第十七話 最強の陰陽師、魔王城に着く
すべての王を集め終えた、その翌日。
「……ここが、そうなのか」
ぼくは、古びた巨大な城を前にしていた。
帝国の城とは建築様式が違う。なんというか、禍々しい造りだ。
「『ええ、その通りです魔王様』と、王は仰せでございます」
アトス王の言葉を伝える、銀の悪魔が言う。
「これこそが、魔王城です」
****
なぜそんなところにいるのかというと。
「……拠点を移せないかな」
昨日。
夜の空を飛び、王たちと共に菱台地の里に戻ったぼくは、今後どこに滞在するべきか悩んでいた。
「ここにいればいいの。ワタシがいればなにも不便はないの」
リゾレラはそう言っていたが、できればそうしたくない事情があった。
「……どうも、見られてる気がするんだよな」
確証はないが、おそらくこの勘は当たっていた。しかも日を追う毎に、監視の目は強くなっている気がする。
そもそも神殿という権力を持つ組織のお膝元で、こそこそ話し合いをするなど無理があった。特に各種族の王族と魔王などという、誰もがその動向を気にする者たちであればなおさらだ。
「そうかもしれないけど……別に気にする必要はないの。聞かれて困る話をするわけでもないの」
「なんとなく嫌なんだよ。権力者連中に嗅ぎ回られるとろくなことにならない」
神殿と関わりが深いであろうリゾレラは不満そうにしていたが、前世での経験があるぼくは譲る気になれなかった。
と、その時。
「ん?」
つんつんと、アトス王がぼくの腕を突っついてきた。
それから、従者である銀の悪魔に耳打ちする。
「はい、はい……。『それならば、魔王城はいかがでしょう』と、王は仰せでございます」
「魔王城?」
「『前回の魔王が築き、居城としていた建物です。あそこならば住んでいる者はおりませんし、何より――――』」
そこで銀の悪魔は、わずかに間を空けて言った。
「『魔王様のご滞在にふさわしいかと』と、王は仰せでございます」
****
そうして翌日の午後。
準備を整えたぼくたちは、さっそく魔王城へとやって来たのだった。
「え~、こんなところに泊まるの~? フィリ、廃墟なんていや!」
「まさか五百年前に建った廃城が今晩の宿とはの。まるで浮浪者のようじゃ。余の格も、ついにここまで落ちてしまったか……」
不満たらたらのフィリ・ネア王とプルシェ王に、アトス王は少しムッとした様子で従者に耳打ちする。
「『かつての魔王城になんてことを言うのか。それに、ここは決して廃墟などではない』と、王は仰せでございます」
その意味は、城に入ってすぐわかった。
「思ったより綺麗なんだな」
埃も少なく、しかもあちこちに修繕された跡まである。
明らかに人の手が入っているようだった。
「ここは、実は観光地でもあるのです」
銀の悪魔が言う。
アトス王に耳打ちされてはいないので、この従者自身の言葉であるようだった。
「旅の魔族が今でも時折訪れます。そのため、近くにある悪魔族の村の者が定期的に手入れしているのです。旅の者は必ずその村に滞在することになるので、魔王城へ訪れる者が増えれば、それだけ村が潤うということでしょう」
「うわぁ、すごい現金な理由……」
魔族にとって歴史ある遺産だから……みたいなわけでは全然なかったらしい。
フィリ・ネア王が瞳を輝かせる。
「へ~、ここ観光資源だったんだ! その村の人たち頭いいんだね! フィリ、そっちの方が気になる!」
「まあ……このくらいなら許容範囲かの」
キョロキョロと城内を見回すプルシェ王も、どうやら機嫌を直したようだった。
シギル王が、ヴィル王とガウス王に言う。
「おれ……実はけっこうわくわくしてるんだよね。非日常って感じでさ。お前らは?」
「オレもだ! 集落から外れていて兵もいない、警備もクソもない城だが、モンスターが襲ってきてもオレが守ってやるから心配するなよな!」
「僕、魔王城は一度自分の目で見てみたいと思っていたんだ。だから来られただけでも満足だよ」
少年王らも楽しそうにしている。
ぼくはふと、城の内装をじっと見つめるリゾレラに目を向けた。
「君も初めて来るのか?」
リゾレラはぼくに向き直ると、首を横に振り、静かに答える。
「もう、何度も来ているの」
「ふうん。そうなのか」
意外と旅好きなのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。