第132話 先発隊到着
水曜は、昨日あれだけ狩ったから数は少なくなるだろと皆が期待していたけど、裏切られた。
「いくら冬が厳しいと言っても異常だろう! もしかして……」
皆、口には出さないけどスタンピードを恐れているみたい。
討伐3日目、そろそろ疲れが出てくる頃で、怪我人も少し増えている。
基地キャンプには冒険者ギルドの治療所もあるけど、なんと有料なのだ! びっくりしたよ。ツケも効くみたいだけどさ。ここら辺、異世界は世知辛いね。
ただ、騎士団や学園は自前の治療師を派遣している。まぁ、それが普通だと思うけどさ。
それと購買部には、下級回復薬や上級回復薬も売っている。かなり高額だ! リンダやジェニーが受け取るのを躊躇った筈だよ。それともキャンプ地値段なのかな?
私達は、騎士が苦手なビッグバードを朝一に討伐するのが日課になっている。
今朝は、朝食前に3箇所回って、それから朝食にした。
「巣から飛び立つと厄介です。夜は巣で寝るから、朝一に討伐した方が効率的なのですよ」
まぁ、馬車の中で、パンと紅茶は摂ったけどね。
メアリーは、お行儀が悪いと文句を言いたそうな顔をしていた。
まだ食事場が開いてなかったから、パンだけ貰ってこさせて、紅茶のマグカップを馬車に持ち込んだのだ。
保温ジャーを作らなきゃね!
前世では魔法瓶と呼ばれていたけど、こちらなら保温ジャーだね。真空はつくれるかな? 保温の魔法陣はあるから、クズ魔石を毎回取り替えるのでも良いかも?
それと、カイロも作らなきゃ!
討伐して、朝食を終えた休憩時間に、テントでメモをしておく。
懐かしい日本語でメモを書く。漢字をかなり忘れているよ! 読めるだろうけど、書くのが難しい。
でも、これって短所もあるんだよね。前なら、他の人に説明する時に、メモ帳を見せたらわかりやすかったけどさ。
これからは、説明用に別に書かないといけない。
なんて事を、エアマットレスの上に横たわって、考えていた。
3箇所で、2日間分のビッグバード数以上を討伐したからね。
全く、昨日の集団討伐で数が減っていない。それどころか増えている。
午前中もビッグボア狩りをするから、少し休憩中なのだ。
「そろそろ行きますよ!」
テントの外からゲイツ様が呼んでいる。
「はい!」
ルーシーとアイラは、段々と討伐に慣れて来ている。それに元々、戦闘が好きみたい。
私は、もう少し疲れ気味だよ。体力がやっと人並みになった程度だからね。
「今日は
馬車でレクチャーを受けた。前世でも鹿は農作物を荒らす害獣扱いだったけど、こちらでは大きいし、野放しにすると農地に多大な被害が出るみたい。
「ビッグエルクの角は高く売れますし、皮は鎧にも使えます。お肉も赤身が多くて、ビッグボアよりも煮込み料理に向いているかもしれません」
鹿は前世で一度食べた事があるだけだ。もう一つピンとこない。
どうもアニメの可愛い子鹿が浮かんできていたけど、全く違った! 象並の大きさだ。
「大きいですね!」
遠近感が狂う程の大きさだよ!
「さあ、遠くても攻撃開始です」
30頭ほどの群れを従者達がこちらに追い込んで来る。
私は剣をビッグエルクの方に向けて、先頭を走る角が立派な一頭に向かって「首チョッパー」を放つ。
「ペイシェンス様、お見事! さぁ、サクサクと討伐していきますよ」
ルーシーとアイラも何とか討伐している。私も頑張って数頭倒したけど、後はゲイツ様とサリンジャーさんが全部討伐した。
「角は何に使うのですか?」
名札に自分が欲しい部位を書くのだけど、少し悩む。
「角は精力剤として人気です。私は売りますけど、薬師は欲しがりますよ」
それはまだ作れないから、売ろう!
「ナシウスとヘンリーの革鎧用に皮は貰っておくべきかしら?」
防具については何も知らないのだ。
「ビッグエルクの防具は、初心者用で然程高くはありません。態々、皮から作る必要は無いでしょう。これからデーン王国の魔物がやってくるからもっと魔法防衛の強い皮は教えてあげます」
なら、肉と魔石だけで良いね!
私達は、午前中はここで終わりだ。基地キャンプで休憩するけど、ゲイツ様とサリンジャーさんは、もう一度討伐に出かけた。
「メアリー、少し疲れたわ」
ルーシーとアイラも魔力切れだし、私は体力切れだ。
テントでお茶を飲んで、お昼まで少し横になる。
朝が早かったから、少し寝てしまっていた。
寝ているうちに前世の夢を見た。冬の寒い時に使っていた使い捨てカイロの夢だ。
「寒いわ」
メアリーがシュラフを掛けてくれていたけど、雪が降り始めたのか、テントの中も寒い。
「お嬢様、温かい紅茶ですよ」
本当に沸くポットを作って大正解だよ。
「ああ、疲れるのは寒いからかもしれないわ」
ペイシェンスも魔素を取り込む体操のお陰で、人並みの体力はついて来たけど、私はどうも他のローレンス王国の人より寒さに弱いみたいだ。
「石を温めてお腹に括り付けては如何ですか? 田舎では冬にそうしていました」
日本昔話の世界だよ。温石、懐石?
「それ、良いかも? でも、石は重いから、スライム粉でやってみるわ。メアリー、スライム粉を取って来て!」
トイレの横にはスライム粉の樽が置いてあり、各自で撒くようになっている。
スライム粉にお湯を混ぜる。
「ふふふ……温かいわ!」
これを私の予備のペチコートを綺麗にしてから、切って四角く縫って、そこに入れたら、簡易カイロの出来上がりだ。
「でも、すぐに冷たくなるのでは?」
うん、でも私には生活魔法があるから「温かくなれ!」で、大丈夫!
でも、パーシバルは生活魔法が使えない。
「馬鹿だわ! 温める魔法陣はあるし、ここには魔石もいっぱいあるのよ!」
今度は購買部に一緒に行くよ。
「クズ魔石はありませんか? あと、折れた鉄剣とかあれば欲しいのですが?」
綺麗なお姉さんに変な顔をされたけど、クズ魔石もいっぱいあったし、折れた剣は鉄の代金で買えたよ。
「ちょっと疲れそうだけど、鉄のロケットになれ!」
はぁ、やはり錬金釜は偉大だよ。でも、折れた剣1本で何十個ものロケットができた。
さっき作ったペチコート産のカイロの表面に温める魔法陣を描く。
そして、できる侍女メアリーが持っていた針を借りて、ロケットを魔法陣の上に縫い付ける。
「このロケットは、鉄製だから、銀ほどは魔法伝導は良くないけど、熱過ぎなくてかえって良いかもね?」
ロケットにクズ魔石を入れる。
「ふふふ……温かいわ!」
メアリーに持たせたら、驚いている。
「まぁ、あんな材料でこんな温かい物ができるのですね」
前世の使い捨てカイロの方が便利だけど、ここにある物で作ったのにしては良いと思う。
「ゲイツ様も寒いのは苦手だと言われていたし、女子にはあげたいわ。それとパーシー様にも!」
メアリーは、テントに残っている従者にも協力させる。
「自分のご主人様の分ぐらいは、縫わせたら良いのです」
ユージーヌ卿や2人の騎士コースの従者は、討伐について行っているから、他の従者達が縫ったよ。
ただ、私のペチコートだから、よく知っているゲイツ様やパーシバルにはあげられるけど、他の男の人はちょっとね。
「ええい、サリンジャー様には世話になっているし、ペチコートだと言わなければ良いのよ!」
なんて叫んでいたら、アイラが目を覚まして、予備の布を提供してくれた。
「服を破いた時の補修用の布だけど、使って!」
良かった! 女の人には良いけど、本当はパーシバルやゲイツ様にも、少し渡しづらかったのだ。
全員で、鉄のロケット残り分のカイロを縫った。私は、残り布で長い紐状のも縫って、身体に括り付けられる様にしたよ。
女子全員分と、残りが10個!
「パーシー様、ゲイツ様、サリンジャー様……」
メアリーが王子様には? って顔をする。
「寒さが平気な方と辛い方がいると思うの。ベンジャミン様とかは、平気そうだけど……ああ、もうあとはパーシー様に任せるわ!」
私的には、錬金術クラブメンバーとかサリエス卿に渡したいけど、それはパーシバルに任せよう。
お昼になったから、食事場に行くけど、お腹を温めると身体が軽くなるね!
「ゲイツ様、サリンジャー様、これをお使い下さい。温かいですよ」
初回のクズ魔石はサービスだよ。
「休んでいると思ったのに! 温かいですね!」
ゲイツ様は文句を言いながらも、喜んでくれた。
「私も頂けるのですか? ありがとうございます」
お腹に固定する紐は、従者に作らせるそうだ。
やはりベルトに挟むのは動きにくそう。
「パーシー様、会えて良かったです。これはカイロです。クズ魔石はいつまで持つかわかりませんが、お腹を温めたら寒くありませんよ」
パーシバルは、カイロを受け取ると、頬に当てて「温かいです」と笑う。キュンとする!
今日は雪が降り続いているから、特に冷え込んでいるからね。
それと、残りのカイロも渡しておく。
「女子には全員配りました。寒さが苦手な方に配って下さい」
パーシバルは、少し考えて頷く。
「アルーシュ様とザッシュ様は、雪を見るのも初めてだと言われていましたから、寒さに弱いと思います。まぁ、彼らに渡してパリス様に渡さないのは駄目ですね。リチャード様にも渡しますよ。後は、カエサル様、アーサー様、ベンジャミン様、ブライス様……足りないけど、カエサル様にまとめて渡します」
ハハハ、私と同じ遣り方だよ。サリエス卿が抜けているのが違うけど、大人はアルコールを飲んだりもするからね! 大丈夫でしょう。
カエサルには、お礼を言われたけど「何をやっているのだ」と呆れられもしたよ。
何故なら、水曜の午後には先発隊が到着したのだ。
ゲイツ様は、木曜あたりに来ると予想していたけど、半日早まったね!
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