人喰い鬼・第2話
翌朝、霧斗と晴樹が出勤準備をしていると、ニュース速報のテロップが流れた。それは昨日のような猟奇殺人がまた起きたことを告げていた。それと同時に今までご当地情報を流していた番組がニュースに切り替わる。2人目の犠牲者について知らせたのは顔色の悪い若い女性キャスターだった。
2人目の被害者は服装から女性と判断された。発見されたのは隣町の郊外にあるゴミ置場。そこに千切れた両手両足と胴体の一部が放置されていた。今回頭部は見つかっていない。そして、胴体はやはり獣にでも喰われたかのような有り様だった。
「なんか、昨日より惨いわね」
「そうですね。胴体の一部しか見つかっていないということは、本当に喰われたのかもしれませんね」
「クマか何かがいるってこと?」
さすがに青ざめている晴樹の言葉に霧斗は首を振った。
「さすがにこの辺にクマはいないでしょうし、いたとしても手足は喰わずに胴体だけというのは不自然です。何者かが明確に胴体を狙って喰っていると考えるほうが自然です」
「胴体に何かあるの?それに、今回は頭部も見つかってないわよ?」
晴樹の問いに霧斗は苦笑した。
「何を狙って胴体を喰っているのかはわかりません。ただ、頭部については喰った、あるいはなんらかの理由で持ち去ったと考えられます」
「頭なんか持っていってどうするのかしら。見つかったらそれこそ即逮捕でしょうに」
「まあ、世の中いろんな趣味の人がいますから」
霧斗の呟きに春樹はドン引きした目を向けたが、霧斗は困ったように肩をすくめた。
ふたりがカフェに出勤すると、すでに楓が朝の掃除を始めていた。
「楓ちゃん、おはよう。毎朝ごめんなさいね?」
「かまわない。暇だからやっているだけだ」
掃除をさせてしまうことに申し訳なさそうにする晴樹だが、楓は気にしたふうもなく毎朝掃除をしていた。霧斗が見るに、人間のように生活していることを楽しんでいるようだった。
「ところで、今朝も猟奇殺人とやらはあったのか?」
「そのようだ。ニュースでやってた。でも、なんで知ってるんだ?」
テレビを見ない楓が知っているとは思わず霧斗が首をかしげると、楓は店の前を歩く人間たちに目を向けた。
「ここを歩く者たちが話しているのが聞こえた。私は耳がいいからな。聞く気になれば、ここからでも外を歩く者たちの会話くらい聞こえる」
「すごいのね。じゃあ今朝は猟奇殺人の話をしている人たちが多かったってこと?」
感心したように言う晴樹に楓はうなずいてモップを片付けた。
「今度は女が殺されたのか?女たちのほうが多く話題にしていたように感じた」
「正解。今回は女性らしい。ただ、前回と違って胴体は一部しか見つかっていないし、頭部も見つかっていない」
霧斗の言葉に楓は少し考える素振りを見せた。
「女の肉は男のものより美味いと聞く。女なら、見目もいいかもしれないしな」
「楓ちゃん、それって、獣とかじゃなくて、何か別のモノに喰われたってこと?」
楓の言葉に晴樹が青ざめながら尋ねる。楓は肩をすくめながらうなずいた。
「私は人間は喰わんが、妖の中には人間を喰らうものもいる。魂を抜き取って喰うものから、文字通り肉を喰うものまでな」
「今回の事件も人間を喰う妖の仕業だと?」
「可能性があるというだけだ。頭がイカれた人間の仕業とも限らんしな。隣町の話なのだろう?ここからでは何もわからん」
楓の答えに霧斗は納得したようにうなずいた。
「確かにな。青桐も何も感じないと言っていた。ちなみに、人間を喰う妖は同じ妖であるお前や青桐も喰ったりするのか?」
「さて、それは犯人が誰かにもよるだろうが、仮にこれが妖に仕業だとするなら、犯人は頭の悪い奴だろう。そうなると喰う喰わないに限らず、人間も妖も見境はないのではないか?」
「楓ちゃん、夜に出掛けるときは気をつけるのよ?」
見境がないという言葉に反応したのは晴樹だった。晴樹が心配そうな顔をして言うと、楓は驚いたような顔をしながらもどこか照れ臭そうにしてうなずいていた。
猟奇殺人の被害者は数日おきに増えていった。犯人については一向に手がかりがないと報道されていたが、被害者については身元が判明していた。
最初の被害者は現場の公園で寝泊まりをしていた40代の男性。次の被害者は帰宅途中に襲われたと思われる30代の女性。3人目と4人目は河原で発見された20代の男女。5人目は路地裏で発見された20代の女性。どの遺体も四肢を引きちぎられ、胴体も内蔵が様々なくなっていたが、必ず肝臓がなくなっていた。男性よりは女性のほうが胴体の損傷が激しく、決まって頭部が見つからなかった。
「ねえ、きりちゃん。犯人、やっぱり人間じゃないのかしら?」
「そうですね。ここまでくると人間の仕業とはちょっと考えにくいですね」
「恐らく肝を狙っているのだろうな。四肢は邪魔だから引きちぎった。女は肝以外も美味かったんだろう。頭部は収集癖でもあるのか?」
霧斗の言葉を楓が補足する。晴樹は気持ち悪そうな顔をすると椅子に座った。
「5人目の被害者が見つかった場所。隣町だけどこっちにも近いじゃない?これ以上被害が広がらなければいいけど」
「そうですね。とりあえず、楓はこのままここで寝泊まりして大丈夫なのか?」
「私が負けるとでも?」
狙われるかもしれないと気遣う霧斗に楓が不機嫌そうな声を出す。だが、晴樹がハッとしたように顔をあげて楓の肩を掴んだ。
「そうよ!楓ちゃん、今日からうちにいらっしゃい!何かあったら大変よ!」
晴樹のあまりの剣幕に楓は何も言えずに困惑したようにうなずいた。
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