第4話 ジュリアの訪問
テーブルに置かれたケーキ。いい匂いのする紅茶。楽しいケーキタイムに――あたしは綺麗な土下座を見せた。
「申し訳ございませんでした!!」
「ノン! 間抜けちゃん。人には過ちを犯す時がどうしてもあるのです。過ちを犯したら反省して次に活かせば良い。私は怒ってません。ええ。本当に。足に火傷を負ったけど。マントは燃やされて塵となって消えたけど」
「も、も、申し訳ございません!! 弁償します!!」
「大丈夫よ。間抜けちゃん。君は本当にお間抜けちゃんということがわかったので、私は怒ってませんよ」
「本当に、もーしあけございません!!」
「ルーチェ、こんな女に謝らなくていい。むしろお前はよくやった。この女にはね、一発お見舞いさせるくらいが丁度良いのさ」
「ちょっと黙ってくれますか? ミランダ・ドロレス。お前は本当に口を開けばろくな事を言わない」
「お前が黙ってとっとと帰れ。こんなよく晴れた日にお前の顔なんか見たくもない」
「あっははははは! こちらだってね、光オタクのお前の顔なんか見たくもなかったけどそうも言ってられないんですよ!」
「また調査の協力って言うなら断るよ。そういう仕事はしたくないって言ってるだろう」
「詳しい話をする前に、サ・アロール。ちょっと失礼」
優しい手が土下座するあたしの頭に軽く触れた。
「間抜けちゃん、私は大丈夫ですからお顔を上げてください」
「……すみません……」
「自分の罪を認めて謝罪するのは素晴らしいことです。トレビアン。こういうところは師匠よりも人間ができてる。いやはや、全く。どこかのドロレスとは大違い!」
「ルーチェ、隣に来なさい。お前もケーキ食べるだろう?」
「……頂いていいんですか?」
「ビアン・シュール! お好きなのどうぞ」
(……やった。ケーキだ)
ジュリアがあたしに手を貸し、その気遣いに甘えて手を握ると、優しく立たせてもらえる。厚い前髪から見える紫の瞳があたしの顔を覗いた。
「それにしても本当に驚きです。間抜けちゃんがミランダの弟子だったことも、ここで生活されていることも。なるほど。だから最近貴女は希望を胸に前向きになっていたのですね。素晴らしい。本当に素晴らしいことです」
けれどね、間抜けちゃん。
「私は思うわけです。貴女が本当に魔法使いになりたいのであれば、ここではなくもっと他の場所があると。ねえ、間抜けちゃん。私の家の家政婦になるお話、真面目に考えてくれた? 貴女ならここではなく、私の家で勉強する方がよっぽどあってると思いま……」
ミランダ様が指をぱっちんと鳴らすと、あたしとジュリアの間に火の粉が飛んできて、ジュリアが慌ててあたしを押した後に自分も後ろに引いて火の粉から身を避けた。殺意を込めてミランダ様を睨みつける。
「何しやがりますか! このクソ女!」
「詳しい話があるんだろう?」
ミランダ様が低い声で言い、隣の椅子を叩いた。
「ルーチェ、早く来なさい」
「あっ」
「間抜けちゃん。私は客人ですよ。私の隣で食べてくれませんか? 貴女がもぐもぐしてるところ見たいなー?」
「えっ」
「ルーチェ」
「あっ、は……」
「ミランダ、いい加減にしなさい。間抜けちゃんが困ってます」
「困らせてるのはお前じゃないか」
「私が? はっ!! 不機嫌になって弟子を繋ぎ止めることしか出来ないなんて……まるでお子ちゃまですねぇえ!!!!」
ミランダ様がテーブルを叩くのと同時に立ち上がった。ケーキと紅茶が揺れる。
「なんだい? やろうってのかい?」
「なんですか? 私に勝てるとでもお思いで?」
「お前なんて私の魔法で一捻りだよ」
「オ・ララ。それは残念です。私の魔法にかかればお前なんて小指で負かせましょう」
「私は爪でお前を負かすけどね」
「だったら私は垢で負かしましょう」
「なんだい。煽られてピキッたのかい? お前の方がお子ちゃまだよ」
「なんですか? 挑発に乗ったのはそちらのくせに。あーあ! これだから脳みそガキは!」
「脳みそガキはお前だろ!」
「いいや! お前だと思うけど!?」
「お前!」
「お前!!」
(どっちも子供臭いと思うけど、今ここでそれを言うのはただの命知らずだとわかってはいるからこそ、あたしは人生の中で無意識に鍛えられてきた『空気を読まない』をあえてここで発動しよう)
「あ、あのっ!」
今にも人を殺しそうな顔のミランダ様とジュリアがあたしに振り向いた。ひい!
「あたし! セーレムと座りますから!」
あたしはルーチューを掴み、セーレムを抱っこして、お父さんの座る席に座った。二人がセーレムを見た。セーレムが二人の美女から見られて――何を勘違いしたのか、とても誇らしくなって無言のまま胸を張った。どやあ。
「……ふん」
「……はあ。無駄な時間を過ごしました……」
ミランダ様とジュリアが椅子に座った。
「一刻も早くこの家から出たいので、さっさと話します」
「ああ。そうしとくれ」
「最近起きている動物の凶暴化についてです」
あたしはルーチューの袋を開けて、セーレムに舐めさせた。おほほぉ! 美味いよ! ルーチュー美味い! 美味いんだからぁ! おほっ! おほぉお!
「先日、可愛らしい罪なきモグラが凶暴化、巨大化し、街を襲ったのはご存知ですね」
「ああ」
「錚々たる顔ぶれの魔法使い達が駆けつけましてね、なんとか騒動は収めたものの、最近妙に多くなってる。私は何か、裏で糸口を引いてる誰かがいるのではないかと睨んでいるのです。その証拠に」
ジュリアがテーブルにきらきらしている石を置いた。わあ。綺麗な石。それを見た途端、ミランダ様の顔色が変わった。
「……魔法石」
(えっ)
あたしは石を見る。普通の石のようにも見えるが、その中から宝石のような輝きが少し見えている。へえ。これが魔法石ってやつなんだ。本でしか見たこと無い。だって魔法石は滅多に見つからない代物。自然から生まれた魔力が入ったもので、その価値は値段をつけられないほどである。いくつか魔法省が管理していると聞いたことがあるが、個人で持っている人は見たことがない。
「魔法石は魔力の石。魔力のない生き物が持てば、その体は魔力に支配され、気が触れてしまう」
「こんなもの、どこで見つけた」
「事件収束後、モグラの側で見つかりましてね」
「モグラが偶然触れてしまっただけじゃないのかい」
「一体ならばそう思ったでしょう。でも、あんなに数多くのモグラが一斉に巨大化し暴れまわり街や人間に襲いかかるなんて、不自然極まりない。まるで……」
「まるで?」
「……『十三夜のヴァルプルギスナハト』がもう一度来るみたい」
「馬鹿馬鹿しい」
ミランダ様が紅茶を飲んだ。
「大量の魔法石が埋まってる場所がどこかにあるだけだろ」
「お前に言われなくとも、それも視野に入れて調査してますよ。で、どうして私が本日会いたくもないお前を訪ねてきたのか。これが本題。この石預かってもらえませんか?」
「断る。面倒事は御免だ。魔法省に預ければいいだろ」
「今の魔法省はセキュリティがゆるゆるで。平和ボケしすぎている傾向にある。あんな大きな戦争が起きたのにも関わらず、魔法石の管理よりも、自分達の地位を守ることに精一杯のようでして」
「お前が持っていれば良い」
「私はなかなか家にいないのでね。留守の間に泥棒に入られて盗まれたらどうするんですか?」
「その程度の魔法で鍵はかけてないだろ。お前だったら」
「いざという時のために、私が持つことは出来ません。しかし、私の知る限り魔法石を預けてもその危険さを理解し、手を出さない魔法使いも数が知れてるんです」
「私がその一人だと?」
「お前のことは嫌いですけどね、そういう部分に関しては一番信頼できるんですよ。何分、お前は面倒事に巻き込まれるのが嫌な質ですからね」
「……」
「素人魔法使いの手にでも渡ってみなさい。自然魔力と身体魔力の同調された魔法。魔力が暴走するほど怖いものはありません」
だから、その危険性もお伝えするために、
「間抜けちゃんもここにいてもらってるんです。こういう子が一番手を出しそうなものですからね」
(……まともであれば、気が触れるものに自分から手を出そうとする人なんていないよ。ね。セーレム)
セーレムは変わらず喘ぎながらルーチューを舐めている。
「いかがでしょう。ミランダ」
「……金も発生しないのに、こんな危険なものを預かれってかい?」
「大丈夫。この事件の調査が終わったら協力者として名前を挙げますので、魔法省からたんまり貰えば良い」
「……。いいや、駄目だ」
「ミランダ」
「私一人であればね、考えたかもしれないけど……今はルーチェがいるからね」
ミランダ様に見られる。
「この子に何かあったら私の責任になるんだよ」
……あたし、そんな怖いもの触りません。
「障害者の怖いところさ。パニックになったら何をしでかすかわからない」
障害者は関係ありません。
「ルーチェ、考えてごらん。魔法石はね、本当に危険なんだよ。魔力のない人間が触ればその身体、心を奪われ魔力に支配される。魔法使いであれば平気か? いいや。魔法石は兵器さ。生まれつき備わってる身体の魔力、そして自然から生まれた自然の魔力。自然魔力はね、身体魔力は比べ物にならないほどの量で溢れている。それを利用したくなる誘惑に、欠陥だらけのお前は勝てるかい? この石に触れた途端、お前の体も心も石に支配されて、お前は石に意思を動かされ、副作用が起きても魔力を暴走し続け、やがて命の灯が消えることにもなりかねない」
触らなければ良いんですよね? いいです。触りたくないです。そんなもの。
「ここに置くのは危険すぎる」
ミランダ様。大丈夫です。
あたしはジュリアを見た。
ずっと預かるわけじゃないですよね?
「ウイ。もちろん、事件の調査が終われば回収に来ます」
期間限定ってことですよね? 大丈夫です。あたしその間にここに魔法石があることも忘れてると思いますので。ただ、私やセーレムが触れないように絶壁の器の魔法をかけてほしいです。地震が起きても割れないような。……やっぱり、怖いことは怖いので。
「……」
大丈夫です。掃除する時も近づきません。
「……ああ。わかったよ。……絶対触るんじゃないよ」
はい。
ミランダ様が魔法石に杖を構えた。
「その姿を映しても、手には触れられん。お前を牢屋に閉じ込めよう」
カプセルのような器が現れ、魔法石がその中に入った。魔法石は器越しから不気味な光を見せている。
「私の仕事部屋に置いておく。それならお前も片付けに来ないだろ」
助かります。ありがとうございます。
「話は済んだな。ジュリア。もうここに用は無いはずだ。とっとと失せな」
「ノン! 馬鹿な! その黒い眼は節穴ですか? 見なさい。私のケーキを。まだ食べてる最中じゃありませんか!」
「知るか! とっとと失せろ! こんな危険なもの渡しやがって!」
「いいえ! このケーキを食べるまでは、私ここにいますから! 絶対に帰りませんから!!」
ミランダ様、紅茶入れ直しますか?
「ああ。頼むよ。その間にこれを置いてくる。全く。ルーチェ。この根暗魔法使いをよく見ておくんだよ。いいかい。こんな風になっちゃいけないからね!」
「オーーーマイゴッド! それはこっちのセリフです! とっとと部屋に置きに行ったらどうです!?」
「言われなくてもそうするよ! 馬鹿!」
「馬鹿はお前です! このばーーーか!!」
「おい、仲良くしろよ。火花を散らされてるのは俺達なんだぜ?」
セーレムがあたしのお皿に乗ったいちごケーキを見た。
「一層のこと二人でいちご狩りでも行ってきたらどうだ? 仲良くなって帰ってくるかもしれないよ」
「誰がこんな奴と!」
「いちご狩りなんて」
「「御免(だね)(です)!!」」
ミランダ様が鼻を鳴らして、ヒールの音を強く鳴らしながら仕事部屋に入っていった。
(あんなに人とバチバチするミランダ様、初めて見た……)
「お見苦しい所を見せてしまってすみませんね」
ミランダ様とは打って変わって、ジュリアがあたしに優しく微笑む。
「あの女とはもう会った時から馬が合わないと言いますか、もうとにかく価値観が反対方向なんです。私がこんなにも心広く持ってあげてるのに。あの女が馬鹿なんです。心も器も小さいんです。……これくらいね!」
でも、ミランダ様、すごくお優しいんですよ。あたしのために色々してくれるんです。
「ウイウイ。訊かせて頂けますか? どーーーーしてこんな所にいるの? 間抜けちゃん。あの女、何か身近な関係なの? まさか、親戚!?」
学校が一緒なんです。あたしがミランダ様の母校に通ってて、そこにいらっしゃる先生の紹介で転がり込みました。
「はあはあ。先生のご紹介」
ジュリアさんも……その、ミランダ様と同じ教室で勉強したことがあるって聞いたんですけど……。
「……ああ。……ええ、まあ」
ジュリアさんもヤミー学校出身なんですか?
「いいえ。私は第1ミラー魔術学校です。ミランダとは学校ではなく、学校に入る前に通っていた小さな魔法使いの教室があって、そこで知り合っただけです」
……そうだったんですね。じゃあ、小さい頃のミランダ様を御存知なんですか?
「クソ生意気な女でしたよ。最初から」
(……ミランダ様も子供だった時があるんだ……。いや、当たり前か……)
「ところで、貴女にミランダを紹介した先生がいたと仰ってましたが、その方のお名前をお伺いしても?」
マリア・ハーベルト。
「わお。マリア先生でしたか。彼女はすごい魔法使いですよ。偉大な方です。寛大な心の持ち主で、でも時には厳しい人。まるで聖母のような方です。なるほど。納得です。彼女の紹介なんて、間抜けちゃんは相当目をつけていただいているのですね!」
……同情枠です。
「ん? 同情枠?」
去年、さっきお話されていた動物の凶暴化の被害に遭って。……マリア先生主催のイベントの手伝いをしていたのですが、正直、そこでこの道を諦めようとしていました。ただ、凶暴化したリスが暴れてイベントが中止になっちゃって、最後まで出来なかったんです。中途半端に終わらせたくなくて、でもその先もどうしていいかわからなくなってしまって。……それで……イベントの代わりに……ここを紹介してもらいました。
「辛いお話をどうもありがとう。ミランダはそれでよく君を弟子にしましたね」
一ヶ月お試し期間を設けていただいて、なんとか残れました。
「ルーチェがアクセントのことよくわかってなかったから、俺が教えてやったんだよな」
セーレム!
「ブラボー! それでもミランダが見込んだということは、間抜けちゃんの努力が認められた証拠なのでしょう!」
まだ沢山叱られますけどね……。
「あの女は心が狭いのでお気になさらず。しかし、『今』、『この状況下』で、ミランダの弟子になれたということは誇りを持っていいでしょう。貴女にはそれくらいの魅力があったわけですから」
……以前、ジュリアさんに試験があるとお話したと思うんですけど、あれがミランダ様から頂いた試験だったんです。
「ああ、そうだったんですね。……はあー。そうでしたかー。なるほどー! ……だったら余計なアドバイスしなければよかったですね……」
え?
「いいえ。ミランダに認められて本当に良かったです。そうですね。本当に以前の間抜けちゃんと比べたら見違えるようです。私が最初に会った時の貴女は確実に辞めるだろうと思ってましたから」
……でしょうね。
「どうですか? 魔法、楽しいですか?」
……練習はしんどいですけど、でも、喋れる言葉とか単語が増えてくると、わくわくしてきます。
「それを継続出来るといいですね。モチベーションは自分で上げていかないと下がる一方ですから」
はい。頑張ります。
「ミランダに追い出されたらいつでも連絡してくださいな」
あたしのスマートフォンが突然通知音を鳴らした。ジュリアに断ってから覗くと、チャットアプリに黒猫のアイコンの連絡先が追加されていた。名前は『(*´ω`*)』になってる。
「それ、私です」
顔を上げると――ジュリアの顔がすぐ側にあった。紫の瞳があたしを見つめてくる。
「間抜けちゃん、私、思った以上に間抜けちゃんのこと気に入りました。ミランダの弟子だから、ではなく、純粋に貴女の放った魔法を見て、もっと貴女の腕を試したいと思ってます。君は言ってましたね。光魔法が好きだから光魔法使いになりたいと。トレビアン。素晴らしい。目標を一つに定めて目指しているのはとても素晴らしい。でもね、人には合う合わないが存在する。私が見ている限り」
出会った時から君を見ている限り、
「君は光よりも、闇の方が合ってると思いますよ」
――すごい勢いでジュリアが後方に飛ばされた。ぎょっと目を見開くと、あたしの視界の端から長い腕がテーブルに下ろされ――ミランダ様が怒りの眼でジュリアを睨んでいた。
「さっさと帰れと言ってるだろう」
「クソが」
壁に激突する前に、ジュリアが闇魔法で自分の影をクッションにし、地面に下りた。
「これだから心の狭い魔女は駄目なんですよ。全く。私でなければこの家は崩壊してましたね」
「崩壊か。面白い。だったら今すぐに後悔させてやろうか?」
「ああ、お前の戯言はもう結構です。なんで間抜けちゃんがお前なんかを慕ってるのか意味がわからない。……あーー! そうそう! もう一つ!」
「帰れ!」
まあまあ。
「まあまあ。ミランダ。落ち着けよ。俺のおやつを渡し忘れてるのかもしれない。喋らせてやれよ。どうしたんだ。ジュリア。俺へのおやつ、どんなものを持ってきたんだ?」
「いいえ。セーレムのおやつは残念ながら持ってきてないのです。ただね、今帰ろうとして……大事なことを思い出しまして。間抜けちゃんに訊きたいんです」
「ルーチェがお前に話すことは無い。帰れ」
「どうせミランダには関係ないことです。本当に一つだけ。間抜けちゃん。君はルーチェって名前なの? ストピドって名前なの?」
ルーチェ・ストピドです。
「ルーチェ、返事しなくていい」
えっと、ですが……。
「なるほど。ストピドがファミリーネームだったんですね。っていうことは、この質問も投げて問題ないでしょう」
「なんだ?」
なんでしょう。
「間抜けちゃん」
「パルフェクトってご存知?」
「知りません」
――ミランダ様が眉を潜ませた。
「パルフェクトって、あの氷魔法使いの?」
「ええ。そうなんです! 今度会食に行くので、誰か彼女の好きなものをご存知ないかなー! と思って!」
「おー、パルフェクトなら俺もテレビでよく見るよ。あの子可愛いよな。人間にしておくの、本当にもったいないと思うよ。ルーチェもそう思うだろ?」
「どうかな。あんまり見ないからな」
あたしはスマートフォンで、パルフェクト 食べ物 で検索してみる。
「芸能事務所のプロフィールには、シュークリームって書いてますよ」
「ノン! デザート情報があっても食事情報がないと相手に悪いです! 私、ミランダとは違って、そういう気遣い大事にする人ですから!!」
「はっ!」
「パルフェクトさんは本当に謎が多い人物です。プライベート情報はゼロ。出身情報もゼロ。ご家族もいるかどうかわからない。友好関係も全く情報が出てこないのが、またこれ、謎すぎる魔法使い。まだまだお若いのによくやりますよ。だから……」
ジュリアがあたしに微笑んだ。
「情報が欲しかっただけなんです」
「……」
「そうですかー。学生の間抜けちゃんであれば、流行りに乗ってる今を生きるパルフェクトさんの情報が少しでもあるかなーって思ったんですけど、いやー、そうですかー。……残念ですー!」
まあ、でも、
「素晴らしい情報を得ることが出来ました。ありがとうございます!」
「要件は済んだかい? だったらもう本当に出ていってくれ。邪魔なんだよ。お前は」
「サ・アロール。くたばれ。ミランダ」
「消えろ。ジュリア」
ジュリアがふっと笑って、地面に杖を向けた。
「さようなら。煙管臭いデクの家。さようなら。可愛い可愛い
ジュリアの影がジュリアを飲み込み、そのまま影の中に沈んでいき――ジュリアが家から出ていった。
「ああ、全く。いつ見てもいけ好かない女だよ」
ミランダ様が椅子に座った。
「ルーチェ、あの女に何言われても返事なんかしなくていい。あの女はね、仕事で調査ばかりしていて情報オタクになっちまった。詮索されたくなきゃ何も答えず、知りませんで突き通しな」
……はい。
「……パルフェクトの魔法は正直とても美しいよ。私が嫉妬して研究に没頭してしまう程ね。お前、テレビで見たことないかい?」
……タレントとしては見たことありますけど、魔法使いとしてはあまり……。
「勉強しておきな。今のお前には参考になる材料が沢山あるから」
……氷魔法は使わないので、あたし、ジュリアさんのこと勉強してきます。
「あいつのこと勉強したって何のヒントにもならないから止めておきなさい」
……あの、でしたら、ミランダ様。
「ん?」
風の魔法使いの、……って人知ってますか?
「ああ。あいつかい。一緒に仕事したことあるよ」
どんな魔法使うんですか? あたし、顔だけ知っててホームページで調べたんですけど、あまり記事が出てこなくて。
「知る人ぞ知る魔法使いだからね。あいつは……」
会話に飽きたセーレムがあたしの膝から降りる頃、あたしとミランダ様のお茶直し会が始まった。
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