第8話 二人の関係
今日の授業が終わった。皆が勉強から解放された安堵感から笑顔で帰る中、あたしは教室の掃除をする。
(はあ。この後バイトか……)
うふっ! でも昼間にミランダ様に会えたからどんな客が来ても頑張れそう! あ、でもなるべく嫌な客は来ないでほしいな! 今日くらいは嫌な客来ないでほしいな! 幸せな気分の時は残りの一日も幸せな気分で過ごしたい。今日接客するお客さんは皆良い人でありますように。小銭を投げてきたり、よくわかんないいちゃもんつけてくる暇人なんか来ませんよーに!
(ああ、本当にミランダ様が特別講師の先生だったら良かったのに。でもきっと別のクラスにされるよな。マリア先生はあたしがミランダ様の屋敷に転がり込んでること知ってるし。……でも、もし、こう、ありえないけど、……よくある漫画みたいに……「皆の先輩であるミランダ・ドロレスだ。諸君、きちんとドロレス先生の授業を受けるように」「ミランダ・ドロレスです。よろしくお願いしますよ」「よう。ルーチェ。頑張ってるか?」「あ、だ、駄目だよ。セーレム! あたしがミランダ様の弟子だってことは、皆に秘密にしてるんだから! ばれたら色々と厄介でしょ!」)
皆に知られてはいけない関係。この位置関係がよりあたしの妄想心・発想心をくすぐってくる。
(あーん♡ もう♡ ミランダ様ぁー♡ 皆の見えない所に呼び出して「さっきの魔法は悪くなかった。その調子で頑張りな。お前には期待してるんだからね。そもそもお前は教室の皆と顔つきが違った。流石、私の弟子だよ」なんて、そんなそんなぁー♡!!)
「じゃあねー。ルーチェ。お疲れ様ー」
「お疲れ様ー」
「お疲れ様ー」という顔をして、頭の中では『もしもミランダ様が講師としてうちのクラスにやってきたらストーリー』というありもしない、この先もやってくるか不明の物語を自分勝手に描いていく。
(「私はね、お前と出会った時から光るものを感じていたんだよ。やっぱり私の目は正しかった。そうだ。ルーチェ、今日は一緒に帰ろうじゃないか」「え、でもミランダ様♡、ミランダ様が電車に乗ったら、大騒ぎになっちゃいます♡」「ふっ。馬鹿だね。私の飛行魔法に決まってるじゃないか。さあ、お乗り。絶対に手を離すんじゃないよ」「はい♡! ミランダ様♡! 一生ついていきます♡!」)
むふふふふふふふふふ!!
生徒達がのんびり歩く廊下をずかずか歩いて進んでいく。脳の衝動性が暴走している。でも構わない。だってあたし、今こんなに幸せでふわふわした気分なんだから!
(そうだ! お金があるからシュークリーム買って帰ろー)
「ルーチェ♡」
(そうだ! セーレムにお菓子買って帰ろー)
「ね、ルーチェ♡」
(そうだ! 今月のスケジュール確認しないとー。スケジュール帳は……)
リュックを胸に抱いてチャックを開けようとすると――その手を掴まれた。
(うん?)
顔を上げると、
「ルーチェ♡、待って。出かけようって言ったじゃない」
輝かしいパルフェクトの笑顔に、あたしの幸せな気分が一気に凍りついた。
「プリクラ撮るの久しぶりだね。わたくし、上手くポーズ出来るかな?」
……何のことでしょうか。パルフェクト先生。
「嫌だ。ルーチェ♡ったら。さっき一緒にプリクラって……」
知りません。それではバイトがあるので。さようなら。パルフェクト先生。
あたしはリュックを背負って学校から出ていく。
「あ、ルーチェ♡」
あたしは駆け足で階段から下りる。
「待って。ルーチェ♡!」
(うるせえ! 誰が待つか!)
あたしはバイトへの道を走る。いつもは裏道を使うけど、今日は人混みの覆い表通りを使う。
(ふん。これだけ人が居たら追ってこれまい! ざまあみろ。クソ女! 二度と声かけてくるな! ばーか!!)
(ふう。……これで安心だ)
(さあ、バイト先に行こ……)
振り返って、歩き出そうとして――息を止めた。
(ひっ!?)
雪の壁に雪像にかまくらに雪だるまにダイヤモンドダスト。木の葉っぱが急にやってきた寒さに驚いて全て抜け落とした。凍りついた地面に人々が滑って転んだ。涼しい服装で歩いてたOLが震え上がった。走るサラリーマンが鼻水を出した。タクシーが滑り、車が滑り、クラッシュして、事故が起きて、渋滞が起きて、電車が止まり、虫が冬眠を始め、――表通りにやってきた冬に、全員がパニックになった。
「一体何なんだ、これは!」
「異常気象だ!」
「大変だ! 大変だ!」
「サンタさんが来るぞぉーー!」
「ツリーを出さなきゃーーー!」
「あっ! 先っちょの星が盗まれてる!」
「待てー! 怪盗パストリルー! 今日こそ貴様を逮捕するぅー!」
「おい、早くカメラを構えろ!」
「とくダネだ!」
前の道から走ってきた気前の良い先輩がカメラを構え――あたしを見つけてはっとした。
「おお! ルーチェちゃん!」
「……先輩、これは……」
「今日シフト入ってる!? 店のドアが開かなくなって客も店員も閉め出しだ! ありゃあ、開いたとしてもドアが故障してるって言うんだから一日掛かると思うよ!」
「はい!?」
「というわけで帰ってよし! 店長からの伝言ね! 有給扱いにしておくってさ! じゃ、ルーチェちゃん、俺本業があるから!」
「先輩、早くカメラ! 中継繋げます!」
「はーい! こちら中央区域表通りです! ご覧の通り街の中が突然の雪景色となって……」
(……)
あたしは唖然と立ち尽くす。
「もう、足早いんだから!」
肩をぽんぽん叩かれて、なでなでされて、ぎゅっと抱きしめられる。
「ルーチェ♡、こんな寒い所にいないで、隣町の繁華街まで行こう?」
「……」
「あ、わたくしのことなら心配しないで。魔法かけてるから誰もわたくしが歩いてることすら気付かない。今わたくしの姿が見えてるのは、ルーチェ♡だけだよ? だからね、どんな会話してても平気なの。『パルフェクト先生』も良いけど、いつもみたいに呼んでくれた方が、わたくし、とっても嬉しいな?」
「……」
「あ、ルーチェ♡、クレープ食べない? バナナチョコレート好きでしょう?」
「……」
「ほら、おまんじゅうもあるよ。何がいい? 何でも買ってあげる。久しぶりに会えたんだもん。ルーチェ♡ったら連絡先も変えて住所も変わってて、もう探し出すのに時間かかっちゃった。ああ、ルーチェ♡、久しぶり。会えて本当に……嬉しい……♡」
「……」
「ほーら、ルーチェ♡ 行こう? ね?」
(……お腹、痛くなってきた……)
あたしの足が繁華街に向かって、パルフェクトにずるずる引きずられ始めた。
(*'ω'*)
「きゃーーー! すごーい!!」
パルフェクトがプリクラ機で興奮する。
「可愛いーー!」
同じポーズで撮らされたあたしの周りにスタンプを押しまくって文字を付けまくる。
「ル・ー・チェ・♡・か・わ・い・い……っと!」
あたしはプリクラに文字を書いた。くたばれクソ女。
「ル・ー・チェ・♡・あ・い・し・て・る……っと!」
あたしはプリクラに文字を書いた。くたばれ顔だけ女。
「ル・ー・チェ・♡・え・い・え・ん……っと!」
あたしはプリクラに文字を書いた。犬のうんこ踏んじまえ畜生女。
「わあー! どうしようー! 嬉しいー! はい、半分個ね! わぁー! どこに貼ろうかなー!」
「……」
「あ、ルーチェ♡のスマホケース可愛いね。見せてー?」
「……」
「わあー! 可愛いー!」
パルフェクトがあたしのスマートフォンを奪った。
「ちょっ、なにっ……!」
パルフェクトがケースからスマートフォンを取り出し、普段は死角となってるスマートフォンの背中に、一番大きいプリクラを貼りつけた。
(んな”っ!!)
スマートフォンがケースに戻される。
「はい。返すね。ありがとぉー」
(……ありえない……。スマホ変えたばかりだから……あと二年使わないといけないのに……最悪……)
「ルーチェ♡、シュークリーム食べに行こう? ほら、こっちこっち」
(最悪……最悪……)
ずるずると引きずられ店まで引っ張られていく。
「いらっしゃいませぇー! お好きなお席どうぞー!」
「あ、ルーチェ♡、あそこの席、景色が見えて綺麗だね! あそこにしよっか!」
(『もう生きてる意味がわからない。消えてなくなりたい。なう。』トゥイートっと……)
「きゃー! メニューいっぱいあるよー!? ね、ルーチェ♡はどれにするー?」
(『パルフェクトみたいな女は、全員、消えろ。』トゥイート……)
スマートフォンの電源がぶつっと切れた。
(うわっ! トゥイートする前に切れた! 最悪! せっかく文字打ったのに! 費やした時間返せ! ばか! ばかばかばか! このスマホ壊れてるんじゃないの!? 交換に行こうかな!)
「ルーチェ♡」
はっとして――恐る恐る顔を上げると――パルフェクトがにっこりと微笑んでいた。
「話し相手がいるのにスマートフォンとばかりお喋りするなんて、寂しくなっちゃうからやめて? お願い」
何がお願いだよ。
「いつ寮から出たの? 会いに行ったのにいないんだもん」
結構前。
「ルーチェと会えなくて寂しかった。パパとママに聞くわけにもいかないし、役所に行ったところで住民票見せてなんて言えないし」
だろうね。
「ルーチェ♡も、わたくしに会えなくて寂しかったでしょ! お仕事も立て込んで、唯一ルーチェが通ってることを知ってるヤミー学校にどうやって入りこもうか策を練ってたら、特別講師の話がくるなんて! やっぱり神様って存在するんだね……。ふう。さ、今日は我慢してた分、いっぱい甘えていいからね? 甘い物好きでしょう? ほら、シュークリーム、何が良い?」
……。何でも良いの?
「もちろん!」
(……だったら)
一番高いやつ選んでやる。シューの中に果物がいっぱい入ったやつを指差す。
これ。
「オーダーお願いしまーす!」
あたしの目の前に果物がいっぱい入った大きなシュークリームが出される。
(……)
フォークとナイフで切り取って一口食べてみると――。
(……うまぁ……!)
バイト先で売ってる85ワドルシュークリームとは、大違い……!
「美味しい?」
パルフェクトに訊かれ、あたしは鼻を鳴らして無言で食べ続ける。
「こうやって出かけたの何年ぶりだろ。……五年、くらいかな? ルーチェ♡、まだ14歳だったよね?」
あたしは無言で食べ続ける。
「あの時は寮にいたのに、急にいなくなるんだもん。これでもすごく心配したんだよ?」
あたしの手が止まった。
「でも、ルーチェ♡が元気そうで良かった。それだけで、わたくしは嬉しい!」
パルフェクト先生。
「ルーチェ♡、今は二人きりだよ?」
誰か聞いてるかも。
「わたくしの魔法は完璧です」
そうだよね。貴女の魔法はいつだって完璧。パーフェクトのパルフェクトだもんね。
「ルーチェ♡……」
やめて。呼ばないで。
あたしは言った。
「ナビリティお姉ちゃん」
――お姉ちゃんが微笑んだ。
「ルーチェ♡、まだ魔法使い目指してるの?」
だったら何?
「何年目?」
……学校に通ってない時期も含めたら……12年。
「学校代は?」
自分で出してる。なるべくパパとママの力は借りないようには。
「偉いね」
お姉ちゃんに褒められても何も嬉しくない。
「ルーチェ♡、目指すのは良いけど、お姉ちゃんはね、正直思うの。ルーチェ♡には、もっと良い道があると思う。ほら、小説家なんてどう? 小説、昔から書くの好きだったでしょう?」
魔法使いになりたいから勉強してるの。お姉ちゃんと違って、あたしは才能がないから地道に努力するしかなくてね!
シュークリームを頬張る。食べていれば喋らなくても済む。でもあたしが黙ってもこのお喋りが黙ってない。
「ルーチェ♡、どうしてわたくしがルーチェを探してたかわかる?」
知らないし知りたくもない。
「わたくしね、四年前からタワーマンションのお部屋買ってるの。で、そこじゃ足りなくて、他にも沢山お部屋を買って、賃貸にしたりして収益もらっててね? で、今はその中でも一番いいお部屋に住んでるんだけど」
……ああ、そう。だから?
「一緒に住もう?」
あたしはシュークリームを食べる。
「ルーチェ」
お姉ちゃんが微笑む。
「四年前、わたくしが寮に行ったのは、ルーチェを迎えに行くためだった」
でも、ルーチェは居なかった。既に退去していて。
「探偵を使ってルーチェがヤミー学校に通ってることは知ってたけど、なかなかタイミングが掴めなかった。突然行ってもルーチェはきっと……逃げると思ったから」
……。
「この四年間考えてた。考えなかった日はなかった。どうしたらルーチェを説得できるかなって」
お姉ちゃんがジュースを飲んだ。
「でも、説得する言葉なんて考えたって仕方ないって思ったの。結局何を言ったってどんな交渉したって、わたくしはルーチェと生活できたらそれでいいんだもん」
舐められるような視線で見られる。
「ルーチェ♡」
手をそっと重ねられて、まっすぐ見つめられて、
「環境が落ち着いた。もう絶対大丈夫。だからお姉ちゃんと暮らそう?」
……あたしがいいよって言うと思ったの?
「ルーチェ♡、お姉ちゃんの活躍見てる?」
一躍スターだね。
「そう。街に出ればわたくしがいる」
飛行船が飛んでいる。飛行船には、パルフェクトが広告で使われていた。
「メディアはわたくしに釘付け」
街の中はパルフェクトの広告で埋め尽くされている。
「ルーチェ♡わたくしが今、月収どの程度稼いでると思う?」
「びっくりすると思うよ?」
「でもね、わたくし、それを貯金に入れてるの」
「口座をいくつか持っててね」
「これはルーチェ♡の分」
「ルーチェ♡が好きに使っていいお金だよ」
通帳が渡された。あたしはそれを見て、イラッとしてお姉ちゃんを睨む。
お金で釣るの?
「ルーチェ♡はやりたいこといっぱいあるんでしょう? 着たい服も買えるし、バッグも靴も買えるよ。病院に行ってちゃんと薬も処方してもらえるし、アルバイトももうしなくていいよ。学校代もほら、あと十年通ったって間に合う。これからもずっとお姉ちゃんがこの中にお金を入れていくから、使わないと増える一方」
いらない。そんなの。
「ルーチェ♡、お金困ってるんでしょう?」
パパとママに入れたら良いじゃん。
「入れてるよ」
……。
「魔法かけてるから気づいてないけど、毎月100万は入れてるよ? まあ、気づいてないだろうけど。あったとしても、あったんだー程度にしか思わない」
……。
「ルーチェ♡はいくら入れてるの?」
……2万……。
「ルーチェ♡、もう入れなくていいよ。わたくしが入れてるから」
……あたしが払わなくなったら……不自然に思われるじゃん……。
「大丈夫だよ。口座にはお金あるんだから。支払いも生活も安定してるでしょ」
……。
「アビリィ、元気?」
……最近、高校入った。
「……そっか」
……これいらないから持って帰って。
「ルーチ……」
いらない!
「……そっか」
お姉ちゃんが通帳を鞄にしまった。
「びっくりしちゃったかな? こんな金額見ちゃって」
……。
「でも……ルーチェ♡」
住まない。
「……」
一緒に生活なんてしない。
「……どうして?」
お姉ちゃんが嫌いだから。
「ルーチェ♡」
本当だよ。
「……」
昔からそうじゃん。お姉ちゃんはあたしが好きだったり、興味を持ったものを後からやるくせに、全部上手くいく。あたしが先に見つけたのに。魔法使いだってそうだよ。いいじゃん。今魔法使いとして、タレントして、皆からチヤホヤされて、人生がパーフェクトで、何不自由無いじゃん。
「ルーチェは」
お姉ちゃんが言った。
「トイレの水を飲んだことある?」
あたしは黙った。
「トイレの中で水をかけられたことはある?」
「靴に画鋲を入れられたことはある?」
「椅子に接着剤をつけられてスカートが破れたことはある?」
「背中からペンで刺されたことはある?」
「先生が居ない所で、服を脱がされて、下着姿にされたことはある?」
「それを皆に指を指されて笑われて、写真を撮られたことある?」
「一万ワドル渡さないとお前の家を燃やしてやるって男子に言われたことある?」
「好きでもない男子に胸を触られたことある?」
「『乳首が立った』って笑われたことある?」
「肌に性器を押し付けられたことある?」
パーフェクトのパルフェクト。
「完璧なんかじゃない」
パパとママは動いてくれたよね。最初だけ。
「学校に行って話をしてくれたり、先生も話し合いで解決させた風に見せたけど、それは終わらなかった」
男子トイレに引っ張られて服を脱がされて、
男子の性器を見て悲鳴を上げて泣きながら逃げ出して、
裸で走ってるから廊下で皆に見られて、
恥ずかしいのと、嫌悪感と、様々な気持ちが混じり合って、
パパとママへの相談が、いつか愚痴になってきて、
終わらないよ。学校辛いよ。行きたくないよ。あの子にこんなことされたの。この子にこんなことされたの。すごく困ってた。悩んでた。でもパパとママはこう言った。
「「いい加減にしなさい」」
両働きで忙しかったパパとママの心にも余裕はなくて、結局二人共わたくしの話を聞くだけになった。あんなに困ってたのに。
「行きたくないのはわかったから」
「うるさい」
「はいはい」
「わかってるってば、もう」
「そんなに休みたければ休めばいいでしょ」
学校には行くものって思ってたから、学校に行かなければならないという変な使命感があった。だから休まず通った。
でも、休まず苦しみが続いた。
どんどん自分が壊れていくのを感じた。
パパとママに言っても動いてくれない。はいはい。また言ってるよ。どうして? なんで助けてくれないの? 痛い。苦しい。辛い。涙が凍る。感覚が麻痺してきて、心が凍りついて、なぜ生きてるかもわからない。全部が否定的になってきて、全部を否定されてしまって、自分の行動がわからなくなって、もう、全てを投げ出してしまいたくなったけれど――。
「お姉ちゃん」
小さな手がわたくしに触れてくるの。
「ルーチェの光、見せてあげる」
わたくしのことを心配してくれたのはたった一人だけ。
「だからお願い。泣かないで」
ルーチェといる間だけは、わたくしはわたくしでいられた。ルーチェの隣で眠ると安心するの。ルーチェと手を握ると幸せになるの。ルーチェを抱きしめると体が温かくなるの。ルーチェにキスをすると心が満たされるの。ルーチェのためなら何だって出来る。ルーチェのためならわたくしは人生を捧げたって構わなかった。わたくしを唯一わたくしとして見てくれたルーチェの幸せのためなら、将来の為に、勉強する為に、学校に行くのだって耐えられた。
「ルーチェもついていく! お姉ちゃんと学校行く!」
わたくしから離れないの。
「お姉ちゃん、お帰りなさい!」
ルーチェが迎えに来てくれた時は、涙を流して喜んだ。
「お姉ちゃん」
ルーチェのためなら、
「早く脱げよ」
何を言われても、
「こいつがお前とヤりたいんだって」
気の弱い男子は下着を脱がされていた。
「ほら、早くしなよ」
「ナビリティ」
「早く脱げって」
「脱がされたいんじゃないの?」
「うわ、きも!」
「早くしなって」
「お前、脱がないとどうなるかわかってんのか?」
その子は、言ってはいけない言葉を言いました。
「お前の妹誘拐して、殺すぞ」
だから、全員凍らせてやった。
飛びかう悲鳴。
凍って開かない扉。
地面と壁が凍りつき、
逃げる場所がなくなって、
脅してきた女子がおしっこを漏らして、
脅してきた女子全員に服を脱げと命令して、
脅してきた男子全員の性器を氷漬けにして、
血だらけにしてやって、
ごめんなさいと言われても、
やったのはそっちだから、
絶対に許すことは出来なくて、
裸の女子たちを動画で撮ってやって、
性器が凍った男子たちを天井に吊るしてやって、
氷の地獄を、氷の拷問を、氷の制裁を。
涙を流しながらごめんなさい。
わたくしが涙を流してやめてと言ってもやめなかったくせに。
脅されてようやく自分の立場を思い知る。
わたくしの魔力が目覚めたことによって血の嵐。
悲鳴を聞きつけた先生たちがドアを開けようとしてもドアは開かず、窓から入ろうとしても氷が邪魔して入れず、
結局大人が教室の中に入れたのは四日後だった。
三日三晩、最後の一人が死ぬその時まで、地獄に堕ちるその時まで、拷問させていただきました。
そしてその日、26名中25名の生徒の死が確認された。ナビリティという少女は、その日から行方をくらませた。
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