【1-13】生徒会に呼ばれて
女子達が騒めく中、教室にチョークを滑らせる音がする。黒板の前にはあのキャスタル先生がいた。
「ねえ、キャスタル先生かっこよくない?」
「ねー」
「にしても本当に神様っていたんだ……」
「奥さんいるのかなぁ」
様々な声が聞こえてくる中、「はい」と元気な声と共にキャスタル先生が振り向く。黒板には綺麗な字で『ホワイト・キャスタル』と書かれていた。
「夏期休暇前ですが、以前このクラスの歴史を担当されていた
キャスタル先生の挨拶に、クラスメイト達はそれぞれ頭を下げたりして「よろしくお願いします」と言う。
そういえばその荒生先生が少し前に「奥さんが心配だから近々産休取るかも」的な事を言っていたのを思い出した。
「先生! 好きな食べ物はなんですか?」
「好きな食べ物? 甘いものかな」
前の席にいた女子に対してキラキラとした笑顔で答える。それを見た女子達が黄色い悲鳴を上げた。
モテモテだなと思いながら、教科書を手にして授業しようとする先生を見つめる。
「えーと、何ページまで進めてたんだっけ?」
「三十二ページのところです!」
「了解」
神様とはいえ、やはり先生だからか教卓に立つ姿も様になっていた。
(にしても)
突然の理事長の現場復帰。校長先生は何か事情は知っていそうだが、きっと話してはくれないだろう。でも、何となくだが何かあったって事は分かる。
黒板が文字で埋まった頃、チャイムが鳴り礼をして休み時間に入る。
その時に教室から出たキャスタル先生に駆け寄り、話しかけた。
「キャスタル先生ー」
「おや、君か。君、意外と大胆な事するんだね」
「うっ」
朝の事を言われ、ぎくりとする。
ヨムが心配だったからとはいえ今考えても早とちりだった。
気まずくなり目を逸らすと、先生は苦笑して「あまり無理をしないようにね」と言った。
「それで、何か用があって話しかけて来たのだろう? どうしたんだい?」
「あ、あのー、その……何でいきなり現場復帰したのかな、って」
「ああ。それね。んー、まあ、そうだなぁ」
少し言いにくそうにして、「色々とね」と言った。
一応荒生先生の産休も理由の一つではあるみたいだが、キャスタル先生は考える素振りをを見せた後、時計を見て「時間大丈夫?」と言ってきた。
時間? ふと、時計を見れば休憩時間が半分を切っていた。
「もし、興味があるなら放課後、私の洋館においで。話してあげるから」
「え、良いんですか?」
「うん。もしかしたら君も関係する話かもしれないしね」
そう静かに先生は言う。何となくだが、目が夕焼けの様に輝いていた気がした。
俺は不思議に思いつつも頷くと、先生はにっこりとして「じゃあね」と言って離れていった。その場で呆然としていると、後ろから「どうしたの?」とサナが話しかけてくる。
「先生と何か話していたみたいだけど、何かあった?」
「いや、まあ。ちょっと色々」
「ふうん……あ、それよりも早くしないと。次移動教室でしょ?」
「あ、ああ……」
先生の話が気になりつつも、急いでペンケースと教科書やノートを取りに戻ると、サナの元に向かう。
すると、前から二人の生徒がやってきた。ジェンマ・グルー。この学園の副生徒会長である。
赤ワイン色の髪を揺らし、俺の前にやってくると「
「ああそうそう。授業は話をつけてあるわ。……良いかしら、
「あ、はい……分かり、ました」
「……」
やはり、今朝の件だろうか。サナに「ごめんな」と言って、別れると二人について来る。見えなくなるまで、後ろではサナが心配そうに見つめていた。
授業のチャイムが鳴り、静かになった廊下を歩いているとふと、ジェンマは呟く。
「安心なさい。職員室の一件ではないから」
「え?」
「えと、後で貴方のチームの他メンバーにお知らせはするんですがその前に、貴方には偵察の依頼をしてもらおうかと思いまして」
「……偵察?」
思わず変な声がでると、ジェンマは「成績」と複雑そうに言った。
「貴方、戦場ではあまり良い成績を取れていないのでしょう? その件も案じて、
「あいつ……」
「一年の時はともかく、せめて今年中に何か成果がないと進級が危ぶまれますから……」
エリゼオはそう言うと、タブレット型端末を両手で少し握りしめる。……分かっている。言いたい事は。
そんな話をしながら校舎の最上階にある生徒会室に着くと、そこには既に会長とレオ先輩が椅子に座っていた。
「今朝の詫びですか?」
「あれは申し訳なかったが、今回は違う。ジェンマ達から説明は受けなかったのか?」
「……冗談ですって」
不機嫌気味にそう言って、どかりと少し高そうな革張りのソファに座る。会長は少し間を空けた後話し始めた。
「
「紅鹿学園と……シーギャラクシー学園……」
「今回はその偵察だ。何、お前だけじゃない。レオも行く」
「レオ先輩も?」
会長曰く、あくまでも情報収集のみらしいが、一つ気がかりな事があるらしい。
「前回、
「でも、神霧学園はそれを行わなかった。と」
「ああ。よりにもよって、政府管轄の学園がだ」
「その件については今先生達が調べているが、今回もないとは限らない。……エリゼオ」
「えっと……あ、これですね」
レオ先輩に言われて、エリゼオが俺にタブレット型端末を見せる。電子版の新聞記事のようだった。
そこにはウィーク政府の議員の数人が、魔鏡領域の国と手を結んだという話だった。そもそも、議員でも
だがその記事を読み進めていくと、最後にその議員の話があった。
「神霧学園の理事長?」
「ああ」
「じゃあ、あの時現れた時も」
「上による決定の可能性がある」
「……」
レオ先輩の話を聞いた後、ふと
「先輩」
「なんだ?」
「神霧学園って、何か研究所と連携したりしてます?」
「……まあ、そうだな。それがどうした」
「いや……少し気になって」
俺の言葉に、話を聞いていた会長の目が変わる。レオ先輩も何かを察したのか、「時雨」と少し強めに聞いてくる。
「朝の件といい、何か知ってるのか」
「櫻島、から」
「櫻島……って、紅鹿学園のか」
「ああ。昨晩、
あくまでも生徒会役員だけの話という事で、櫻島から聞いた話を会長達に話す。
すると、レオ先輩が壁際にある鍵付きの棚から一つのファイルボックスを取り出すと、ファイルをめくり出す。一時部屋の中にページの捲る音が響いた後、「あった」と言ってテーブルに見開いた状態で置いたそれは、『領域立総合能力研究所』の資料だった。
「神霧学園からそう離れた場所じゃないな」
「はい。なので、戦闘後のバイタルチェックなどもこちらでしているようです。なので、櫻島が言っていたという新しい力の能力ももしかしたら……」
「ここの可能性が高いな。だが、同時に疑問もある。その力で何をしようとしているのか……とか」
「ですね」
会長とレオ先輩の話を聞いていると、ジェンマも「確かにね」と呟く。横ではエリゼオが何度も頷いていた。
「あくまでも噂での段階だから、はっきりとは言えないけど感情を利用した力でしょう?」
「それにリエトさんはやばい研究と言っていたらしいですし……なんだか怪しいですよね」
「そうね。慎重に調べた方がいいかもしれないわね」
「会長」
「この件は、あくまでも生徒会役員だけの話だ。時雨、そういう事になったと後で日向にも言っておけ。後レオ、申し訳ないが、時雨との偵察の後いいか?」
「分かりました。何かありましたら随時報告します」
「ああ、任せた」
そんなやりとりをしていた時、チャイムが鳴る。会長は「とりあえず」と椅子から立ち上がり、俺を見つめる。
「まずは、領域の境界線の戦いだ。気を付けろよ、時雨」
「はい」
頷き俺も立ち上がると、生徒会室を後にした。
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