第21話 Bステージが始まる
二人だけの練習に苦戦しながらも、あたしとクレイジーは手を取り合い、足を動かし、ひたすら反復練習を繰り返した。主にあたしが忘れん坊だから、ミスが多かったが、それはパルフェクトが来た一週間で叩きこまれた。
「久しぶりー! 練習見に来たよー!」
「ういっす! パルフェクトさん!! 会いたかったっす!!」
「あはっ! クレイジー君、ちょっと筋肉ついたんじゃない? かっこいーぞ!」
「まじすか!? ちょー嬉しいっす!」
(よく言うよ。裏であんなにブチぎれてたくせに……)
お陰であたしは一日追加でお前と過ごさないといけなくなったってのに。
「この一週間でAステージに上がれるように、頑張ろうね!」
「お願いしまーす!」
「ルーチェ♡も! ちゃんとお返事!」
「あ、はい」
「頑張るぞー!」
「うーっす!」
(この女、どんだけ仮面被れるんだよ……。怖いわ……)
「じゃ、今の状況を見るよ! 音楽かけるから、準備して!」
「ルーチェっぴ」
「うん」
一週間、三時間だけパルフェクトに見てもらう。そして、パルフェクトがいなくなってから、ボロボロになった二人でまた反省し、打ち合わせし、振り付けをそろえていく。
「店長、相談が」
「お、シフト増やせるの?」
「逆です……」
「逆か……」
Bステージから上がれたらAステージに行ける。Aステージに行けたら、やっと魔法を発表出来る場を設けてもらえる。
だから欠かさず、ひたすら繰り返す。息が苦しくなったら一回止まって、少し深呼吸してから汗を拭って、水分を取って、また踊り出す。思考2割、行動8割。やるしかない。あたしは忘れっぽいから、やるしかない。クレイジーとお弁当を食べてても、食べ終わったらトイレに行って、口をゆすいで、すぐにスタジオに戻って個人練習する。それをクレイジーがのんびり眺める。ダンスだけじゃない。魔法も繰り返す。繰り返してやるしかあたしには出来ない。もっと考えて、とか、もっと慎重に魔力を集中させてーとか、あたしは馬鹿だから、やるしか覚える方法がない。だからあたしは繰り返す。幻覚に幻覚を重ねて、馬鹿みたいに体に叩きつける。仕方ない。あたしは馬鹿なのだから。馬鹿ということを認めて、もう量をやるしかない。頭なんて良くならない。がむしゃらに、出来る事をやるしかない。
「ルーチェっぴ、体重移動苦手?」
クレイジー君に声を掛けられる。
「体重だけで前に行ったり、後ろに行ったり」
「……苦手」
「感覚だからなー。練習するしかないっぴねー」
へらへら笑いながら、クレイジーが立ち上がった。
「やろ」
「……うん」
しかし、課題ばかりに気を取られてはいけない。アルバイトを休んだ分、あたしには家事の仕事が待っている。ミランダ様の屋敷に居候させて頂いている分。手抜きの料理は許されず、手抜きの掃除も許されない。手を抜いていいのはセーレムと喋る時だけ。
「ルーチェ、俺、おやつに呼ばれてる気がするんだけど」
「今日はもう食べたから駄目」
「ルーチェ、この間テレビでさ、嫌われる女ランキングをやってたんだ。ゲストの男が言ってたよ。納得のいかない理由をつけてNG出してくる女は苦手になりやすいって。つまりさ、ルーチェ、俺は納得できねえんだよ。今日は食べたから駄目? ホワイ? おやつなんて、いついかなる時だって食べていいじゃん!」
「今おやつ食べたら、カリカリ、食べれ、食べれなくなるよ」
「カリカリは別腹だからいいの! ねえ! お願い! 肉球触っていいから!」
「駄目!」
「ケチ!! ルーチェのケチ!!」
ぷんすか怒ってセーレムがソファーに寝転がった。窓が開く音がして、あたしはエプロンをしたままミランダ様の部屋に入る。案の定、ミランダ様が箒から下りてるところだった。
「お帰りなさいませ。ミランダ様」
「ん」
帽子とマントを受け取り、ポールにかける。靴をスリッパに履き替えたミランダ様が訊いてきた。
「……夕飯はなんだい?」
「そうめんです」
「ああ、いいね。冷たいのが食べたかったんだ」
「野菜も切ったので、良ければ一緒に」
「お前やるじゃないかい」
「……えー、そうですかぁー? えへへ……」
「ふん!!」
「おや、なんだい。セーレム。なんでふてくされてるんだい?」
「聞いてくれよ! ミランダ! あのさ! ぶあっくしゅん! ……あれ、俺なんでふてくされてるんだっけ? ルーチェ、お腹空いた」
「今ご飯出すから待ってて」
「やった! 俺、良い子で待ってる! るんるん!」
セーレムがいつもの定位置でお座りをした。あたしは用意をしてセーレムの前にお皿を置く。
「お手」
「おう」
「おかわり」
「おう」
「はい、どうぞ」
「いただきまーす!! うおおおお! うめえ! 骨の髄まで染み渡るー!」
「ミランダ様、今お湯沸か、沸かしますので、先にお風呂にはいー、い、行ってください」
「ん。そうするよ」
ミランダ様に頭をぽんと置かれる。
「ありがとう」
ミランダ様が脱衣室に歩いていく。あたしは頭に手を置いて、にやけた。
「でへへへへ……」
「んほぉ! うめえ! うめえよ!! カリカリ!! うめえよぉお!!」
(Aステージで踊れたら少なからず評価もつく。来年の査定にかなりの影響を与えるはずだ)
あたしの評価はミランダ様の評価。全てはあたしの為。そして、
(ミランダ様の為に)
「ルーチェ! シャンプーが切れてるよ!」
「はっ!! すみません!! わ、わ……忘れてました!!」
気を張ってても抜けが多い。ミスが多い。あたしの「これで大丈夫」は絶対大丈夫じゃない。自分を信用してはいけない。一度確認したら、二度確認して、三度確認して、そこでようやくミスに気付くことが多い。お風呂に入りながら録画を見直す。眠くなったらすぐに上がってリビングで見ることにした。でもやっぱり眠たくなって、居眠りしてたら研究室から出て来たミランダ様に肩を叩かれた。
「ルーチェ、部屋で寝なさい」
「……はい……」
「……これ、お前、セーレムを抱えてどこ行くんだい」
「……あ、枕かと……。……間違えました」
「大丈夫かい。お前」
「重いと思ったんです……」
だけど、ベッドに入った途端、急に目が覚める。まるで朝すごく良い目覚めをしたかのように、脳が誤作動を起こす。体は疲れているのに、脳はこう言う。「おはよう! いい朝だね!」あたしは市販で買った睡眠薬を飲み、スマートフォンを机に置き、絶対に触ってはいけないと思いながら無理矢理眠った。そして朝が起き、スマートフォンは机の上にあるから絶対に起きないといけない状況を作り、眠くても無理矢理起きた。低気圧の日は気分が悪くてトイレで吐いた。それでも朝食を用意しないとミランダ様の食べるものが無くなってしまうので、あたしはそれだけは欠かさず行った。今日、バナナを買ってこよう。バナナなら食べれそう。
「行ってきます……」
「車に気をつけるんだよ」
「はい……」
ミランダ様が手を振ってお見送りしてくださる。
「ルーチェ♡、またここ間違えたね! きゅるーん!」
「うぐっ……」
「クレイジー君、もっと大きく出来るー? だって君、吸血鬼だよー?」
「うっす!」
「はいはい! 休んでる暇ないよー! がんばろー!」
(畜生。絶対上がってやる)
Aステージで魔法を見せてやるんだ。
(ミランダ様に、あたしの幻覚魔法を見てもらうんだ)
出来るようになるまで繰り返す。より良くするために頭がおかしくなるんじゃないかと思うくらい繰り返す。曲を聞くのが嫌になるくらい繰り返す。
「……っ」
滝のような汗が地面に落ちる。視界が揺らぐ。でも、あたしだけじゃない。
「ルーチェっぴ」
顔を上げれば、一緒に汗を流すクレイジーがいる。
「休む?」
「やる」
「……そうこなくっちゃ!」
クレイジーが手を差し出し、あたしはそれを掴む。クレイジーが踊り出す。あたしは呪文を唱える。階段が姿を変える。吸血鬼は追いかける。あたしは逃げる。怯えた顔をして、ステップを踏みながら、次のことを考えながら、手順通りにこなしていく。漫画や小説ではこういう時、主人公はこう思うものだ。「不思議だ。音楽に合わせて、体が勝手に動いていく。」正反対。あたしは勝手に動いてくれないから、思い出しながら動く。音楽に身を任せることが出来ない。身を任せたらとんでもないことになるから。確実に順番を覚えて、体重移動はこうだ。このタイミングでこうだと考えながら、それをしながら少女の演技をする。幻覚を強くイメージして魔法を使う。それを覚えるために繰り返す。出来たと思ってもそれは出来てない。繰り返す。完璧だと思っても完璧じゃない。繰り返す。本番で上手くいかなければ何も意味が無いのだ。流した汗も、やってきた努力も、クレイジー君とやってきたこと全部、本番で出せないと何も意味が無いのだ。審査員に見えない努力など、所詮見えなかったもので終わってしまうのだ。
嫌だ。終わってたまるか。絶対終わってたまるか! 練習はしんどい。筋肉痛が痛い。折角の夏休み。遊びたい。小説書きたい。絵描きたい。動画編集したい。でも、その前にやることがある。全く、こんなに動くことになるとは思わなかった。
(だけど、これで、もしも、Aステージに行けたら!)
行くことが出来れば!
(『魔法使い』に近付けるかもしれない!)
だから、幻覚を重ねて、クレイジーの魔法と、あたしの魔法を同調させて、積み木のように築き上げていく。
そして――当日がやってきた。
(*'ω'*)
『レディース・エンド・ジェントルマン!』
『本日は魔法ダンスコンテストBステージにご来場頂き、誠にありがとうございます!』
『今回、イベントの司会を務めさせていただきます! わたくし、アーニーと!』
『アンジェでお送りいたします!』
『『よろしくお願いしまーす!』』
参加者に呼ばれた生徒達が観客席で盛り上げの声を上げた。
『今回、参加チームは15チームとなっており、Cステージから選び抜かれた! 期待の選抜チームとなっております!』
『Aステージに上がれるのは、この内の8チームのみ。7チームは残念ながらここで敗退となってしまいます』
『ですが、その8チームにさえ入ってしまえば!? もっと広いステージ! ヤミー魔術学校が所持している、ヤミーホールで、お客様をお呼びして、自分達の魔法を見せれるという、絶好のチャンスが与えられるわけです!!』
『15チームの皆さんはメラメラと燃えていることでしょう!』
『そうです!! 私の得意魔法のように!!』
アーニーが滑った。すかさずアンジェが原稿を読んだ。
『それでは最初のチームから発表してもらいましょう! アーニー!』
『ウケなかったなあ……。大爆笑が起きると思ったんだけどなぁ……』
『アーニー! マイク入ってる!』
『あ、やっべ! ごほん! それでは登場していただきましょう! 最初のチーム』
『『薔薇と桜!』』
ステージが盛り上がる頃、あたしはトイレから出て来た。クレイジーが首を傾げる。
「ルーチェっぴ、大丈夫ー?」
「だ、だい、じょうぶ、薬……飲んできたから……」
「何の薬?」
「鎮痛剤……」
「んー、そっか。……でも吐いたなら意味なくね?」
「そうなの。い、い、意味なくなっちゃったの……」
「全部吐いたの?」
「全部吐いた……」
「昼食べてなかったよね? 朝何食べてきた?」
「バナナ……」
「あー、そっか……」
「だ、大丈夫……。全部吐いたから……もう大丈夫……」
「いや、顔真っ青だけど」
「大丈夫……魔法は使える……」
緊張でガチガチだ。Cステージよりも緊張している。
(ああ……冷汗がやばい……。上手くいくかな。上手くいかなかったらどうしよう。魔力の量を間違えて急に魔法が解けたらどうしよう。落ちつけ。やばい。緊張してる。どうしよう。やばい、やばいぞ……)
手が震えている。手が冷たい。体の底から緊張しているのを感じる。
(あたし、本当にこういう時度胸ないんだよな……。人前に出て踊るとか、本当にまじでもう逃げ出してしまいたい……。ああ、ミランダ様ならこういう時どうするんだろう? 手に人って三回書く? 飲み込む? 意味ないじゃん。そんなの)
――マインドコントロールについては調べた事あるかい?
……あ。
――『洗脳』って意味だよ。脳に催眠術を起こすんだ。そうすれば緊張もしなくなる。
「……クレイジー君」
「ん?」
「ちょっと、一緒にやりたいことあるんだけど……」
「ん? 何?」
「一人だと恥ずかしいから」
「お、何々? いいよ。どんな恥ずかしい事するの?」
「えっとね」
楽屋で他のチームがモニターで発表チームを見る中、あたし達は隅に寄り、椅子に座る。
「マインドコントロールってわかる?」
「ん? せんの……んー? わかんない。何それ。必殺技?」
「えっとね、『洗脳』っていう意味でね、自己催眠で、暗示をか、かけて、き、き、緊張を無くすの」
「へー。自己催眠。面白そう。どうやんの?」
「まず、右腕に力を入れるの。五秒数えるから一緒にやって」
「おっけー」
「行くよ。1、2、3、4、5。脱力」
あたしとクレイジーの右腕が脱力した。これを3回繰り返した。
「次、左ね。1、2、3、4、5。脱力」
あたしとクレイジーの左腕が脱力した。これを3回繰り返した。
「次は首で、えっと、息を吸いながら……ゆっくり回すの。凝ってるところを、ほぐすようなイメージ」
「うあー、これ気持ちいー!」
(あー、これ気持ちいい……)
あたしとクレイジーが首を回した。二人の骨がゴキゴキ鳴った。
「次は?」
「次は両肩。思い切り力入れて上に上げるの」
「オッケー」
「いくよ。1、2、3、4、5。脱力」
あたしとクレイジーの両肩が脱力した。これを3回繰り返した。
「次は胸で、えっと、……息を吸いながら前に張り出して、一回そこでキープして、脱力するの。で、脱力する時は、ゆっくり、あの……こういう風に、力を緩めるの」
「あー、なるほどね。りょ」
「じゃあ、いくよ。1、2、3、4、5、ストップ。キープ。1、2、3、4、5。緩める。1、2、3、4、5」
これを3回繰り返した。
「で、次は肩甲骨。今のとパターン。両方の、あの、ここらへん? この辺を、中心に寄せるイメージで力を入れて一回キープする」
「オッケー。わかった。いける。さっきと同じ感じね」
「うん。じゃあいくよ。1、2、3、4、5。……1、2、3、4、5。……1、2、3、4、5」
「あー、これいいわー!」
(これ気持ちいい……。筋肉痛の体が伸びていくぅ……)
これを3回繰り返した。
「で、あのー、……あれだ。お尻だ。お尻の穴をゆっくり締めていって、キープして、緩める」
「あれっしょ? うんこ堪えてる感じ!」
「汚い」
「ぐひひひ!」
「もー、いくよ! 1、2、3、4、5。……1、2、3、4、5。……1、2、3、4、5」
これを3回繰り返した。
「次は右足。さっきの腕みたいな感じ」
「りょ」
「いくよ。1、2、3、4、5。脱力」
あたしとクレイジーの右足が脱力した。これを3回繰り返した。
「次は」
「左足ね」
「正解。いくよ。1、2、3、4、5。脱力」
あたしとクレイジーの左足が脱力した。これを3回繰り返した。
「で、目を閉じる」
「ん」
「リラ、リーラックスしてる感じを感じる」
「あー、確かに血流は良くなったかも」
「で、深呼吸する。は、は、鼻から吸って、口から吐く」
「すーはー」
「で、この時に、お腹にあるものとか、あとは、モヤモヤすることとか、嫌なこととかを、全部外に吐き出すイメージで、息を吐く。中に溜め込んだものを、出て行け出て行けーって全部吐き出すの」
「……」
「すー……はー……」
あたしは緊張して生まれたモヤモヤを外に吐き出すイメージで深呼吸した。すーはー。
「で、クレイジー君、目を瞑ったまま聞いて」
「……うん」
「自分に幻覚の催眠をかけるの。嫌なものを全部外に出したたた、出したから、次は、今いる場所が、自分にとって一番リラックス出来る場所だと思い込むの」
「……」
「草原とか、公園とか、どこでもいいんだけど」
あたしの場合は、ミランダ様の寝室。きっと目の前にはミランダ様が美しい顔で眠っていらっしゃるの。……でへへ。
「で、次は右腕にしゅ、集中して。重りがあって、どんどん、重くなっていくの。でも、それがすごく気持ちいいの。太陽の光も当たってるの。重たくて、温かくて、気持ちいい想像をしてみて」
「……」
「それが出来たら、次は左腕。左腕も同じだよ。重りがあって、どんどん重たくなっていく。太陽の光、が、当たって、すごく気持ち良いの。重たくて、温かくて、気持ちいい」
「……」
「次は右足。同じように、重りを乗せてみて。それで想像して。太陽が当たって、温かくて、重たくて、気持ちいいの」
「……」
「最後は左足。同じように想像してみて。た、太陽が当たって、あた、温かくて、重たくて、気持ちいいの」
「……」
「風とかも感じたりして」
「……」
「でね、お腹もだんだん温かくなってくるの。気持ち良くて、じわぁーって感じ」
「……」
「こ、ここまで行ったら、暗示を一つだけ、自分の中で唱えるの。一つだけね。例えば、あたしの場合は、緊張してるから、『今日あたしは落ち着いて魔法が使える』とか」
「……なるほどね」
「自分の中でいいから唱えてみて。一つだけ、何度も唱えてみて」
あたしは深呼吸しながら頭の中で唱える。心臓がどきどき鳴っている。けれど暗示をかける。――あたしは今日、落ち着いて魔法が使える。
何度も唱える。あたしは今日、落ち着いて魔法が使える。あたしは今日、落ち着いて魔法が使える。あたしは今日、落ち着いて魔法が使える……。
あたしは、今日、落ち着いて、魔法が使える。
「目を開けて」
あたしとクレイジーが目を開けた。
「欠伸して」
「……ふわーあー」
「ふわあ……」
「あとはー?」
「これでお、おしまい」
「なるほどね」
「うん」
「緊張はほぐれた?」
「んー。まあ、……さっきよりは」
「だね。顔色戻ってる」
「……本当?」
「ん。さっきと比べたら」
「……なら良かった」
「これいいね。俺っちも使うわ! めっちゃ気持ちいい!」
「……ミランダ様、が、教えてくださったの。……あたしが、よく緊張、し、しちゃうから……」
「Aステージの日もやろ?」
「……まだわかんないじゃん」
「いけるよ」
あたしはきょとんと瞬きすると、クレイジーが歯を見せて笑った。
「もういける。大丈夫」
「……油断は禁物だよ」
「あーね」
「あ、それと、余裕があったら、プラスして……」
「ん?」
「アルス様にもご加護がありますようにって祈っとけって、ミランダ様が」
「アルスって大魔法使いの?」
「うん」
「いや、あいつに祈ったって何もしてくれねーじゃん!」
「おまけだよ。おまけ」
「まーいいや。時間あるし」
あたしとクレイジーが両手を握った。
「アルス様、どうか、ご、……ご加護が、ありますように」
「……」
「あと何分?」
「あと四チーム」
「まだ時間あるんだ……」
「ルーチェっぴ、手遊びして遊ぼう」
「そんな余裕ないよ……」
「これやろ、これ」
クレイジーが両方の人差し指を出した。
「はい、じゃんけん」
「じゃーんけーんしょっ」
「はい。ルーチェっぴ。先」
「えー……はい」
「じゃあ、三本」
「はい」
「はい、二本ずつー」
「ん」
「はい、二と三ぼーん」
「ん」
「はい、三本ずつー」
「ん」
「よんほーん。でやっ」
「あ、これ、絶対負けるじゃん」
「でやっ」
「ちょっ、まっ、あたしの攻撃の番!」
「でやっ」
「えー、やだ! もう一回」
「にひひ! いいよ。じゃーんけんしょっ」
「しょっ」
(*'ω'*)
『はーい! 「ウルフ集団」の皆様、ありがとうございましたー!』
『大きな拍手をお願いします!』
『アンジェ、すごかったね! オオカミがさ、雪山登って、吹雪の中走ってるような、臨場感のあるダンスでしたね!』
『裏から私達も見てましたけど、かなり迫力のある魔法とダンスだったと思います!』
『さて、次のチームは……』
次のチームを見て、アーニーとアンジェが目を合わせた。
『もう準備完了してますかねー!?』
『大丈夫のようですよ』
『それでは、始めて頂きます!』
『チームは』
『『観葉植物クロトン! どうぞー!』』
照明が消え、ステージが暗くなった。
審査員の先生達がステージに注目する。
観客の生徒達がステージを見る。
さあ――魔法を始めよう。
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