第4話 魔王、コンビニに入る
「うぅむ……ここはどこだ」
学校から出たはいいものの、土地勘の無い俺は当て所なく歩いていた。辺りには多様な格好をした人間たち。しかしその多くは、今の俺のような学生が多数を占めている。ひとまず、俺と同じ制服の人間についていけば何か得るものがあるかもしれない。
そう思い歩き始めると、前方にどこかで見覚えのあるオニキスを彷彿とさせる長髪が目に入る。
「ん? あれは…………今宮ユウリ、か」
どこに行ったかと思えば、こんな所で出くわすとは。やはりユウリと俺は運命で繋がっているのかもしれんな――――勇者カリンと同じように。
一定の距離を維持しつつ後をつけていると、ユウリはとある施設に躊躇せず入っていった。緑を基調とした黄色と赤色が混じった看板。7という数字が見える。
「ほう、ここは……!」
俺もすぐさまその施設に入る。
するとそこには幾多のアイテムがこれでもかと並べられた、まさに夢のような空間が広がっていた。整然と並べられたアイテムはおそらくこの施設の商品だろう。おまけに温度管理まで行われ、鮮度も損なわれることなく保管されている。
これはかなりの手間暇がかけられた高級店に違いない。俺の見立てでは、恐らくひとつひとつがヘルヘイムでいうところの百万ペスカに相当する価値があると見た。
店に入ると、色とりどりの容器に入った液体がずらりと保管されていた。種類ごと、もしくはアイテムのランク毎に区切られているのか。それとは別に、中身の見えない容器に入ったものまである。その容器には、5%だとか8%と言った何かの効果が書かれた数字が書かれてある。恐らく、これを摂取した際の体力の回復割合なのだろう。つまりパーセンテージが高いものほど上級アイテムだということか。
「ふむ……となると、これがよさそうだ」
俺は”ストロングゼロ”と書かれたアイテムを手に取る。このアイテムの回復量は脅威の10%。これで、何かダメージを受けた時にもひとまず安心だ。本来なら最低十個は購入しておきたいところだが、あいにく手持ちの金で足りるかわからない。試しに一つ購入して、それから様子を見るか。
そうして俺が”ストロングゼロ”を持って動き出そうとした時、隣から華奢な腕が伸びてきた。不愉快な事に、その腕は俺の腕をぎゅっと握りしめる。
「何してるのかしら…………山田君」
か細い腕の持ち主が、力強い意志を込めた声で俺に口を開いた。
「……今宮ユウリ。何用だ?」
「それはこっちのセリフ。未成年がお酒買っちゃダメよ」
「酒……? これは酒なのか?」
「えっ? もしかして知らなくて買おうとしたの……?」
「あぁ。だが確かに、今は酒の気分じゃないな」
「気分の問題じゃないでしょう。この国じゃ法律で未成年の飲酒は禁止されてるのよ?」
ユウリはそう言いながら、俺が手にしていた”ストロングゼロ”を元の場所に戻した。そしてジトッとした目で俺を睨む。
「……なんだ?」
「いや、別に…………不良かと思ってビックリした」
「フリョウ? なんだそれは」
「ヤンキー。はみ出し者。クズ。イキり…………どう? どれかわかる?」
どれもピンと来ない言葉だ。だが言葉のニュアンスからすると、フリョウとは恐らく素行が悪い者の事を指すのだろう。
「残念だが、どれもわからないな。しかし俺はフリョウなどではない。俺は魔王フェルツ――それ以外の何者でもない」
「それはもういいわよ……で、コンビニに何しに来たの?」
「たまたま、お前がここに入るのを見かけてな」
「えっ…………」
「何だ? あぁそうだ、ニッチョクというやつ。俺が代わりにやっておいたぞ」
「あ、そうだった…………」
ユウリは絶望にも似た表情を浮かべる。ユウリにとって相当重要な使命だったのだろう。
「山田君……その、ありがと。お礼……ってわけじゃないけど、ジュース一本おごるわ」
「借りは返す――という事か。いいだろう」
そしてユウリは、黒く細長い容器に三本の引っかき傷のようなものが描かれたアイテムを購入し、俺に渡してきた。
「はいっ。せっかくだし……公園でも行く?」
「あぁ、構わん」
俺たちは店を後にした。
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