クラスメイトを納得させてみよう!
「うわああああ」
家に帰り、自室。僕は枕に顔を埋めて、本日の自らの行動を振り返っていた。
振り返った結果、羞恥。
お前何歳やねん。何歳やねーん。
「認めたくない。認めたくはないのだが……」
口に出して、自分の変わり始めている心境に整理をつけようとした。一体、いつからこんなことを考えるようになってしまったというのだ。初めはツンツン女と思っていたのに。心境の変化があったとすれば、やっぱり動物園か。
思い出しただけで恥ずかしくなってきた。
本当、ヤバイ。
青春を謳歌してやる。
そうは言ったが、さすがに……。
「とにかく明日、学校で皆に今日のことを話そう」
勿論、今日のこととは、衣装代の一時費用負担の件だ。元々は余計な心配はさせないようにと話す気にはならなかったのだが、もし作戦がうまくいかなかった際に彼女らにバイトという労働を課さねばならなくなるなら、話は別だ。こういう話は先にするに限る。
ただ、話し方には気をつけないとな。
先ほどの白石さんとの会話もそうだったが、熱くなって平行線を辿るのだけは駄目だ。
自分の目標が何なのか。常にそれを意識して、飛んでくる言葉を予測して、どんな折衷案に持っていけるかを考えておかねば。
納得させるにはどうしたらいいか。例えばそうだ。付加価値を付けるとかいいかもしれない。たった数日のバイトで、これほど可愛い衣装を着れるんだぞ、と。
そのためにもまず、岡野さんの衣装のイメージを明日一番に話そう。そうすることで、それに見合った対価を払うことに、バンドメンバーも了承せざるを得なくなる。
……て。
「そうか。付加価値か」
クラスメイトを納得させる方法に、一つの妙案が浮かんだ。先ほどまでの甘ったるい感情もどこへやら。僕は勉強机に腰掛けて、一つの策を練り始めていた。
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「と、いうわけで。文化祭執行委員から支給される額はたったの五千円。なるべくうまく進めますが、何かあったらあなた達に文化祭後にバイトなりでお金を工面してもらわなければいけなくなること、ご承知してもらいたいわ」
翌日、教室にて。
白石さんの粛々とした言葉に、バンドメンバー+岡野さんは少しだけがっかりとした顔をしていた。
「あの、一ついい?」
安藤さんが挙手をしていた。
「何かしら」
「あのね、あたしはバイトをすることに関してはまったく問題ないの。だけど、一つ気になったことがあって」
どうにも歯切れ悪く、安藤さんは続けた。
「その、さっき仁美ちゃんから衣装のイメージ見せてもらったじゃない?」
この議題の先に、岡野さんによる衣装のイメージ図を皆で共有していた。岡野さんの美的センスに、僕含めて皆が関心していた。どうやら衣装の方向性は固まったように端からは見えた。
「でも、バイトを始めるのが文化祭後って、本当に大丈夫なの?」
ああ、衣装のことでなく、そういうことね。
「大丈夫よ」
白石さんと視線がかち合った。その時、頬に熱が篭っていくのがわかった。ヤバイってこれ。
「とりあえず今は、鈴木君が一時費用を負担してくれたわ。もう生地も購入済みよ」
視線を外したことが同意の意と認識したのか、白石さんはありのまま全てを話した。
「えぇ! 大丈夫なの、スズキッチ」
「でぇじょぶだ」
余計な心配はするなと茶化した。
喧しくなる本田さんと安藤さんが鬱陶しく思いそっぽを向くと、ちょうどそこに座っていた山田さんと目が合った。
「あんた……」
山田さんは、端から見ても複雑そうな表情でこちらを見ていた。
「何か?」
「……別に」
「そう」
「費用工面の方法は、文化祭のクラスの催し物の売り上げで賄えないか検討中よ」
白石さんが説明すると、バンドメンバー一同が唸った。
「売り上げ伸びるかなあ」
とか、
「いや、他の生徒納得させられるかじゃない?」
とか、
「マヂ卍」
とか、様々な意見が飛び交っていた。まあ、どれも事前に僕と白石さんが問題点として挙げていたことだ。
「ああ、それでだ。クラスメイトを納得させる方法、一つ案が浮かんだ」
そう僕が挙手すると、白石さんが大層意外そうに目を丸くしていた。
「昨日の今日で、何か浮かんだんだ」
「まあね」
再び視線が合った。思わず、そっぽを向いた。
「えぇと、まずは認識を確認したい。バンドメンバー諸君、君達はバンドの練習をしている今と、バイトをするの、どっちが楽しい?」
そう尋ねると、皆が顔を合わせあった。
「そりゃ、バンドだけど」
「オッケーだったら丁度いい」
僕は続けた。
「皆に先に言っておくと、僕達は何も文化祭の売り上げを打ち上げに一切使わないと言っているわけじゃないんだ。それでも納得出来ないだろうと踏んでいるのは、なんだかよくわからない小娘達のバンドなんかのために、お小遣いがもらえないから、というわけだ。だったら、お小遣いに勝るような付加価値を付けてやればいいのさ」
「つまり?」
安藤さんが小首を傾げた。
「つまり、当日の文化祭打ち上げでは、君達の生演奏が聞けるってことにするんだよ。それも、文化祭ライブで聞かせた曲とはまた違う曲。いや、ライブで演奏した曲も含めて、全部で三曲!」
「えぇ!」
「それは……」
「大変」
「でも、バイトするよりは練習した方が楽しいんだろ?」
言質をとった言葉を聞かすと、少女達は苦悶の表情を浮かべていた。
「す、スズキッチ。それがマネージャー補佐のすることかい?」
「to-doリストでも練習は君達の仕事だからね」
だからこそ、互いの業務割り振りを明確にしたのだ。僕はマネージャー補佐として、資金工面の案を出し、それを遂行するために彼女らにしか出来ない新たな仕事を依頼したのだ。
「それに、それでバイトもせずにライブ出来るのなら得だと思うけど?」
「鈴木、一つ質問」
「どうぞ」
「もう一曲追加で練習するのは構わない。でも、それで本当に大丈夫?」
「というと?」
「あんた、ライブを有償にするのは絶対駄目だって言ってた。なのに、対価として演奏を出して大丈夫なの?」
「大丈夫。だって、そもそも彼らは一銭も金を出していないんだから」
即答すると、山田さんは「ああ、そうか」と理解した。
「彼らにしてみれば、学校行事でお小遣いが手に入ったラッキー程度の認識なんだよ。有償で自分の懐からお金を出すのとはわけが違う。それに、三十人クラスで二万円を割っても六百円とかそこらしかもらえない。だったら、手間しかない打ち上げの幹事含めて全部こっちで調整してくれて、かつ同級生のライブも見れる打ち上げに賛成と多数はなるはずだ」
一部はごねるかもしれないが、それはまた別の話。多分そういう連中は、打ち上げにすら反対派だからだ。少数意見すぎて、大きな声になることは多分ない。
「なら、あたしは賛成」
山田さんが同意を示してくれた。
「それでライブが成功できるなら、二曲だろうと三曲だろうと練習する」
山田さん、我が強い人だとは思っていたが、意思も固い人みたいだ。こういうタイプは、話し合いの場にいて助かることしかない。
「よし。あたしもやる!」
安藤さんが立ち上がった。
「しょうがない。スズキッチの言葉だもんね」
「右に同じ」
そうして皆が立ち上がった。
「意見、まとまったみたいね」
白石さんが優しく微笑んでいた。
さあ、後はクラスの出し物を決めるだけだ。
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