第6話:追放と融合

「しかし、すぐに家を出ていかなくても・・・」

ですが、早い方がいいのも確かです。

「で、あれば・・・せめて最低限の選別はさせてくれ」

援助してくれると言うなら、それには甘えよう。

できれば隣の領地までは安全に移動したい。なんせ最弱な上に使い魔の居ないテイマーだから・・・

スライムもどこかで手に入れないと・・・

「金貨・・・いや、銀貨の方が便利か・・・すぐに用意しよう」

現金は最低限でいい。嵩張るし、奪われる可能性もある。私は弱い。いや、さらに弱くなった。

それはさっきのステータスが証明している。

この領地では白が不吉な色。

どこにいけば・・・人の多い王都?あそこなら多数に紛れることもできるかも?

しかし、その分危険も多い。

隣の領地程度では私のことを知ってる人が多いかもしれない・・・

特別なことをすると目立つ。別の領地に行くまでは目立たない方が良い。

そうすると乗合馬車かな?あれは誰が乗っていてもおかしく無いはず・・・


教会からほど近い噴水広場から馬車に乗れたはず。

少し離れたそれほど大きく無い街、ウバ侯爵領のトールの街あたりかな?

そこそこの規模で冒険者ギルドの支部もあったはず。

ここからの乗合馬車も出ている。問題は路銀かな?

乗合馬車なんて乗ったことがないから金額がわからないし、その価値もわからない。

何がいくらで、その金額を手に入れるのがどれくらいの労働の対価なのか・・・

何も知らない。そんな勉強はしてこなかった・・・

そもそも、普通の冒険者はどうやって移動している?それすらも知らない・・・

-歩いて移動なんだよ!-

また、頭の中に声が響く。歩いて?一体何日かかるんだろう?

1日でたどり着けるの?食事は?寝る場所は?

しかし、この体は普通の冒険者よりも弱い。おそらくダントツに・・・

徒歩での移動は無理だと思う。魔物や盗賊に襲われることが無かったとしても体力がもたないよね?

-1人で野宿は危険なんだよ-

うん、そうだよ。やっぱりまずは乗合馬車だね。

それにしてもさっきから頭に響いてる声は一体・・・

-私はあなたであって、あなたは私でもあるんだよ-


「旦那様用意してまいりました」

ベスタが父様のところに走って戻ってきた。

手に持ってる袋はお金が入っているのだろう。結構重たそうだ・・・

「ヒルデ、これは僅かだが、持って行きなさい」

パッと見た感じ銀貨がたくさん・・・おそらく100枚?金貨1枚分の銀貨だと思う。

重い、これを持って移動するのは厳しいかもしれない。

-お金はいくらあっても困らないんだよ-

そうだね、無いと困るけど、あり過ぎて困ることは少なそう。持ち運びとか?

-収納スキルや魔法の鞄があれば大丈夫なんだよ-

それはどっちも無い。収納は伝説のスキルだし、魔法のカバンは高価すぎる。


「ヒルデよ、先程から誰と話しているのだ?」

頭の中に響くもう1人の自分でございます。

目が覚めた時から頭にもう1人の声が響いているのです。

「それは一体誰なのだ?」

私自身とのことでした。どうやら、この身体に宿るもう一つの魂とでもいうべき存在のようです。

-もうじき一つになるんだよ-

そして、間も無く私との融合を果たすようです。

もう1人の自分はかなりの知識を持っているみたいです。

冒険者としての生活もどうにかなりそうです。


父様に手配してもらって、トールの街行きの乗合馬車に乗った。

ちょうど出発間際だったのは運が良かったのか?

しかし、これで時間が出来た。頭の中のもう1人の自分との意識合わせを行おう。


あなたはもしかして虹色の雷?

-白ウサギと呼ばれたことはあるけど、虹色の雷とは言われたことないんだよ-

白ウサギ?もしかして、真っ白なのはそのせいかな?確かに鏡を見て自分でもそう思ったし。

-お薬を作った時には虹色に光ったんだよ-

それか・・・多分その虹色の光だ。どうしてここに?というか私の中に?

-前の世界から逃げてきたんだよ-

前の世界?異世界から来たってこと?

-神様が世界を終わらそうとしたから、新しい世界を作ったんだよ-

それがこの世界?私が世界を作ったってこと?

-大体合ってるけど、今の私にはもうそんな力は残ってないんだよ-

前の世界とこの世界の関係性は?

-ベースは同じなんだけど、時間がなかったから細かいところは違うかもしれないんだよ-

前の世界についての情報が頭の中に流れ込んでくる。

チョコレート大陸やザッハトルテ王国なんて言う国は知らない。

-難易度設定がルナティックしか選べなかったからね。それも関係してるかもしれないんだよ-

どうやら最高難易度の世界らしい。

おそらく、その結果が私のステータスなんだろう。


わかったことがある。

・以前の世界ではみんなが幸せになれる世界を目指して色々やらかしたこと。

・そのせいで神様との戦いになり、世界が終了したこと。

・自分自身は最弱だったけど、世界最高峰の仲間を多数集めたこと。


そして、さらに追加されたのがこれら。

・以前持っていたアイテムボックスや神薬調合のスキルの消滅。

・レベルが元から最高値になっている。

・呪いが1つ増えている。


-精霊使役や鑑定解析も無くなっちゃったんだよ・・・困ったね-

今回追加された「神力封印」の呪いのせいだと思う。名前もそれっぽい。

鑑定のスキルや収納のスキルがあれば、薬草採取が楽だったらしい。

今回はそれすらも封じられている。これが最高難易度ってことなのかな?

最高難易度なのはあくまでも私の人生が最高難易度ってことらしい。

おそらく、前の世界の仲間も1人も居ないと思う。


-1人は大変だから仲間を集めたいけど、仲間が強過ぎても神様の介入が怖いんだよ-

神様はこの世界の存在を知らないんじゃないの?

-それはあくまでも現時点でのことなんだよ。希望的観測は危険なんだよ-

では、神様はそのうちここを突き止めると言う前提で生活をすると・・・

そして、あくまでもスローライフを目指す。貧乏は敵だけど贅沢も敵。

適度に強くて裏切らない仲間を見つけないと。

唯一のスキルであるテイム。スライムしか仲間にできないけど・・・

-スライムも個体によってはすごく強いんだよ-

最弱の魔物じゃないの?

-前の世界ではピンクのスライムはドラゴン並みの強さだったんだよ-

信じられない・・・

-あとは黒いスライムもすごく強いんだよ-

でも、そんなのは滅多に居ないんでしょ?

-大迷宮の下層まで行かないと出てこないかもね?-

無理だ、そんなところ行けない。死んじゃうよ・・・


まずは冒険者にならないとね、話はそれからなんだよ!

私の体がほんのり虹色に光った気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る