第19話 鮒田という男

「探したぞ!!」


久しぶりの大学。ゼミの教授に挨拶して部屋を出たときのことだ。その男は待ち伏せしていたかのように現れた。


「……どちら様で?」


「ふははははっ! 夏休みでボケてしまったか? 我が親友にしてライバル、水野晴臣よっ!!」


「頼む。声のトーンを下げてくれ。めちゃくちゃ見られてる。あと何度も注意しているが、フルネームで呼ぶな」


通りすがりの女子学生2人組が目を剥いてこちらを見ている。突然、小太りの男が「ふははははっ!」なんて笑い方をしたのだ。仕方がない。


「女さんに見られようと関係ない! 俺はお前に用があるのだ!!」


「はぁ……何を言っても無駄かぁ」


この男は鮒田武ふなだたけし。都内に幾つものビルを持つ鮒田不動産の跡取り息子にして、小太り。その尊大な態度から女性に嫌われがち。ゼミが一緒になった縁で話すようになったのだが、何故か親友にしてライバル認定されてしまって早数ヶ月経つ。


「み、晴臣! 夏休みはどうだった?」


えっ。なんだよその漠然とした問い。


「……それなりに充実していたかな」


「そうかっ!」


「……」


「……」


なんだこいつ。聞き返して欲しいのか? 仕方のない奴だ。


「鮒田はどうだった?」


「よくぞ聞いてくれた! これを見よ!」


そう言って鮒田は手の甲をこちらに突き出した。指には宝石のついたリングがある。


「えっ、婚約したのか!?」


「馬鹿者!! 俺が女さんなんかにうつつを抜かすような男に見えるか!?」


女性に相手されないだけだろ。


「これはっ! いま世間を騒がせている召喚石だっ!!」


なるほど。確かに薄ピンク色の石は点滅を繰り返している。模様もあるし召喚石だろう。


「おいっ! なんで驚かないんだ! 夏休みに苦労して手に入れたんだぞ!!」


「おぉ、凄いな」


「リアクションが薄い! ほら、もっとよく見てみろ! 見たいだろ?」


「……別に」


俺だって召喚石は毎日見ている。今更、リアクションを求められても困るのだ。


「ははん。分かったぞ! これが本物の召喚石か疑っているな?」


「いや、本物だと思うぞ」


「いーや、疑っている! 夏祭りのくじ引き屋台に向けるような視線だ!!」


「妙な例えで言い掛かりをつけてくるな」


「証拠を見せてやる! ついて来い!」


そこまで俺のリアクションが気に食わなかったのか。鮒田は強引に俺の腕を掴んで歩き始めた。

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