117刀目 曾孫です
筋肉隆々の大男が、小柄な少女を抱きしめているという状況。
男とベガは知り合いのようだが、明らかに事案すぎる絵面なので蒼太が間に入って止めた。
魚座のピスケ、牡羊座のアリエスの少年組が『接触した理由がわからない』と言う以上、この状況の説明に1番適していそうなのは男だ。
男はまだベガと話したりない様子であったが、蒼太の視線に気がついたのか、目を丸くして両手を口元に持ってくる。
「あらやだ、
ベガの事案絵図のこともあり、返答次第では刀の錆にすることを蒼太が考慮していると、男はくるりと一回転。
ベガのような早着替えで燕尾服を身に纏った男は、深々とこちらに向かってお辞儀をした。
「
「ベガの師匠ですか……初めまして、秤谷蒼太です。蒼太って呼んでください、カプリコさん」
「カプリコじゃなくてリコって呼んでちょうだい。よろしくネ」
よろしくネの後にハートマークを浮かべてるかもと思うぐらい、お茶目な口調でカプリコは語る。
青っぽいアイシャドウが施された瞼でウィンクをする姿はとても自然で、燕尾服でありながらメイド長のような品があった。
「じゃあリコさんで。それで、リコさん達はどうして態々、こちらに接触してきたんですか?」
カプリコも候補者と名乗ったのであれば、蒼太達と彼らは敵同士。
それなのに接触してきた理由が読み取れなくて、蒼太はカプリコの側にいたベガを引っ張り、背中に隠した。
最悪、相打ちしてでもベガを逃してやる。
そんな覚悟でカプリコを睨みつけると、睨みつけられた彼はフッと笑みを浮かべて呟いた。
「アナタァ…………良い
両手を合わせて腰をクネクネと振るカプリコがにっこりと笑う。
よくわからないが、いきなり好意的になった気がする。
もしも好感度みたいなのが見えるのならば、初対面から急に親友並みに変化したような、明らかな変化。
質問にも答えてくれず、困惑している蒼太を他所に、カプリコは興奮した様子で話し始める。
「
やけに発音の良いボーイの言葉と共に、カプリコは両手の指で蒼太を指し示す。
ベガが心配、というのはわかる。
管理者によってヤバい薬を使われたと言っていたし、それを知っているのであれば、心配するのも無理はない。
しかし、蒼太が目的なのは理解できない。
相手の真意を図りかねていると、カプリコは謎のポージングを披露している。
服装は執事、気分はボディビルダーといったところか。
何を言っているのかわからないおかしな思考を受信した蒼太は、片手で頭を抱えつつも会話を続ける。
「えぇと、どうして僕に会いに?」
「アナタも薄々感じてるんじゃなぁい? アナタの……血縁について」
「ちょっ、師匠!? いくらあなたでも、坊ちゃんに変なことを教えるのは許さねぇっすよ!」
笑っていたカプリコが真顔で告げていた言葉に、黙っていたベガが慌てて乱入してくる。
しかし、カプリコはベガの乱入を跳ね除けて、蒼太に向かって告げた。
「秤谷蒼太クン、アナタはね……我が主人である管理者──サビクの子孫。まぁ、曾孫なのよ」
「あぁ、はい。そんな気がしてました」
「そうよね、ビックリ……え、知ってたの?」
カプリコはポカンと口を開き、ベガへと視線を向ける。
視線を向けられたベガは必死に首を横に振っているので、カプリコの視線は再び蒼太に戻ってきた。
「どうして知っているのか、聞いても良いかしら?」
「知ってはいないけど……何となく、何かあるだろうなぁとは」
「それでわかるって、最近の現地人はすごいのねぇ」
後ろでベガが「それは坊ちゃんだけっすから」と首を激しく横に振っているが、蒼太は見えないことをいいことに知らないフリをした。
蒼太が知らぬ存ぜぬを通しても、カプリコからはベガの訴える姿がハッキリと見えている。
弟子が困惑する姿を見たカプリコは苦笑を浮かべながら、カメラを取り出した。
「なら、
「会うのと写真はともかく、教え導くって?」
勝手に写真を撮り始めたカプリコからカメラを没収しながら質問すると、カプリコが「やーん」と聞き苦しい悲鳴を上げながら答えた。
「アナタはサビク様の理論上、理想の存在だからよ」
「理想の存在?」
「そう。
「はぁ……でも、僕とその管理者の人とは違うでしょ?」
蒼太は権能からも『どっちつかずの存在』と言われた少年である。
星の民でもない、とはっきりと言われている以上、同じ存在にはなり得ないはずなのだが、どうやら相手はそう思っていないようで。
何を言っているんだと目を細める蒼太に対し、カプリコは両手を胸の前でクロスさせ、ピースサインを作った。
「いいえ、唯一、現地人でありながら権能を持てたアナタなら、理論上は権能を【覚醒】できるはずなのよ……それも、《罪》と《徳》の両方のね」
キメ顔を見せながら、胸にクロスさせていた手を高く上げるカプリコ。
恰好つけているのはよくわかるのだが、また知らない知識が出てきたせいで、蒼太には伝わらなかった。
「ごめんなさい、そもそも権能の覚醒って何?」
「ズゴー」
流石はベガの師匠というべきか。
ベガと変わらぬノリで『滑りました』と効果音を自己申告して、態々砂浜に倒れる。芸が細かい。
「べべべ、ベガちゃん!? アナタ、ボーイに権能のことを教えてないのォ!?」
「んなこと言われても、まだコントロールも覚束ない子に覚醒なんて教えれるわけないでしょ!? 基礎もできてないんすよ、坊ちゃんは!」
上半身を起こして訴えかけてくるカプリコに、負けじと蒼太の前に出て言い返すベガ。
それでもカプリコは引き下がらず、両手をオットセイのように砂に手を叩きつけた。
「でも教えてくれないと困るのよ〜っ!」
「管理者の都合なんて知るわきゃねぇっすよ! アタシら星の民を巻き込むのも迷惑なのに、無関係な坊ちゃんを巻き込むな!」
「ボーイはあの方の子孫なの、十分関係者でしょ!?」
「そんな犯罪者の子供は犯罪者理論、アタシの目がピンクの内は通用させる訳ないでしょーがっ。師匠でもど阿呆と言わせてもらうっすよ!」
ぎゃー、わー、と怪獣大戦よろしく取っ組み合いを始める師弟に毛玉とキグルミの少年達が蒼太の後ろに避難してくる。
アリエスは「ひぇぇ」と震え、ピスケが「ぎょぉぉ」と頭を丸め、災害が過ぎるのを待っている。
「……なんで僕が蚊帳の外になってるのさ」
アリエスとピスケの頭を撫でて慰めてから、蒼太は怪獣大戦を終わらせる為、介入しに行くのであった。
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[後書き]
盛り上がってますが、次回は閑話です。
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