第十九話 最強の陰陽師、合格する


 合格発表当日の朝。


「うう、緊張する……」


 青い顔をしたイーファを引っ張って、ぼくは学園ヘと向かった。


 正門を通ってすぐ、巨大な掲示板が置かれている。


「あ、あれみたいだよイーファ」

「セイカくんっ!」


 がしっと袖を掴まれる。


「もし落ちてても従者としてがんばるから捨てないでぇ……っ」

「わ、わかった、わかったから」


 えーっと、ぼくの名前は……あ、あった。

 筆記六〇〇点、実技一二〇点の、計七二〇点。

 上から三番目だ。


 筆記はたぶん満点だろう。

 実技が思ったよりも低かったが、順位的にはこんなものだろうな。

 いつの時代にも天才はいる。


 で、二位の名前は……、


「って、イーファ!?」

「わ、わわわわたし二番目!? や、やったよセイカくん!!」


 筆記五九〇点、実技二〇〇点の計七九〇点。


 えー……なんかショック……。


「ぼ、ぼく三属性も使ったのにイーファより実技八〇点も低いの……?」

「ほんとだ……」


 イーファは考え込む。


「もしかして、的を壊さなかったのがいけなかったんじゃ……」

「た……確かに!」


 イーファは火と風の二つで二〇〇点。

 対するぼくは土の一つだけで、一二〇点。

 二〇点が火と水の部分点、ということならば……つじつまは合う。


 つまり、あのいかにも的を壊してほしくなさそうだった試験官の言動。

 あれは受験生を惑わせる罠だったのか。


「おめでとうイーファ」


 ぼくはイーファに向き直る。


「試験官の言葉や反応に惑わされず、容赦なく無慈悲に的を破壊したイーファの冷酷な判断が実を結んだんだ。まだまだ甘さが残っていたぼくの負けだよ」

「う、うん……なんか、人でなしって言われたみたいで複雑だけど……あ、ありがとうセイカくん。あの、わざとじゃなかったからね?」


 こうして弟子は師を超えていくんだな……。


「それよりセイカくん」

「何?」

「セイカくん、暗記科目は満点じゃないと話にならないってさんざんおどかしてきたけど」

「うん」

「わたしとセイカくん以外、みんな筆記は五〇〇点以下だよ」

「え……? あっ」


 本当だ。

 なんでだ? あんな簡単な試験だったのに。前世の文章得業生試や宋の科挙だったらありえないはず……、


 いや待て。

 これ、そういえば十二歳が受ける試験だったな。

 ……さすがにエリート役人になるための試験と同じに考えるのはまずかったか。


「えっとその……き、気合いを入れるためだったんだよ! なにせ試験まで半年しかなかったから」

「うん、そういうことにしておくね。感謝してるのは本当だから」

「……」


 なんかこう……圧が来るな。

 イーファはなるべく怒らせないようにしよう。


 あれ、待てよ。

 筆記が全員五〇〇点以下?


 じゃあ一位の成績は……、


「……!」


 見て、驚いた。

 合計一〇二〇点。

 うち、実技が六〇〇点。


 名前は――――アミュ。


「すごいよね……アミュってあの、赤い髪の子だよね」


 イーファの声にも答えられず、ぼくは掲示板を凝視する。


 へえ。


 これはひょっとして……早速見つけられたかな。

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