いていたのにはしっかりとした理由があったのだ。



鮒田とそれなりに飲み、いい時間だと会計を頼んだ時だ。店主がじっと俺達のことを見てきた。横を見ると、カウンターに突っ伏したままの段田さん。


「……はい。段田さんは我々が責任を持って家まで送ります。大丈夫です」


妙な流れになってしまった。

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