第八話 王国
「あ! キクチさんやっと見えて来たっすよ!」
ロバートの声に反応し俺は荷車から身を起こし前方に目を向ける。
「あれがエクサドル王国……!」
夜が明けた二日目。
ちょうど腹も減り昼飯が食いたくなってきた頃、小高い丘の上を走る馬車の眼下に俺たちの目的地であるエクサドル王国が姿を表した。
全体が大きな円形になっており、その周りをぐるりと城壁が囲っている。
それにしても大きな城壁だ。目算だが20mくらいはあるんじゃないか?
ここらへんにどれだけ強力な魔獣がいるかは知らないがあれを簡単に崩すことはできなそうだな。
「大きな街だな! 人も多そうだ!」
「まあ王国はこの『ミナリカ大陸』の中でもトップクラスの人口を誇ってるっすからね! 商売のしがいもあるってもんすよ!」
これだけ大きい街だ。客も多いだろうがライバルも多いはず。
そんな中で田舎村から一人で出てきてたいしたもんだ。
「キクチさん! そろそろ着くんでスライムちゃん達をしまって通行証を用意した方がいいっすよ!」
「はいよ!」
俺は荷馬車のあちこちに散らばったスライム達を拾って
ちなみに現在仲間になったスライムはそらを除きちょうど100。なんと片道で収納限界まできてしまったのだ。
どうやらスライムマスターの俺に会おうとここら辺のスライム達が道で待っていてくれたらしい。なんか人気者になった気分だ。
しかしせっかく集まってもらって悪いが、流石に100匹以上は連れていけない。馬車ならまだ乗れるが街中にぞろぞろと引き連れてはトラブルの元だ。
だから心苦しいながらも100匹に達した時点で次から会ったスライムは挨拶だけで拾いはしなかった。いちおうタリオ村にいるとは伝えたので気が向いたら遊びに来るだろう。
「そこの馬車、止まれ!」
そんなことを考えていると門の関所に着いたらしい。
俺は急いで村長よりもらった通行証を懐より取り出し荷馬車を降りる。
「いやー今日もいい天気っすねガロルドさん! どうっすか調子は?」
「まあぼちぼちってとこだ。お前こそ最近よく来るじゃねえか、儲かってんじゃないのか?」
関所にいたのは鎧姿の男性だ。年は30台後半くらいだろうか、茶色い短髪が印象的の気の良さそうなおっちゃんだ。
ロバートがガロルドと呼んだそのおっちゃんは荷馬車から降りてきた俺に気づいたようで少し不審な顔をしながら近づいてくる。
「ん? あんた見ない顔だな。ロバートのツレかい?」
「あー、紹介するっす。この人はキクチ、最近うちの村に越してきた冒険者志望の人っす」
「キクチだ、よろしく」
俺が最大限の営業スマイルを浮かべながら手を出すとガロルドもそれに応じ手を握り返す。
「まあロバートの坊主の紹介だから一応信用はするがこの国でトラブルは起こすんじゃねえぞ? もし起こしたらこいつの顔に泥を塗ることになるからな」
「ええもちろんです」
通行証を見せながら俺はその脅しに笑顔で答える。
王国内では気をつけなければな。
「うん、どうやら本物の通行証のようだな。通っていいぜ。ちなみに冒険者組合は入って左の大通りをまっすぐ行ったところだ。気をつけるんだな」
おっさん、もといガロルドはぶっきら棒ながらも地図を見せながら冒険者組合の場所を教えてくれる。どうやら親切な人のようだ。
「親切にどうも、助かるよ」
俺が礼を言った瞬間、何かが肩に乗ってくる。
嫌な予感がするぞ。
「ひげのおっちゃんありがとー!」
「そ、そら!?」
嫌な予感的中。
なんと荷馬車に隠していたそらが俺の方に飛び乗りガロルドに挨拶した!
本当ならそらも収納したいのだがそれを頑なに嫌がるのでしょうがなく荷馬車の隅に隠していたというのに!
「な、なんだ!? スライム!?」
突然現れたスライムに当然のごとく驚くガロルド。
これ、まずくないか? 王国に魔獣を連れて行こうとする罪とかあるんじゃないか?
「お前……テイマーだったのか!?」
「て、テイマー?」
ガロルドから出てきたのは聞きなれない単語。
いったい何のことだろうか。
「しらばっくれんじゃねえよ! いやぁまさかお前みたいのががテイマーだとは人はみかけによらんな。テイマーなら冒険者になろうとするのも当然だったな」
「は、はあ」
「ちょっとキクチさん」
戸惑う俺にこっそりロバートが耳打ちしてくる。
「テイマーというのは魔獣を使役する人達のことっす。テイマーになるには厳しい訓練と優れた才能が必要なんでなれる人が少ない憧れの職業なんすよ」
なるほど、だから手のひらを返したようにガロルドが警戒を解いたわけか。
「にしても長いこと門番をやってるがスライムのテイマーなんて初めて見たぜ! いやあ珍しいもんを見れた。そうそうテイマーの魔獣は王国に入れるんだが魔獣の登録が必要なんだ。悪いがちょっと書いてくれや」
そう言ってガロルドは関所からくしゃくしゃの書類を取り出す。
くしゃくしゃになるほどこの書類の出番は少ないということだろう。
俺はその「使役魔獣登録書」にサラサラとそらと俺の名前、それと種族名のところにスライムと書いた。
ちなみに言葉と同じで文字も転移してすぐに使えた。
明らかに日本語ではないのだろうが何故だろうか。
「おう、書くのはそこまででいいぞ。後はこっちで書くからよ。あと申し訳ないがスライムが王国に入ったことは上に伝えさせてもらうぜ。変わった事があったら報告しなきゃいけない決まりでな」
「ええ、もちろん構いませんよ」
こういうのはこっそりしない方が後々面倒くさいことにならないから逆に助かる。
報連相の大切さは社会人の時に嫌と言うほど学んだからな。
「よし、面倒くさい手続きはこれで終わりだ! 時間取って悪かったな!」
そう言ってガロルドさんは城壁の俺たちへ道を空ける。
ようやく入れるのか。不安もあるが今は楽しみの気持ちの方が強い。
「じゃあ行くっすか!」
「ああ」
こうして俺たちは王国に入った。
俺たちの存在が後にこの王国を揺るがすことになるとも知らずに……
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