第24話 お手本

「出でよ! 武蔵!!」


「ゴ治郎、来い!」


段田ダンジョンを前にして、2体の召喚モンスターが並ぶ。ゴ治郎はいつも通りだが、武蔵の背中は少し頼りなく見える。


シャベルで少し拡張した入り口をゴ治郎は慣れた様子で通っていく。一方の武蔵は、


「だ、大丈夫だ! 何かあったらすぐ戻してやる!」


チラリと振り返り、寂しそうな顔で鮒田を見ていた。戦っているときは感じなかったが、もしかしたら武蔵は本来、臆病な性格なのかもしれない。鮒田と離れただけでこんな表情をするとは……。


「よし、行って来い!!」


鮒田が発破をかけると、しぶしぶダンジョンに入っていった。


「鮒田。テントに入って武蔵と感覚を共有しろ」


「わかった!」


男2人、テントで目をつぶって座っているのは妙な絵だが仕方ない。これがリアルなダンジョンスタイル。


なにはともあれ、2体でのダンジョンアタック、スタートです。



#



段田ダンジョンの第1階層は裏庭ダンジョンと同じ、土で固められた洞窟といった趣きだった。当然灯りなんてものはないが、ゴ治郎は夜目が効くので問題ない。そこは武蔵も同じなようだ。


「おお! 凄いな!」


鮒田は感動しっぱなしだ。視界一面、ただの土しか見えないが凄いらしい。


騒いでいるのは鮒田だけで、2体はゴ治郎を先頭にして淡々と進んでいく。さて、そろそろ出そうだな。



少し行ったところでゴ治郎が止まった。敵の気配を感じたのだ。


「敵だ。一体目はゴ治郎がお手本を見せる」


「わかった! 武蔵、よく見ておけよ!」


ブイ。という返事をゴ治郎の聴覚が拾う。武蔵はゴ治郎のすぐ側にいる。


ゴ治郎が腰のホルダーから鉄のナイフを2本抜いて構えた。裏庭ダンジョンの第2階層で苦労して集めたものだ。ナイフ二刀流はロマン。


「コボルトだ!」


鮒田の言う通り、二足歩行の痩せた犬が姿を現した。手には棍棒を握りしめており、こちらに気付いてそれを振り上げ走り始める。


「ゴ治郎、受け流しの練習だ」

「ギギッ!」


ゴ治郎が前に出て足を止めた。コボルトの棍棒が迫り──。


「ウォン!?」


ナイフの背でそらされた棍棒は地面を叩き、コボルトはよろけた。ここで仕留めるのは簡単だが、今日は練習の日。何度も同じことを繰り返し、コボルトがふらふらになったところを静かに仕留めた。


「……これが戦いの経験値」


「そういうことだ。俺とゴ治郎は夏休みの間、ずっとこんなことをやっていた」


「強い筈だな! よし、武蔵! 俺達も受け流しの──」


「ストップ!! いきなり応用編にチャレンジするな! 武蔵はしっかり相手の攻撃を見て、ハンマーで受ける練習をしろ」


「ちっ。わかった! 武蔵、受けるんだぞ!」


「……ブイ」


ゴ治郎の視界に映った武蔵の様子はひどく不安そうなものだった。

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