第101話 新居見学
カミュ先生の息子さん達も招待して、昼食にする。
ツナサラダは、とても好評だった。
「ペイシェンス様、これはサンドイッチにしても美味しそうですね」
パーシバル、その通りだよ!
「ええ、今夜のサンドイッチに使う為に作ったコンフィです」
人数が増えたから、こんな時はハンバーグだ。嵩を増やせるからね。
デザートはチョコレートブラウニー、エバはこれにハマったみたい。今回は胡桃がたっぷりで美味しい。
「こんなに美味しい食事を頂けるなんて!」
カミュ先生の息子さん達にも大好評だ。剣術指南代として、少しだけだけどね。
食事を終えて、私達は、新居になるかもしれない屋敷を見学に行く。
「すぐ近くなのですね」
うちにも近いけど、モラン伯爵家からも近い。
「ええ、これから何回も来ないといけないから、近い方が良いかもしれません」
わっ、想像しただけで、わくわくするけど……屋敷の庭は草が生い茂っていた。
「これは酷いな……他の屋敷にした方が良いかもしれません」
管理がなっていないけど、外から見る屋敷自体は良い感じだ。
外の門の前で待っていた仲介人が馬車に走り寄ってくる。
「パーシバル様ですね」
仲介人も、庭の草に眉を顰めている。
「草を刈るようにと言っておいたのですが……」
どうやら、冒険者ギルドに草刈りを依頼していたみたいだが、このところ初心者も掃除より下級薬草を採りに行く方が金になると引き受け手がいなかったみたいだ。
「ペイシェンス様、他の屋敷を見に行きますか?」
何軒か候補があるみたい。
「ええ、でもこの屋敷も見たいですわ」
パーシバルが剣で、生い茂った草を玄関まで薙ぎ倒す。
「ひえぇ、玄関を壊さないで下さいよ」
文句の多い仲介人だけど、パーシバルは魔法制御も得意みたい。
「これで玄関までは行けそうです」
私の手を取ってエスコートしてくれる。
「中は、外よりはマシな筈です」
そうだと良いな。
「鍵を開けますから……開かないなぁ!」
扉の鍵穴が錆びているみたい。
「開け!」生活魔法で開けたけど、泥棒はしないよ。
中も埃が隅に溜まっていたけど、なかなか良い感じだ。
「彼方がサロンです」
家具は運び出されているけど、大体の配置はわかる。
「明るくて良いサロンですね」
そう、窓から秋の柔らかな日差しが入っている。
「こちらが食堂です」
うん、良い感じだ。
「もう少し広くても良いかもしれない」
ええっ、十分だと思うけど?
「そうなのですか?」
パーシバルが笑う。
「ああ、そうですね! 家で開く晩餐会を考えていました。ここには、親戚か友人ぐらいしか呼ばないのなら十分かもしれません」
モラン伯爵は外務大臣だから、きっと大きなパーティーとかも開いているのだろう。
「こちらがモーニングルームです」
サロンとは反対側に居心地の良さそうな小部屋がある。
「こちらは朝日が入りやすいし、女主人の部屋にされる方が多いですね」
ふうん、いい感じだね。針仕事をするにも良さそう。
「こちらが書斎になっています」
書斎と図書室を兼ねているみたい。
「グレンジャー家の図書室ほどは大きくありませんね」
図書室は、あそこまでは必要ない。父親の書斎とくらべるとかなり広い。
「上が寝室や子供部屋になっています」
主寝室には、トイレとお風呂が付いている。
「クローゼットも大きいようですね」
箪笥ではなく、寝室の横に衣裳部屋があった。
「子供部屋にもトイレとお風呂が付いていますし、横には育児部屋もあります」
トイレとお風呂が付いたお客様を泊める部屋もある。それに個室も数部屋あるので、10歳になったら自分の部屋が持てる。
ここも3階は召使いの部屋で、そこにもトイレとお風呂が1箇所あった。
「台所や半地下の様子も見たいわ」
仲介人が案内してくれた半地下には、執事の部屋、家政婦の部屋、台所、女中部屋と従僕部屋があった。
「パントリーも広いですし、洗濯部屋もあります」
工房は無いけど、洗濯場がかなり広いので、少し削っても良さそう。
「工房が欲しいですわ」
パーシバルが笑って「かしこまりました」なんてふざける。
「グレンジャー家の工房ぐらいなら、洗濯場に作れそうですね」
大きな物は作る予定が無いから良いと言いかけたけど……織り機は、大きいかも?
「少し大きい物を作るかもしれませんわ」
パーシバルが「後で話し合いましょう」と仲介人の前だから、話を変える。
「裏庭を見せて欲しい」
裏庭も草が生い茂っていたけど、かなり広い。
それに、面積の割にはこじんまりとした屋敷なので、これなら温室も建てられそうだ。
「モーニングルームから温室に行けるようにしたら、便利かもしれませんわ」
パーシバルは、グレンジャー家の温室は知らないみたい。
「バラとか蘭を育てるのですか?」
まぁ、バラは売っているけど、野菜とか果物が多いかな? 今は上級薬草を育てている。
「ええ、それとメロンも育てたいのです」
パーシバルが笑う。
「それは楽しみです!」
私的には、ここで良いと思うけど、パーシバルはやはり食堂が狭い気がするみたい。
「ペイシェンス様の料理を食べたがる人が多そうですからね」
ふと、ゲイツ様の顔が浮かんだけど、消去しておく。
「使用人も選ばないといけないのですね」
「ええ、話し合わないといけない事がいっぱいです」
ざっと見て、次の屋敷に行く。馬車の中でバーンズ公爵から織り機の開発を頼まれた件を話す。
「錬金術クラブで布を縫う機械を作っているのです」
パーシバルが「それは凄い発明ですね!」と驚く。
「ええ、あと少しで試作品は出来上がりますわ。この前、それを話したら、織り機の方も作って欲しいと言われて、織物の授業を取っているから、少しアイディアを思いついたのです」
パーシバル、少し考え込んでいる。
「それは、産業を大きく変える発明になりますね」
そうだけど、蒸気機関を回す化石燃料が無いんだ。魔法と魔石はあるのにね!
「ここからは、ゲイツ様と相談しなくてはいけないのかも? 魔石で産業を動かすのは無理がありそうですから」
化石燃料がないなら、風力発電か水力発電が順当なのだけど、カザリア帝国では太陽光から魔素を取り出して使っていたみたい。
「ふむ、また後で教えて下さい」
うん、これはパーシバルにも知っていて貰いたいからね。だって、私がやらかさないようにチェックして欲しいから。
次の屋敷も近い。貴族街にあるからね。
「立派な屋敷ですね……」
私は大き過ぎるという意味で言ったのだけど、パーシバル的には良い意味で取ったみたい。
「中を見てみましょう」
この屋敷はグレンジャー家と同じぐらいの大きさだ。
つまり、広すぎるよ!
「ここなら、大きな工房が建てられますよ」
それは、グラっとくる言葉だね。
「それに大きな温室も建てられるかも?」
私の理想は椰子の木が育てられる高さの温室なんだ。まぁ、それは無理かもしれないけど、大きな温室は欲しいな。
グレンジャー家の場合、一階の半分は図書室だ。だから、小さな書斎と食堂と応接室しかない。
ここの屋敷は、一軒目とよく似た造りだけど、一部屋が全て広い。
「前の食堂では、8人ぐらいしか招待できませんよ」
十分じゃないの?
「母が若い頃、それが一番困ったと言っていました。あの人を呼んで、あの人を呼ばないとかは駄目ですからね」
そうか! 8人と言ってもカップルで呼んだら4組なのだ。
「でも、そのくらいの人数の方が楽しいのでは? 大勢になると、結局は話せないままになりそうですわ」
パーシバルも考えている。
「確かに、大人数のパーティーより、小さなパーティーの方が楽しそうです。でも、大は小を兼ねるのですよ。今日の昼食も9人だったでしょ」
あっ、そうか! それに、外交官になるパーシバルには付き合いも必要なのかも?
「モラン伯爵夫人にお話を聞きたいですわ」
グレンジャー家は、学問の家だし、免職になってからは親戚付き合いもなかったからね。
「そうですね! 伯爵家としての社交は、彼方の屋敷ですることになりそうですが、私やペイシェンス様の個人的な社交は、新居でしないといけません」
なるほど! 全く私が知らない分野だよ。
三軒目は、ちょっと趣味が成金ぽい感じだった。でも、それは修復したり、内装を変えるから問題じゃない。
「ここは貴族街の端ですし、立地が良くないですね」
グレンジャー家の反対側にあるのも、私的にはマイナスだよ。
でも、一点だけ良いのは、アップタウンに近いから、買物は便利かも? カルディナ街にも近くなる。
「私は二軒目が良いと思いますが、ペイシェンス様は一軒目がお好みの様ですね」
二軒目は大きすぎると思うけど? ここら辺は、伯爵家で育ったパーシバルと貧乏子爵家の私の価値観の差だね。
「「話し合わないといけませんね!」」
2人で、同時に口にして笑う。
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