第3話 英雄の理由
翌日、学校に行こうと支度をしているとオベロンとティタニアが車で送ってくれると言ってくれたので、素直に甘えることにした。
行ってきます。ミランダ様。
「……」
野菜スープ作ってるので、あの、飲めそうなら飲んでください……。
「ルーチェ、行ってらっしゃい。俺はもう一眠りすることにするよ。なんて言ったって昨日は廊下で寝ないとリビングがうるさいのなんので寝不足なんだ。はあ。猫はさ、うるさいのは駄目なんだよ。強い音に敏感なんだ。永遠の課題だね。どうしたら克服出来るのかな。俺は強い音にも強くなれる最強の猫になりたいもんだよ。ふああ」
行って来るね。セーレム。
「「じゃーな。ミランダ。セーレム。愛してるぜぇー!」」
「……うるさい……」
頭を押さえてうずくまるミランダ様を置いて、あたし達は車に乗り込む。目指すはあたしの通う第13ヤミー魔術学校。ティタニアが運転席に座り、オベロンが助手席に座った。あたしは後ろ。
よろしくお願いします!
「帰りのついでだから。あ、シートベルトだけお願いね」
はい!
「ヤミー魔術学校かぁ。懐かしいな。ティタニア、覚えてるかね? 母さんがヤミー魔術学校のチラシ持ってきてさー」
「はしゃいでたミランダかぁいかったなぁ」
車が動き出した。
「一年で魔法使いになるとは思わなかったな」
「うちのミランダは才能があるから、まあ、当然だべ」
「だがよ、まさか三年後の戦争に行くことになるとは思わんべさ」
「ルーチェちゃん、ミランダが行った戦争知ってるかい」
存じてます。……外国から結構な攻撃を仕掛けられて、国を守るために始めた戦い……ですよね。
「言ってしまえば、あそこで魔法の凄さが世界に知られたようなもんだったよな」
「ああ。魔法がなけりゃ今頃この国は乗っ取られて、何されてるかわかんなかったよ」
ミランダ様とお父様が行かれたんですよね。聞いたんですけど、その、パレードの時にお二人が車飛ばして邪魔してきたって……。
「あれは武勇伝だなぁ」
「俺達も必死よ。何せ、可愛いミランダが戦争に行くって言うんだから」
「自ら志願してな」
「ルーチェちゃん、魔法使いになるのはいいんだけんど、戦争の駒にはなっちゃいかんよ。何かあったらオベロンおじちゃん悲しいかんな」
……何があるかわからない世の中ですからね。
「今でも外国の内戦に協力とか言って派遣される魔法使いもいるけど、あれは悲惨だよ」
「それも俺達が平和に暮らせるようにだもんな。戦争に魔法なんて使ってほしくないが、こればっかりは何とも言えねえ」
「理不尽な世の中だべ」
「まあ、平和が一番ってこった。それに……一番はあの女がくたばってくれたことだ」
「ああ」
……あの女?
「ルーチェちゃん、知ってるかね。敵国にいたとんでもねえ化け物みたいに強い女がいたんだよ。『ジャスミン・ディアーブル』って言うんだけどよ、もうこの女が強いのなんの」
「次々にうちの国に侵入しては小さな村潰していってな。老人女子供問わず全員殺して回った闇魔法使いだよ」
「当時まだ11歳だったミランダと一騎打ちになって死んだんだ」
それは、あたしの知らない歴史。
「ミランダのいた部隊に死人はゼロだったし、比較的平和な地域に派遣されてたらしい。だが……そこにディアーブルが現れた」
ミランダは話したがらないから部隊の奴から聞いたんだがよ、突然現れたそうだ。ディアーブルは単独行動をしていた。単独行動、というより、ディアーブルが配属していた部隊は壊滅していた。全員魔法が使えない奴らだったから、足手まといになると思ったディアーブルが仲間を全員殺したそうだ。さらに村に侵入し、火を付け、水で溺死させ、闇で覆い、敵も味方も誰彼構わず殺戮を繰り返した。そこへミランダの部隊が偶然やってきたんだ。その女の目を見た瞬間、全員がまるで死んだような気持ちになったそうだよ。だが、ミランダだけは違った。あいつは持ち前の度胸で杖を構え、ディアーブルに命をかけた勝負を挑んだ。当時11歳。ディアーブルは20歳くらいだったかね。ミランダはありとあらゆる魔法を出し、お互い時間をかけて攻撃を繰り返し、最後の切り札としてディアーブルが闇を、ミランダは光をぶつけた。その時に隊員達が犠牲を覚悟にディアーブルの体を押さえつけた。ミランダは躊躇いなく魔法をぶつけた。ディアーブルが光に飲み込まれ、隊員達は無事だった。ディアーブルを失った敵国にもう兵器は存在しないも同然。国は総攻撃をかけた。敵国はそこでようやく白旗を揚げた。
ミランダは英雄だよ。
光魔法で国を救ったんだ。
「お、ここだな!」
車が学校の前で止まった。二人がヤミー魔術学校を眺める。
「なんでえ! 昔はもっと小さかったじゃねえか!」
「こんなお城みたいになっちまってよ! 謙虚さなくなって胡座かいてんじゃねえの!?」
あはは……。ありがとうございました。
「おう! 勉強頑張ってな!」
「頑張るべさ。ルーチェちゃん!」
あたしは車から下り、窓から手を振るオベロンとティタニアに手を振り返し、門へと入っていった。
(戦争の話って怖いからあまり好きじゃなくてよく調べてなかった。確かに……ジャスミン・ディアーブルの名前はミランダ様の記事に載ってたかも)
ああ、気になったら集中力がそっちに向かって発信される。
(……今日の昼も図書室だな。歴史の本あったと思う)
あたしは教室に入った。
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