第20話 親友


 暗い廊下に、さらに暗い地下。階段を下りると、赤いランプのついた文字が浮かんでいた。倉庫。あたしは固い扉に杖を向けた。


「オープン・ザ・ドア」


 扉が開いた。あたしとトゥルエノが杖を構えながら中に入る。気配は何も感じない。トゥルエノがスイッチに電流を流してみた。途端に明かりがつく。中はとんでもなく広かった。備品が入っているであろう木箱が積み重なって置かれていて、フェンスでフロアが区切られている。フェンスの向こうには高さのある棚が設置され、はしご車が12台ほども用意されていた。しかし、人の気配はない。


「……ここ、だよね?」

「だと……思うけど……」


 歩き出すと、前方の地面に何かが置かれているのが見えた。


(ん。何あれ、ほこり……?)


 ゆっくり近づき、確認してみる。


(……あ、ネズミの死骸だ。ほこりかと思った)


 ネズミの周りにウジ虫がうごめいている。あたしは眉をひそめた。


「ルーチェ、何かあった?」


 右側を見てみた。


「ルーチェ?」


 ――魔力の正体がわかった。後悔しながらゆっくりと後退した。


「ルー……」


 トゥルエノが黙った。あたしは睨みながら杖を構えた。死角から近づいてくる。影がやってくる。赤い目をした巨大なネズミ。体中にネズミの耳や手や足や尻尾やつぶらな目がぱっちりと現れていて、その苦しみを出すかのように、巨大なネズミがあたし達に向かって大きく叫んだ。


「ルーチェ!」

「構えて!」


 狂暴化したネズミが突進してきた。あたしとトゥルエノが左右に分かれた。ネズミがドアにぶつかった。その隙に、呪文を唱える。


「時間泥棒やってきた! 出番だ! カシオペイア!」

「雷電よ、流れに沿って現れいでよ!」


 カシオペイアと名付けた巨大なカメがあたしの杖から出てくると、トゥルエノから出てきた雷電がカシオペイアに流れ、カシオペイアはそれはそれは見事な静電気亀となって鼻息を荒くさせた。ネズミが突っ込んできた。カシオペイアが甲羅に引っ込み、ぐるぐる回りながらネズミに突進した。しかしネズミはそれを高くジャンプすることで飛び越え、カシオペイアはあろうことか壁にぶつかって、ボールのようにコロコロ滑りながら高速回転を始めた。ネズミはそれをひょうひょうと避け、とうとう目を回して甲羅から出てきたカシオペイアに噛みついた。噛まれたカシオペイアはどろどろに溶けていき、水となって地面に溶けていった。


 あたしはもう一度杖を構えた。


「地面よ壁よ、姿を変えよ。我の思う通りの姿となりて、頭を見よ、思考を見よ、我はこの姿を求める」


 地面と壁が洞穴の中となり、ネズミは驚いたように辺りを見回した。洞穴の外では雷が鳴っている。トゥルエノが杖を構えた。


「空で聞こえる鬼の演奏。太鼓を叩いて和太鼓小太鼓大太鼓。祭りが始まる。息を吸って吐いてまた吸って叩けや叩け、落ちるぞ、雷」


 洞穴に向かって雷が落ちてきた。ネズミに命中する。ネズミが感電し、大きな鳴き声を上げてその場に倒れる。


(やった!)

「やったの!?」


 しかし、ネズミはすぐに首を振り、起き上がろうと体を揺らした。


(ひっ!)

「なんなの、こいつ!」


 ネズミが叫んだ。すると体から一匹ネズミがぽん! と飛ばされた。とても小さなネズミは誰よりも早く小さな四足歩行で走ってきて――トゥルエノに向かって噛みつこうと飛びついてきた。


「きゃっ!!」


 トゥルエノが間一髪のところで避けて、振り返る。赤い目をした小さなネズミがトゥルエノを睨む。トゥルエノが杖を向けて声を張り上げた。


「疾風迅雷、お断り!」


 雷がちゅん! と落ちて、小さなネズミに当たった。ちゅん! と言って小さなネズミが倒れる。しかし、その間に巨大ネズミが回復をしたように、ふらつきながらその場に再び立ち上がった。


「ルーチェ!」

(ふらついてる。効いてることは効いてるみたい。それなら……)


 あたしは魔力を集中させた。


「まぶしい太陽やってくる。直射日光にご注意!」


 杖から光が飛び出し、ネズミの目に向かって飛んでいくが、ネズミが前足で払ってしまった。光が壁に飛ばされる。


「うえ……」

「電流、地から流れよ、真っすぐに!」


 巨大ネズミに向かって真っすぐに電流が流れた。しかしそれを飛び越え、あたし達に飛んでくる。あたしとトゥルエノが慌てて走って逃げると、さっき二人で立ってた場所にネズミが着地した。倉庫内が地震のように揺れる。フェンスの向こうの棚からものが落ちた。巨大ネズミがうなった。あたしは杖を構えた。


(どうしようどうしようどうしよう!)


 考えるが何も浮かばない。

 このまま魔法を使い続ければ、いずれどちらか魔力がなくなるだろう。


(どうする)


 ミランダ様ならどうする?


(ミランダ様……!)


 巨大ネズミの足が12本になった。その足が一斉に走り出し、あたしに向かって駆けてくる。トゥルエノが唱えた。


「雷よ!」


 間に合わない。


「ヤミヤミ!」


 あたしが必死に早口で呪文を唱えると、ネズミの影を捕まえた。しかしそれはかなりの重量で、あたしは釣竿のように腕で杖を持った。すると12本の足が動こうと抵抗を始める。あたしは影をなんとか押さえ込むが、体が引っ張られそうになる。そこでトゥルエノが呪文を言い終えた。


「毛深き命に痺れを与えよ!」


 ネズミに電流が流れた。しかしネズミは赤い目をぎょろぎょろと動かし、体を痙攣させ、尻尾を揺らし、一度踏ん張ると――思い切り足を動かした。


「「っ!!」」


 トゥルエノの魔力が断ち切られ、あたしの魔力も断ち切られ、巨大ネズミが大きく叫んで、あたしに向かって突進してくる。


「ルーチェ!」

(やべえ! 死ぬ! 死ぬ! 死ぬ!! ちゃんと防御魔法勉強しておくんだった!!)


 ネズミが近づく。


(ミランダ様ーーーーーーーーー!!!!)





「いけない子にはお仕置きを。手足を縛って牢へと放て。暴れるようなら花が癒せ」





 巨大ネズミの体に蔓が巻き付いた。あたしとトゥルエノがはっと息を呑んだ。蔓が大きく揺れ、ぶんぶんと巨大ネズミを振り回し、大きく放り投げると、巨大ネズミが天井付近に向かって飛ばされて、壁に大きくめりこんだ。トゥルエノが顔を上げ、あたしが振り返ると――緑の瞳がいたずらが成功したような顔で笑った。


「ヒーローは最後に現れるってね」

「クレイジー君!」

「大丈夫? ルーチェっぴ」

「なんでここに……」

「魔力の気配がしたから。いやいや、まさかネズミだったとはね」


 クレイジーに手を引っ張られて立ち上がると、トゥルエノがあたしに駆けてきた。


「ルーチェ、大丈夫?」

「トゥルエノは?」

「平気」

「あたしも。……ありがとう。クレイジー君。……本当に助かった……」

「……」

「ん? ……どうかした?」

「……いや? ただ……」


クレイジーがあたしの耳に囁いた。


「好きだなって思っただけ。ルーチェのこと」

「……え? 今?」

「やだーーー! この子ちょードライガール! 俺っち結構真剣に言ったのにー!」

「いや、だって、そ、その話、もう終わった話……」


 クレイジーとあたしのやり取りを見たトゥルエノが――きょとんとした顔で自分の胸に手を当てた。そして、それは壁にめり込んだ巨大ネズミが落下する音と共に中断される。三人で振り返る。巨大ネズミが起き上がるのを見て、クレイジーが杖を構えた。


「とりあえず……ここから出た方がいいかも。急いで」

「行こう! ルーチェ!」

(確かに密閉空間だし、ここで魔法を使うのは危険かも)


 出口まで走り、クレイジーがドアを閉め、あたしとトゥルエノが暗い廊下に明かりをつけてホテルの廊下まで走った。後ろから巨大ネズミの唸り声が聞こえた。何かが破壊される音が聞こえた。後ろからクレイジーが全力疾走で走ってくる。


「やばいやばいやばいやばい!!」

(ひーーーーー!!)


 スタッフ以外立ち入り禁止の柵を跨いで、赤いじゅうたんで敷き詰められた廊下を走り出す。すると後ろから追ってくる音が聞こえて、あたしもトゥルエノも全力で走る。


(やばい! 脇腹いてー! 運動不足の証拠ー!)

「どこに行く!?」

「そっち!」


 クレイジーが指を差した方に走る。トゥルエノがついていく。あたしはふらついた。クレイジーが振り返った。あたしの手を掴んで、引っ張りながら走った。


(うわわわわわわ!)

「ユアン君! こっちって!?」

「そう! こっちは……!」


 左右両方の扉をトゥルエノとクレイジーが開けた。


「「メインホール!!」」


 ――巨大なドブネズミが扉に向かって投げ飛ばされてきた。


「うわ!」

(おわあ!)

「ひゃ!」


 クレイジーが手前に後ずさり、その背中にあたしが顔面をぶつけ、トゥルエノも後ずさり、扉が完全にドブネズミの体で埋められた。クレイジーが顔をしかめる。


「うわ、何? 向こうで先にパーティーナイトやっちゃってる感じ?」

「ユアン君!」


 トゥルエノが指を差す。廊下の奥から巨大ネズミが36本の足を使って走ってきていた。


「やっべえー! 挟み撃ち!」

「クレイジー君! 奇策はある!?」

「一旦眠らそ! 三人ならいけるっしょ!」


 クレイジーが杖をくるくる回した。


「トゥルエノちゃん、いけそう?」

「いけます! ルーチェは?」

「もちろん!」


 巨大ネズミが汚れた声を吐き出した。クレイジーが、トゥルエノが、あたしが杖を構えた。


「松は緑に藤は紫」

「雨の降る日は天気が悪い」

「西吹けば東にたまる落葉かな」

「柳は緑、花は紅、草木は自然のありのまま」

「雨が癒しを、時には雷」

「紅葉がきらきら輝きたゆたう」

「緑よ」

「雷よ」

「光よ」


 魔力を合わせて、


「「意識を飛ばせ」」


 魔力が協調され同調され、その姿を変えて魔法となる。植物が現れ、そこに電流が流れ、そこに光が重なってぎらぎら輝き、物凄い勢いで巨大ネズミを吹き飛ばした。


 音が鳴り、3人同時に後ろを振り返る。ドブネズミが起き上がり、メインホールを駆け出した。正面を見る。巨大ネズミの意識はない。しかし、体を痙攣させ、無理矢理体を動かそうとしている。もう一度確認する。意識はない。


(これも……魔法石の影響……!?)


 足が動き出し、駆け出す。


「ルーチェ!」


 トゥルエノがあたしの手を掴み、メインホールへ走った。クレイジーも走り、緑魔法でドアを塞ぐが、それを破壊するほどの威力で巨大ネズミが突っ込んできたため、三人ともドアの横に避難した。あたしははっと顔を上げた。ドブネズミがこっちに向かって落ちてきていた。


(あ、やべ。踏み潰されるわ。これ)


 クレイジーが杖を構える。間に合わない。トゥルエノが足をすくめた。逃げられない。あたしはただ見てるだけ。終わった。


 ドブネズミが近づく。



 ――光の壁が合間に入った。



 トゥルエノが驚いて目を見開く。あたしはその美しい光に魅入られる。クレイジーは興奮したように声を上げた。


「ナイス! ミランダちゃん!」


 クレイジーの左右にアーニーとアンジェが着地し、同時に杖を構えた。


「火よ!」

「水よ!」

「「吹きとばせ!」」


 ドブネズミが火と水で吹き飛ばされる。空中を飛ぶ中、体から小さなネズミがぽん、ぽんと出てきた。目のおかしい小さなネズミ達は地面に着地し、素早く動き出したが、それを上から降ってきた雪だるまによって踏み付けられ、気絶する。見上げると、箒に乗ったパルフェクトが杖を銃のようにふざけて構えていた。


「ぱーん! 的中!」

「ルーチェ! 私! ウサギも駄目だけど! ネズミも駄目なの! わあーーーー! ぞわぞわするーー!!」

「ていうか! なんでいるの!?」

「いやー、お二人以上に優秀な俺っちが、戦闘するならここの方が広いと思ったんで、来ちゃいましたー! てへぺろー!」

「あっ!!!???」

「アンジェちゃん! それそれそれどころじゃっ!」


 巨大ドブネズミが起き上がった。巨大ネズミが起き上がった。二匹がお互いに向かって走り出し、ぶつかると、体がガムのようにくっつきあい、重なり、中に寄生していく。合体した。それはもうネズミの原型は存在しない。ネズミの耳や、しっぽや、鼻や、目や、足も出ているけれど、もはや、ネズミがくっつきあった化け物だ。


 アーニーが悲鳴を上げた。

 アンジェが寒気で鳥肌を立てた。

 クレイジーが口笛を吹いた。

 トゥルエノがあたしの腕に掴まった。

 あたしは間抜けた顔で思った。小説に使えそう。


(ん?)


 あたしの隣にミランダ様が着地した。うわっ! あたしは顔を叩いた。セーレムを肩に乗せたミランダ様が杖でネズミだったものを差した。


「注目!」

 はい!

「目は覚めてるかい?」

 はい! これが夢でなければ!

「ほっぺたつねりながらよく聞いておきな。これより、総勢でネズミの分解作業に入るよ」

 分解作業ですか?

「重なり合ってるのであれば崩すまで。ルーチェ、出来るね?」

 ……えっと、具体的に、どうすればいいですか?

「お前ね、いつも言ってるだろ! お前の悪いところだよ! 考えすぎないで体に従いな! この役立たず!」

 なんでそんな冷たいこと言うんですか!? 指示がないと動けません! ミランダ様!

「ルーチェっぴ、塔崩し。ブロック崩すみたいに、ネズミを一匹ずつ剥がしていけばいいんだっぴー」

 地道に? だったら一気にやっちゃえばいいじゃん。

「ネズミを殺したいならやればいいんじゃないかい?」

 ……おー。

「命は平等。ルーチェ、わかってるね」

 必要のない殺傷はなし。

「その通り」

 かしこまりました。出来る限り頑張ります。

「頑張るんじゃない。やるんだよ」

 出来る限り、やります!

「よろしい」


 一匹ずつ引き剥がして気絶させる。思い出せ。大量のリスの時もこうだったじゃないか。


(殺しはなし。よーし……)

「ルーチェ、夢でなければ、こんな機会またとないよ」


 目を向けると、ミランダ様がわくわくしたようににやけていた。


「殺さないなら何発魔法を出しても構わない。早いもの勝ちさ。闇でも光でも、お前の好きな魔法を出してごらん」

「……はい」


 やっぱり、


「では、遊ばせていただきます」


 すっげー格好良いなぁ。あたしのお師匠様。


「構え!」


 さぁ――魔法を始めよう!


「満開桜の花束贈呈! 送るは愛しい彼女かな!」

「にゃんこ子にゃんこ孫にゃんこ! 暖炉の火の側、お丸くなーれ!」

「雨雨、降れ降れ、もっと降れ、大量洪水、傘必須!」

「雷落ちれば要注意! 傘も無力のずぶ濡れ感電!」

「暗黒魔界に堕ちていけ! 闇に襲われ怯えて震えん!」


 花が咲き、暖炉の火が現れ、雨が降り、雷が鳴り、闇が、ネズミ達を引き剥がしていく。ネズミ達が戻ろうとすれば、パルフェクトが杖を構えた。


「冷酷、極寒、北の地到着。皆さんどうぞ、ごあんなーい」


 ネズミ達が寒さから震え、その場に溜まった。ふと見上げると、温かい光が見えるではないか!


「光に包まれ寝息を立てよ」


 光に包まれたネズミ達が眠った。あたし達は無我夢中で魔法を使う。評価はない。採点はない。自由に、遊んでいい。好きに、出していい。レパートリーはいくらでもある。駄目だと言われたものも、綺麗じゃないと言われたものも、なんでもいい。ネズミを引き剥がす事が出来るなら何してもいい。遊ぼう。楽しい。遊ぼう。


「闇よ」


 叱られない。


「深くなれ」


 怒られない。


「黒くて不気味に濃くなりて」


 闇が濃ければ濃いほど、光は美しくなる。


「光よ!」


 あたしの心臓が高鳴った。


「輝け!!」


 深くした闇の中をあたしの光が走り出す。眩しくなってネズミ達が崩れた。


「夜が来た! 眠りの時間だ!」


 ネズミ達が眠った。


「夜の蛍が騒ぎだす。お祭り騒ぎだ。盛り上がれ!」


 あたしの光がネズミ達を囲んで崩した。


「お休み。ラット。悪夢で会おう」


 闇がネズミ達を囲んで崩した。崩れたネズミがぶんぶんと顔を振り、私を見た。ネズミがはっとしたように逃げていくのを、闇で捉えた。眠らないと駄目。ネズミは眠った。近づいた。ゲリラ豪雨が降った。


「っ」

「きゃあ!」


 トゥルエノが頭を押さえた。遠くではアーニーとアンジェが喧嘩している。


「アンジェやりすぎー!」

「やりたかったんだもん!」

「火が出せないじゃん!!」

「恵みの雨ー! ぎゃはははは!」


 クレイジーが楽しそうに魔法を使うのを見て――トゥルエノがあたしの隣に走ってきた。


「ルーチェ」

「どうしたの? トゥルエノ」

「試してみたいことがあるんだ」

「試してみたいこと?」

「私の夢の一つ。こんな機会じゃないと絶対出来ない」

「え、何?」

「今、実現しそうなの。私ね、ルーチェ、私、ルーチェとやってみたいの」

「いいよ。あたしでよければ」

「やってくれるの?」

「もちろん。トゥルエノなら、一緒にやりたい」

「私もやりたいの。ルーチェ、私、……私ね」


 トゥルエノが笑った。


「『親友』と――魔法を作るのが夢だったの!」


 雨が降る。それは絶望を感じる心のよう。炎が囲む。それは負けるかと叫ぶ心のよう。花が咲く。それは少しの希望に賭けてみたいと願う心のよう。トゥルエノとあたしが杖を構えた。


「鬼が来るぞ、覚悟はいいか」

「悪夢を見るぞ、覚悟はいいか」

「太鼓が鳴れば、右に注意」

「太鼓が鳴れば、左に注意」


 声を合わせて、


「雷よ!」

「光よ!」


 親友と共に、


「「意識を飛ばせ」」


 トゥルエノとあたしの魔力が協調され同調され――とんでもなく光り輝く雷の竜が現れた。竜が凄まじい勢いでネズミに向かって突進すると、雨が降ってる影響で電流が全てのネズミに感電した。しかし静電気だからネズミは死なない。ただ、痛みを感じて目を覚ますだけ。悪夢から離れたネズミ達はヒビが割れたように一気に崩れ、メインホールに落ちていく。


 悲鳴をあげたアーニーが箒を取り出し、慌ててクレイジーを後ろに乗せた。アンジェは一足早く箒に乗っていたので、トゥルエノを抱えて急上昇した。ミランダ様が手を伸ばした。あたしも手を伸ばした。その手を――ジュリアが掴み、あたしを脇に抱えて飛び始めた。


「なっ!」

「うわっ!」

「お手柄です!」


 崩れ落ちた大量のネズミでメインホールがいっぱいになる。見上げると、ジュリアが超笑顔であたしを見ている。


「上出来です。間抜けちゃん。よくやりました。ああ、ご安心を。ホテルの周りの魔法石は隊員達が全て回収してます。まあ? 多少私が居眠りこいてしまいましたが」


 ジュリアが鼻で笑った。


「何も問題ありません」

「……?」

「それより、見てましたよー? 間抜けちゃん。闇魔法、とっても上達してますね。ちゃんと練習して偉いですよ。ひひひひ!」

「あ……いや……あれは……その……」


 下から上に向かって勢いのまま突っ込んだミランダ様が、ジュリアから奪ったあたしを脇で抱えた。


「近づくんじゃないって何度言わせるんだい! このストーカー!」

「間抜けちゃんは闇魔法を使ってた方がとても楽しそうでした。ね、間抜けちゃん、ちょっとこの後私と個人レッスンしませんか? 手取り足取り教えますよ……?」

「それ以上大口叩くならお前に向かって攻撃するよ!」

「おおっと! やれるもんならやってみなさいよ! この光オタク!」


 上から下に向かって勢いのまま突っ込んだパルフェクトが、ミランダ様から奪ったあたしを脇で抱えた。


「おばさん達の喧嘩に巻き込まれて嫌だね。ルーチェ♡! よしよし。お迎えが遅くなってごめんね? こうなったらお姉ちゃんと一緒にいようね♡?」

「いや、お前はいい」

「よくやった! 小娘! さあ! 邪魔な荷物がいなくなったよ! こてんぱんにやり合おうじゃないかね! ジュリア!」

「お荷物!? マーンス! なんてこと言うんですか! お前は! この鬼! 悪魔! 間抜けちゃんはお荷物じゃありません! 私の!! 将来の!! お嫁さんです!!」

「は?」


 すげー低い声を出したパルフェクトがあたしを見下ろした。


「ルーチェ……どういうこと……?」

「いや、ちが、あの、これは、話せば長くなる……」

「わたくしというものがありながら……まさかの浮気!?」

「ちげーから!!」

「ほっ! やっぱりルーチェ♡はわたくしが一番なのね! 嬉しいー! んーー!!」

「うわっ! やめろ! キスはやめ……んむーーーーーー!!!」


 ――アンジェが呆れたように眉をひそめた。


「……何やってんの。あの人達」


 溜息混じりの言葉が呟かれる。しかし――その後ろで、トゥルエノは興奮で激しく鼓動を鳴らし続けていた。



(*'ω'*)



「見つけた」


 自作の調合薬をかけてから素手で触れてみる。


「……よし、いける」


 魔法石を袋に入れる。


「これを調べれば……」

「見て! ミルフィー! ネズミって! よく見ると超可愛くなーい!?」

「うるせーな。ネズミが出るホテルなんてろくなもんじゃね……ん、なんだこれ」


 気が付いた手が袋から魔法石を出した。光が失われ、完全に消えた。


「……魔力が……消えた……?」


 そして気づいた。


「……魔力で作られたもんだ。これ」


 石から魔力が失われると、ホテル全体に感じていた不穏な気配が消えた。眉をひそめる。


「誰がこんなこと……」


 気配を辿ろうとした紫の瞳が――見覚えのある人影を見つけて、ぎょっと肩を揺らした。


「うわっ!!」

「え?」

「今!! 魔法調査隊が空飛んでた!! しかもあのマント……第一調査団!!」

「え? 第一調査団って、ジュリア・ディクステラのいるグループ!? まじ!? どこどこ!?」

「~~っ!! 目標達成!!」

「え?」

「石は収穫した!! 部屋に戻るでありんす!! 早く!!」

「ちょっとミルフィー! 冒険に飽きたからって走らないの! 待ってよ! ミルフィー!!」


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