第147話 閲兵?

 王宮の前庭には、陛下、王妃様、マーガレット王女、キース王子、ジェーン王女、そしてオーディン王子とモーガン大使が待っていた。

 第一騎士団長、リチャード王子が素早く戦馬から降りる。

「私が抱き下ろしましょうか?」

 パーシバルも素早く降りた。でも、馬の王メアラスが跪いてくれたから、パーシバルの手を持って滑り降りた。

 

 ゲイツ様やサリンジャーさんも戦馬から降りているし、スレイプニルを連れてきた騎士達も戦馬や馬から降りて、スレイプニルの手綱を持って隊列を整えている。


「ペイシェンス様、前に行くのですよ!」

 パーシバルがぼんやり立っている私に小さな声で指示する。

 これって閲兵式っぽいけど、そんな作法はペイシェンスのマナーにはないよ。

 仕方ない、第一騎士団長の真似をしよう!


 横まで歩いて行くと、馬の王メアラスがついてくる。

 もしかして、手綱を持った方が良いのかしら?

 第一騎士団長もリチャード王子も手綱を持ってピシッと立っているのだ。

「あのう、手綱を持った方が良いのでしょうか?」

 コソッと第一騎士団長に訊ねる。

「まぁ、陛下が閲兵される時は、手綱を持って整列するが、ペイシェンス様は騎士ではないから良いのでは? それより暴れないように言い聞かせておいて下さい」

 ふうん、そうならそうと教えておいて欲しかったよ。


馬の王メアラス、私が手綱を持つけど、大人しくしててね。暴れたら、怪我しちゃうわ」

「ブヒヒヒヒヒン! ブヒン! ブヒン!」

 えええ、美味しい物はどうしたのか? ここには砂糖は無いし、ええい一回だけなら大丈夫だよね。歯も綺麗にしたら虫歯にはならない。

 ポシェットからチョコの残りを一欠片だして、手のひらに置いて食べさせる。

「ブヒヒヒヒヒン! ブヒヒンヒヒン!」

 ちょっと、美味しいからって興奮しないでよ!

「大人しくしなさい! 後であげるから!」

「ブヒン?」本当か? って疑っているけど、大人しくしていたらあげるよ。


 まるで猫を被ったように大人しくなった馬の王メアラスの手綱を持って、リチャード王子と第一騎士団長の間に立つ。ううう、胃が痛い。


 後ろのスレイプニル達も隊列を整えたので、陛下が一歩前にでた。

「冬の魔物討伐、多くの魔物を討伐したと報告が届いている。皆に感謝する! それに、スレイプニルの群れを捕獲できたのは、これからの事を考えると、とても喜ばしい。特に、リーダーの8本脚、馬の王メアラスを捕獲したペイシェンス・グレンジャー女男爵バロネスの活躍は素晴らしい! スタンピードを引き起こしたフェンリルも追い返してくれた。ここに、ペイシェンス・グレンジャーを子爵に叙する」

 えっ、それはかなり先の話だと思っていたよ。

 呆気に取られている私に「跪きなさい!」と小さな声だけど厳しく第一騎士団長が命じる。


 手綱を持ったまま跪くと、馬の王メアラスも跪いた。

「おお、スレイプニルが跪くだなんて!」

 オーディン王子が騒いでいるけど、陛下も少し驚いたみたい。

 でも、平然とした態度で私の前に立ち、剣を私の肩に置いて「ペイシェンス・グレンジャー女男爵バロネスをローレンス王国の女子爵ヴァイカウンテスに叙する。これからも国の為に尽くしてくれ」と叙勲式を挙げた。

「ありがとうございます。これからも精進します」としか応える言葉はないけど、父親と同じ地位になっちゃったよ!


「冬休みに領地を見てくると聞いたから、できたら陞爵しておきたかったのだ。それに、これは内緒にしなくても良い理由だからな。フェンリルを追い返す女子爵ヴァイカウンテスを誘拐しようとする馬鹿はいないだろう」

 コソッと話して、ウィンクする陛下! ふうん、確かに領地を見て回るのは確かだけど、罠の件とか誰が陛下の耳に入れたのかな?


 陛下は、馬の王メアラスを眺めて「立派なスレイプニルだ!」と感嘆している。できるものなら献上したいよ。

 オーディン王子とキース王子とジェーン王女も側に来て「綺麗なスレイプニルだ!」と称賛しているけど……トイレに行きたい!

「ブヒヒン!」行ってこい!

 馬の王メアラスの手綱をパーシバルに持ってもらう。

 

 私は、マーガレット王女に「お手洗いに行きたいのです」と小声で訴える。

「こちらですわ!」シャーロット女官に案内して貰って、ホッとしたよ。

 他の人は、平気なのかな? なんて心配しながら前庭に戻ると、何人かずつトイレに行っているみたい。だよね!


「ペイシェンス様、馬の王メアラスとは素晴らしい名前です!」

 オーディン王子は様付けのままだ。他のパリス王子とアルーシュ王子には断ったのに!

「オーディン王子、私に様付けはしないで下さい」

 少し考えたオーディン王子は「ペイシェンスが嫌なら様付けはしないが、ペイシェンスも私を王子呼びはやめてくれ」なんて言い出した。

「ええ、他の方がいない時なら」

 マーガレット王女がクスクス笑っている。

「ペイシェンスは、頑固ですから、それで承知した方が良いですわよ。私もまだ寮以外では、王女呼びですから」

 仕方ないとオーディン王子は諦めたみたい。


「それにしても、馬の王メアラスはペイシェンスの命令に良く従っているな。野生のスレイプニルを仕込むのは半年仕事なのだ」

 ハハハ、いう事を聞いているのでは無いけど、それは内緒にしておこう。

 もうくたくただから、屋敷に帰ってお風呂に入りたい。それに弟達を抱きしめたい!

 流石に討伐隊を長く留めておく気は陛下にも無かったみたいで、解散になった。


「王立学園の特別馬房に行くぞ!」

 王宮の隣だから、すぐに着いた。でも、野次馬が多いね! 騎士達が追い払っている。

 特別馬房は、新しく建てたみたい。木の香りが気持ち良いし、寝藁もたっぷり!

「ここがお前の馬房よ。大人しくしててね!」

 残りの一欠片のチョコをあげると「ブヒヒン!」と喜ぶ。

「綺麗になれ!」虫歯になったら駄目だから掛けておく。


「屋敷にどうやって帰ったら良いのかしら?」

 馬車のメアリーはまだ王都に着いていないかも?

「ペイシェンス様は、相変わらず呑気ですね! それより、馬の王メアラスが落ち着いて良かったです。リーダーが落ち着かないと、スレイプニル達も落ち着きません。今夜はここに寝る覚悟ぐらいはして貰わないと!」

 ゲイツ様、酷い! 私は弟達と会いたいの!

「ブヒヒン!」

 おお、行っても良いと言ってくれるの? 嬉しい! 思わず首に抱きついたよ。

馬の王メアラスは、行っていいと言ってくれましたわ!」

 ゲイツ様は、渋々認めてくれたけど、厄介なバレオスがやってきた。


「スレイプニル達が慣れるまでは、ここで過ごすのですか? どうせなら、デーン王国の大使館の馬房で過ごせば良いのに」

 あっ、まだ馬の王メアラスをデーン王国の大使館で飼うと勘違いしたままだ。

「それより、自国に引き取るスレイプニルの世話をした方が良いですよ」

 えええ、いつまで内緒にしているつもりなの?

「ペイシェンス様も、少なくとも馬車が着くまでは、ここでスレイプニルが落ち着く手伝いをして下さい」

 やれやれ、少なくともローレンス王国が引き取るスレイプニルには「大人しくしろ!」と言い聞かせておく。


 こちらのスレイプニルは、大人しくなったけど、基地キャンプ場からロマノまで駆けてきたスレイプニルは、疲れているし、新しい環境に戸惑っているみたい。

「ほら、しっかりと世話をしないか!」

 バレオスがデーン王国の騎士達にしっかり世話をしろと命令するけど、未だ野生のスレイプニルは、蹴ろうとしたり大変そうだ。


「デーン王国の騎士達は苦労している様ですね。こちらで引き取って世話をしても良いのですよ」

 ゲイツ様、そんな喧嘩を売る様な事は言わないでよ。

「私が大人しくさせましょうか?」

 これは、純粋な厚意から言ったのだけど、バレオスは顔を真っ赤にして断る。

「いえ、結構です!」

 ぶー、基地キャンプでは、私が全頭のスレイプニルの世話をしていたのに、忘れたのかな?


「ペイシェンス様、あちらが断っているのだから、勝手に世話をしたりしたら、面子を傷つけますよ。ああ、こちらの責任者がついた様です」

 王宮の馬丁頭と第一騎士団の厩番が嬉しそうにやってきた。

「これは見事なスレイプニルですね!」

 2人が自己紹介してくれた。馬丁頭は、白髪のサンダー、騎士団の厩番は少し若いトマスだ。

 それぞれ助手も連れてきているが、サンダーが中心になって馬の王メアラスの世話をしてくれるみたい。

 騎士団のトマスは、他のスレイプニルをこれから慣らして、人を乗せる訓練を騎士達と協力してするそうだ。


「雪道の中を駆けて来たのに、少しも汚れていませんね。こんなにピカピカなら、今日は水と餌をやって休ませましょう」

 馬の王メアラスも水と餌をばくばく食べているけど「ブヒヒン!」と美味しい物を要求する。

 こんなチョコをあげているのを知られたら、サンダーに叱られそうだから、コソッとあげる。

「家に帰っても良いでしょう?」

「ブヒヒン!」と許可を貰ったので帰ろう!


 馬の王メアラス達が落ち着いた頃、やっと馬車が着いたので、屋敷に送って貰う。

「ペイシェンス様、お疲れでしょうが、夜は寮に帰られた方が良いですよ。馬は朝早く起きますからね」

 そんなぁ! どっと疲れたよ!

「ペイシェンス、私も付き合いますから」

 パーシバル、優しいね!

 

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