第6話 発掘された絵 5
結局、食事だけでなくアマリーの家で一泊させてもらったルーチェは、ますますこの町への違和感を強くしていた。
火を使わずとも調理できる道具や、水が出てくる筒。食材を冷やして保存する箱など、ルーチェの知る魔導具をはるかに超える数々の道具があの家にはあった。しかも、どれからも魔力を感じないのだ。
食事をしながらネサや町について質問をしたのだが、その返答もルーチェを困惑させた。
「ネサはいい子よ。あの子がいてくれるから、私たちは生きていられる。そう感じるの」
「この町の名前? 特にないわね。ここは、ここ。それじゃだめかしら?」
理由や理屈はどうでもいい。自分がここにいるのが当然。
そんな反応に不自然さを感じるのは当然だった。
さらにいえば、食事をしても腹が満たされなかった。味は感じたのだが、まるで霞をたべているかのようで現実感がなかった。
町を歩き、他の住人にも話を聞いても反応はアマリーと同じ。全員が全員、町の名前も気にせず、ネサを無条件で信頼している。ルーチェはこの町の────いや、この町と森すべての謎をネサが知っていると判断した。
空腹に耐えて捜すこと一時間ほど。町のはずれで森から出てきたネサを見つけた。
「ネサ、質問があるんだけど」
「なあに、お姉さん」
「ここは……どこなの?」
「……」
「あまりにも私がいた場所とは違いすぎる。建物とか、道具とか……そう、文明が違いすぎるわ。もう一度訊くわね。ここは、どこ?」
元の場所にもどらなければならないのだ。焦りから少し強い口調になってしまったが、ネサは怯えるどころか予想外に笑顔を見せた。
「そっか。もしかしてと思ったけど、お姉さんは外の世界の人なんだね」
「外?」
「ついてきて」
ネサは踵を返して再び森へと入っていく。ルーチェも黙ってあとを追う。
獣道とは違う小さな道を、木々を縫うように歩いていく。踏み固められた小道は、定期的にネサが歩いている証拠だった。
「お姉さんは、六降魔星の話、知ってる?」
「それって……神話時代の話でしょ?」
ネサの質問にルーチェは戸惑いを隠せない。
遙かな昔、天より悪魔が降ってきた。
それらは六つの悪魔。すなわち、不浄、狂気、汚染、疫病、異形、呪いだ。
神々は総力を結集して迎撃したが、大地に降ろした時点で手遅れだった。悪魔は大地を穢し、水を腐らせ、風を止め、命を捻じ曲げた。いくつもの国が亡び、森が消え、大地が海に還った。
悪魔を無に帰し、大地を浄化の炎で焼き払った後には、栄華を極めた文明は消え去っていたと神話には記されている。
「月の女神が悪魔の襲来を早くから警告していたらしいんだけどね、平和に慣れた神々は耳を貸さなかったんだって。だから月の女神は、自分への信仰に篤い人々に警告を発したの。悪魔が去るまで別の世界に逃げなさい、って」
「それって……」
ルーチェがなにかを言う前に、不意に森が開けた。そこには巨大な塔があった。
入り口らしき扉には手をかける物がなにもなかったが、ネサが脇にあるガラスの板に手を押しつけると、音もなく扉が開いた。
ネサに誘われ、塔に踏み入ったルーチェは長い通路を通り抜け────それを見た。
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