第五話 旅立ち
グランドウルフを追っ払うことに成功した俺は老朽化し壊れていた柵を直し、村に戻ってその報告をした。
ちなみにグランドウルフを倒したことは言っていない。
無用な心配をかけたくなかったし、何より俺とスライムで倒したと言っても信用してもらえないだろう。
「こんにちわ! そらはそらっていうんだよ!」
「わー! スライムが喋った!」
ちなみにソラは子供達に大人気だった。みんなして触ったり引っ張ったりして大丈夫かと思ったがソラも満更でもなさそうだった。
大人も最初は警戒していたが次第にソラの純朴さに癒されたのか心を開き始めてくれた。
これなら一緒に村で暮らしても大丈夫そうだな。
そんなことを考えながら俺は教会へと返ったのだった。
◇
「ただいま」
「おかえりなさいキクチさん。ご飯が出来てますよ」
教会へ戻るとちょうどいつもの修道服ではなく私服のエイルがご飯支度を終わらせたところだった。スープのいい匂いが俺の鼻をくすぐる。お腹が空いてくる。
「こんにちは! そらはそらっていいます!」
するとソラが本日何度目かわからない挨拶をエイラさんにする。
どうやらソラという名前をよほど気に入ってくれたようだ。
「きゃ! す、スライム?」
当然エイルは驚く。
可愛い声だ。
「そうです、そらはすらいむなのです。あなたのなまえはなんですか?」
「わ、私はエイル・バートンです。人間です」
「そっか! よろしくえいる!」
「こちらこそよろしくお願いします。ソラさん」
最初こそ驚いたエイルだが、わりとすぐに落ち着きを取り戻しソラと談笑を始める。たくましい子だ。
ある程度話も落ち着いたところで俺は今日あったことを話す。
グランドウルフのこともエイルなら信じてくれると思いそっちも包み隠さず話した。
エイルは驚きこそしたが、どうやら信じてくれたようで俺の話を真剣に聞いてくれた。ちなみにソラは疲れたのかいつの間にか「すぴー、すぴー」と寝てしまった。
「そんなことがあったのですね……。村の危機を救っていただきありがとうございます」
エイルは深々と頭を下げて礼をする。
「そ、そんな当然のことですよ! この村は俺にとっても大切なところですからね!」
「そうですか……そう言っていただけると私も嬉しいです」
そう言って彼女は優しく微笑む。
太陽みたいなその笑顔に思わずドキリとしそうになるが頑張って踏みとどまる。相手は10歳も離れているんだ落ち着け俺。
「そ、それと決めたことがあるんです」
「決めたこと?」
「はい」
グランドウルフに襲われたあの時、俺は後悔した。
せっかくこんなファンタジー世界にやったことは畑を耕したことくらい。もっと色々なことをやっておけばよかったと激しく後悔した。
このままこの村でエイルと一緒に慎ましく暮らすのもそれはそれで楽しいだろう。
だけど必ず後悔する。
せっかくのセカンドライフだ、やれることは全部やりたい。
「王国に行こうと思います」
「王国というと、冒険者になるおつもりですか?」
「はい」
タリオ村の東部には「エクサドル王国」という国がある。
ここら一帯では最も栄えた国らしく、そこには世界中に展開される冒険者の組合があると村長から聞いた。
「自分とソラの力があればそこそこいいところまでいけると思うんです。それに外の世界に行けば『スライム』の秘密も分かるんじゃないかと」
「そうですか……少し寂しくなりますがキクチさんが決めたのなら私は応援します!」
寂しそうな顔をしながらもエイルは俺の旅立ちを祝福してくれた。
王国に行ってもそっちに移り住む気はない。暇をみつけて帰ってくることにしよう。
「明後日の昼ごろ出発するつもりです。ロバートの荷馬車に乗せてもらおうと思います」
「そうですか、旅慣れたロバートと一緒なら安心ですね。無事を祈っております」
そういうと彼女は手を組み旅の無事を祈ってくれる。
うう、なんていい子なんだ。彼女に会えたでけでも異世界にきた甲斐があるってもんだ。
「じゃあ明日はキクチさんの成功を祈って、腕によりをかけて料理を作りますね!」
「ありがとう。それは楽しみだ」
二人の夜は暖かな空気で更けていったのだった……
◇
二日後の昼。
天気は快晴。絶好の出発日和ってやつだ。
「お財布は持ちましたか? それにお弁当とハンカチとええと……」
「大丈夫だって、昨日確認ちゃんとしたから!」
あわあわするエイルをなだめ俺はロバートの馬車に近づく。
馬一頭に小さめな荷車が一つついた簡素なものだが、人一人追加で乗れそうなスペースがある。
「悪いな急なお願いを聞いてもらって」
「いいんすよ別に。道中暇なんでありがたいくらいっす!」
本当は迷惑だろうにいいやつだ。
「じゃあ出発するか!」
「しゅっぱつしゅっぱつ!!」
肩に乗ってるソラも一緒に大声をあげる。
もちろんソラも一緒に行く。賑やかな旅になりそうだ。
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