第6話
「あんたのところの新人はとんでもないわね」
魔獣の言葉が理解できる人物は限られている。
白川の存在が明らかになれば実験に使われるのが関の山だろう。
「どうりで手元に置いておきたいはずよね」
「うるさい」
獣化した日日が隣に降り立ち気配に声をひそめると口を開いた白い獣は「花と桃花白川両名もそのまま次の現場に向かってくれ。日日は鉱石の回収を」烏谷の声となり指示を出すと
「はーい」日日が続いて声をあげた。
日日が白川を背に乗せこちらへと降りてきた彼女は開口一番に頭を下げてきた。
「申し訳ありませんでした」
「……なんのつもりだ」
「私は指示に背きました」
「べつに、そのような規律はない」
「ですが……」
「それより怪我は?」
「いえ、とくには」
「そうか、ならいい」
「あのね、白川ちゃん。桃ちゃんはこう見えても──」
「黙れ日日。さっさと烏谷のところに鉱石を持っていけ」
空へと放った鉱石に噛み付いた四つ脚の白い巨獣は勢いそのまま異空へと消えて行った。
「ちょっとー、話が済んだなら行くわよ」
声を投げてきた花はすでに扉を作り上げ空間を繋げていた。
「来ないのか?」
留まったままの白川に疑問を向ける。
「……私も一緒に行ってもいいんですか??」
「同行しろとの上からの命令だ」
こうならないように手を打っていたはずだったが、彼女はどこか嬉しげに表情を緩ませていた。
「準備はいい?」
踏み出した先には鉱石が六角柱となり連なり巨大な鉱石の山となった鉱石を取り巻く鉱脈師と幾らかの隊員がいた。
「あら? あんたこんなところでなに油を売ってるのよ」
「それはこちらの台詞だ。あれはどういうことだ」
おおかた、鉱脈師が欲を出したか。
「人手が足りてないの。あんた、暇なら手伝ってちょうだい」
「その職は退いたはずだが」
「上司命令」とぴしゃりと跳ね除けられ「あんたくらいよ、あたしにその顔をできる馬鹿は」とため息を吐かれた。
「誰か桃花に武器と装甲服を与えてちょうだい」
「え、桃花? 今桃花って……」
「あの人が?」
「まじかよ」
「絶対嘘だと思ってた」
「桃花って存在するのかよ」
途端に色めき立つ辺りの隊員たちの反応に白川か戸惑っているのが視界の隅で捉えていた。
「桃花は長命だったはずだが、彼はまるで……」
「ここに来た理由を忘れたのかしら。さあ、持ち場に着きなさい」
「昔よりもずいぶんと軽くなったな」
「当たり前でしょ。あんたが抜けたせいで皺寄せが来てるんだから。うてる対策はすべて講じているわよ」
「資源はどこで調達しているんだ」
「鉱石師と魔素師に頼んで発掘した鉱石よ。光源に近い炭鉱の鉱石から打ち出したから魔素に共鳴するはずよ」
確かに。
「強度は高いわ。まず貫かれることはないもの」
わさわざ隊長格が現場に出てきたということはなにかあるんだろう。
「どうして俺が駆り出される必要がある? お前たちの仕事だろう」
「こっちは割りを食っているのよ」
「それは悪かったな」
「無駄に年だけ取ってるんじゃないわよ」
「うるせぇ。俺だって」
「俺だってなによ。母は死んだのよ。あんたに気にされても迷惑だわ」
桃花はそこで口を閉ざした。
「あんたが私の顔を見たくないのはわかるけれど、私は私よ」
母親に輪をかけて反撃する隙を与えられず桃花は黙るしかなかった。
「母と私が瓜二つでも私は私。あんたなんか嫌いよ。ばーか」
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