第17話 東京へ

「ハルくん。これたくさん作ったから待っていって。新幹線で食べたらいいわ」


そう言いながら母親が渡してきたのは瓶詰めされた柚子ジャムだった。こ、これを新幹線で食べるのかぁ……。かといって受け取らないわけにはいかない。純粋な善意なのだ。


「……ありがとう。新幹線はともかく、もらっていくよ」


「苦くて美味しいわよー」


それは失敗した柚子ジャムだよ。母上。


「忘れ物はない?」


「大丈夫」


ゴ治郎の召喚石はお手製の革の小袋に入れ、首から吊り下げて懐に仕舞っている。自分でゴ治郎用の革ズボンを作ろうとして材料だけ買ってあったのだ。この召喚石には今年の夏休みの全てが詰まっていると言っても過言ではない。絶対に失うことは出来ないのだ。


「あっ、そうだ! 裏庭で蛇を見たから気をつけて」


「ええっ! 蛇!? 嫌だわー。お母さん裏庭行かない」


「その方がいいよ」


パッと見では分からないようにダンジョンの入り口は隠してあるが、見つけられたら面倒だ。


結局、裏庭ダンジョンの攻略は第2階層までしか進まなかった。続きはまた帰省した時だ。


「じゃ、行ってきます!」


「いってらっしゃい。次はお正月ね」



#



電車を乗り継いで東京へ向かう間、スマホで貪るように見ていたのは『リアルダンジョンwiki』だ。


ここにきてテレビやネットのニュースでもダンジョンやモンスターのことは取り上げられるようになっていたが、それはあくまで不可思議な出来事としてだ。このような情報には意味がない。俺はダンジョン攻略するため、ゴ治郎を強くするための情報が欲しいのだ。


リアルダンジョンwiki。


このwikiを立ち上げた人は間違いなく俺と同じように召喚石を持つ者、召喚者だ。サイトの構造がダンジョンを攻略するため、モンスターを強くするための情報が集まるようになっている。


何せメニューのトップにあるのが"召喚石を手に入れるには"という項目だ。召喚者を増やそうとしているのだ。


俺が1番興味を持ったのはメニューは"日本ダンジョンマップ"だ。ダンジョンはパブリックとプライベートに分けられて記載されている。


パブリックは国や自治体が所有・管理する土地に発生したもの、プライベートは企業や個人が所有する土地に発生したものだ。裏庭ダンジョン、水野家のプライベートダンジョンは当然載っていない。


ふん。パブリックダンジョンは基本的に立ち入り禁止になっているのか。研究機関にのみ開放と書かれていたりする。


そしてプライベートダンジョンには──。


「高っけぇ」


10時〜18時貸し切り5万とか6万と書かれていたのだ! 思わず電車内で声を出す程の驚き。東京でダンジョンアタックするにはこの金を工面する必要があるのかぁ……。


今やっているバイトじゃとても足りない。


俺は『リアルダンジョンwiki』を閉じ、アルバイト求人サイトを検索するのだった。

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