第六話 アクィラ商会
「た、ただで済むなと思うなよ……」
男はそう言うとバタ、と音を立てて倒れる。
なんてわかりやすい小物なのだろうか。
「これで最後の様ですね、お待たせしましたマスター」
「お、おう。早かったな」
襲い掛かってきた者たちはみな一郎たちによってボロ雑巾のようにボコボコにされた。
とはいえ骨を折ったりひびを入れたり等の後に残る怪我はさせていない。彼らもちゃんとそこらへんの線引きはしっかりしている。
「で? こんだけ騒ぎになっているのになんで誰も来ないんだ? この国の警備はどうなってんだ」
俺たちは普通に人目のつくところで襲われた。だというのに誰も助けてくれないどころか守衛を呼んでくれもしてない。そんなに治安が悪いのか?
「キクチさん。実はこの国にはいわゆる騎士団のような国を守る存在がいないんすよ」
「へ?」
どういうことだ。
そんなのいいように襲われるだけじゃないか。
「その代わり商会は専属の『傭兵』を雇ってるっす。もし他の商会がちょっかいをかけてきたら傭兵がそのもめ事を解決するっす」
「へえ、そういう制度なのか。だけどそれなら強い傭兵を雇っているところが好き放題できるんじゃないか?」
「ここで起きたことはすぐに国中へ広がるっす。度の過ぎたことをした商会はどことも取引をしてもらえなくなって潰れちゃうみたいっす」
「なるほどねえ」
どうやらこの国は絶妙なパワーバランスで成り立っているようだ。
「という事はこいつらも傭兵なのか?」
俺はボロ雑巾を指さして尋ねる。
「おそらくそうっすね。大方小遣い稼ぎで商会に無断で
確かに意味もなく迷惑行為をしていたら商会の信用問題にもなるだろう。
一見平和に見えないこの制度も意外と理にかなったものなのかもしれないな。
「じゃあ行こうっす。目的の商会はもうすぐっす」
「ああ、そうだな」
こうして俺たちは傭兵の連中を道に置き去りにして目的地へ向かうのだった。
◇
先ほどの場所から数分も歩くと目的の商会に辿り着いた。
大きさは冒険者ギルドと同じくらいだろうか。4階建ての大きな木造の建物だ。
看板には立派な
船で活躍する商会は海の生き物をシンボルにしたりするらしい。デザインも凝っており見ているだけで楽しい。
「じゃあ入るっすか」
「そうだな」
商会の一回は広く、馬車のまま入れる造りになっている。
これは合理的だな。
中にはたくさんの人と馬車で大賑わいだ。いたるところで武器や食品が売り買いされている。どうやらこの商会は繁盛しているようだ。
王国で見たことのあるエンブレムの馬車もある、知り合いがいてもおかしくないな。
「いらっしゃいませーぃ!! ようこそアクィラ商会へ!! 私は商会員のミギマと申しますぅ!! 本日はどのようなご用件ですかぁー!」
中に入るととても独特な喋り方の人物が話しかけてくる。浅黒い肌のその男はスーツにグラサン、ドレッドへアととても奇抜な見た目だ。
こんなラッパーみたいな奴でも商人になれるんだな。
さて、上手くいってくれよ。
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