第十五話 最強の陰陽師、旅立つ
そしてまた半年が経ち、春になった。
「それじゃあ、セイカ。忘れ物はないかい?」
見送りに来てくれたルフトが言った。
荷物は、すでに馬車へ積み終えている。
「大丈夫だよ。それにしても、見送ってくれる家族が兄さん一人とはね」
「仕方ないだろ」
ルフトが苦笑する。
「父上は今帝都だし、グライは軍。母さんは……」
「冗談だよ。兄さんさえいれば十分だ」
「口が上手くなったもんだよ。……イーファ。こんな弟だけど、助けてやってくれよ」
「は、はい! ルフト様……ふぁ……あ、す、すみませんっ」
あくびを漏らしたイーファが小さくなる。
「セイカ、また遅くまで勉強させてたのかい?」
「そりゃあもちろん。試験に合格しなきゃ学園には入学できないんだからね。ぼくもだけど」
「あまり根を詰めすぎるのもよくないぞ。でもそうだな、ここからロドネアまで七日は馬車だからその間は……」
「馬車の中でも勉強だけどね」
「ええー……セ、セイカくん……」
イーファが何か言いたげだが、時間が全然足りなかったんだから仕方ない。
「だけど、セイカもずいぶんイーファに入れ込んでるな」
ルフトが笑いながら言った。
「ん?」
「そんな首飾りなんてあげてさ。安くなかっただろ。見目のいい従者をあまり着飾らせていると噂になるぞ?」
「何か勘違いしてるみたいだけど、この宝石みたいなの全部魔石だからね。これも学園生活のためだよ」
「……?」
イーファの次なる目標は、精霊にお願いして魔法を使うことだ。
そのためには精霊が周りに常にいてほしいところだが、残念ながらイーファには魔力がほとんどなく、魔力に集まる精霊は普段あまり寄ってこないらしい。
そこで、代わりに魔力を蓄えた鉱物、魔石を利用しておびき寄せることにしたのだ。
二人で山に入り、あちこち歩き回っては精霊の集まる露頭を探した。
冗談じゃないくらい大変だったけど、その甲斐あってかそれなりに質のいい原石をいくつか見つけられたので、街で加工してもらい首飾りにしたのだ。
イーファ曰く、結構集まってきてるらしい。よかったね。あの苦労も報われるよ。
「うーん、やっぱりセイカの考えることはよくわからないな」
「よく言われる。じゃ、そろそろ行くよ。ルフト兄」
「気をつけるんだぞ。あと休暇には顔を見せてくれよ」
「考えとく」
そう言って、ぼくはさっさと馬車へと乗り込んだ。
その後からイーファも乗ってくる。
「イーファ。どう、楽しみ?」
「うん、楽しみだよ! セイカくんは?」
「そうだなぁ……」
ぼくは馬車の窓から外を見やった。
そのずっと先に広がる、異世界の街並みを想像しながら。
「……ぼくも少し楽しみだよ」
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