第83話 誕生日パーティー
誕生日パーティーの昼食は、和やかに終わった。
最後にはメロンを丸くくり抜いたのを飾ったバースデーケーキが登場する。
「ヘンリー、願い事をして、蝋燭の火を消すのよ」
アンジェラとサミュエルとパーシバルは、驚いていたけど、ゲイツ様は、前に見たから笑っていた。
ヘンリーは真剣な顔をして、蝋燭の火を吹き消した。
「おめでとう! ヘンリー」
皆で拍手したけど、ヘンリーは変な顔をしている。
「お姉様のは?」
ふふふ……大丈夫だよ!
ワイヤットが2個目のバースデーケーキを運んできた。
こちらは、梨のミルクレープケーキだよ。
私が蝋燭の火を吹き消したら、皆が拍手してくれた。
「どちらのケーキも美味しいです!」
私は、薄く切ってもらって、2つ食べているけど、ゲイツ様のは厚めに切って貰ったのに、すぐに食べきった。
「この後、応接室でゲームをする予定です。そこでもお菓子がでますよ」
うちの使用人分は確保したいからね。それに、ちょっと贅沢なスイーツを用意したんだ。
父親とカミュ先生は参加しなかったけど、私は前世のボードゲームを思い出して、作っていたんだ。
『ローレンス王国版、人生ゲーム』だ!
双六は、こちらの世界でもあるみたいだけど、人生ゲームはなかったみたい。
「この馬車に、自分の人形を乗せて下さい」
自動車は無いから、色々な色の馬車だよ。それに青と赤の小さな人形を突き刺す。
「そして、最初に100ローム配ります。10ローム金貨5枚と5ローム銀貨8枚、そして1ローム銀貨10枚です。そして、このルーレットを回して、止まった升目の通りにします」
最初は私が銀行家だ。10ローム金貨に似た黄色いコイン、5ローム銀貨に似た灰色の大きなコイン、1ローム銀貨っぽい灰色の小さなコインを、それぞれの箱に、コインの種類ごとの枠に入れて配る。
「さぁ、ヘンリーから始めましょう! 最初のルーレットは職業の選択よ」
ヘンリーは騎士になりたかったみたいだけど、商人だった。
ナシウスは、官僚になりたかったみたいだけど、騎士だ。
サミュエルは、魔法使い。
「私は魔法使いになりたいです」と願ったゲイツは、大嫌いな官僚だ。
アンジェラは、商人。パーシバルは、錬金術師だ。
「ふふふ、錬金術師は当たると大儲けですよ」
それぞれの馬車に自分の人形を乗せて出発だ。
ヘンリーは強運で、止まるごとに金儲けしている。
「面白いですね!」と喜んでいるけど、そろそろヤバそう。
ナシウスの騎士は、最初の投資が大きい。
「えええ、また剣が壊れたのですか? 10ローム金貨を支払います」
サミュエルの魔法使いは、最初の投資は少ない。
「また薬草取りだ! 1ロームしか儲からない!」
でも、お金も貯まらないみたい。
ゲイツ様は、官僚として俸給は一定額貰えているけど、面白く無さそう。
「えええ、同僚が結婚したからお祝い金5ロームも払うのですか?」
その上、付き合いが多い。
アンジェラは、一番に結婚して全員から5ロームずつ祝い金を徴収して、ご機嫌だ。
「結婚したら、旦那さんの人形を刺すのよ」
パーシバルは、当たり外れの大きい錬金術師だ。
「えええ、売り出した商品が欠陥品で、10ローム支払う!」
気の毒だけど、ゲームだからね。
「酷いです! 大金持ちだったのに、船が難破して大損です」
ヘンリーの商人には、この危機があるんだ。
「おっ、金持ちと結婚して、持参金をもらう!」
しょぼかったサミュエルの魔法使いは、運が向いてきた。
ナシウスの騎士も魔物討伐に成功して、50ローム!
「私の官僚は、全然面白くありません!」
ゲイツ様は、順調に出世しているけど、確かに面白みは無いね。
パーシバルも、どうもヘボな錬金術師みたいで、金儲けはできない。
「やったぁ! ドラゴンを退治して、50000ロームだ!」
ナシウスの騎士の一人勝ちだった。
アンジェラは、子沢山の商人になり、毎回、全員から祝い金を取ったので、二番目。
サミュエルの魔法使いは、持参金を使い果たしたけど、なんとか三番目。
ゲイツ様は、途中で地方に飛ばされて四番目。
ヘンリーとパーシバルは、途中で破産!
「こんなゲーム! 誰が考えたのですか?」
ゲイツ様は、ぷんぷん怒っているけど「もう一度しましょう!」とムキになっているよ。
ナシウスは、ボードの細かい字を読んで、ふむふむと考え込んでいる。
「なるほど! 商人も大儲けできるし、官僚も大臣になれる。錬金術師も大当たりして、発明王になれるし、魔法使いも賢者になれるのです。でも、全部の道に落とし穴があるんですね」
破産したヘンリーもリベンジをしたがるから、もう一度したよ。
今度は、魔法使いヘンリーが大賢者になって一番を取った。
官僚アンジェラは、大臣になって二番目。途中で出費が多かったからね。
商人ゲイツ様は、儲けたり、損したりの山あり谷あり人生だったけど、今回は楽しそうだった。
「結婚もできたし、子供にも恵まれました!」
騎士パーシバルは、初期の借金が最後まで残った。
官僚のナシウスは、そこそこの出世したけど、大臣にはなれなかった。
錬金術師のサミュエルは、最初は調子が良かったのに、最後は破産しちゃった。
「錬金術師は、ダメじゃ無いか!」とプンプン怒っているけど、発明王になるとデカい儲けがあるんだよ。
ゲームで遊んだので、少しお茶にするよ。
「これは! チョコレートファウンテンではないですか!」
だって、誕生日パーティーだもの。チョコフォンデュより、ファウンテンの方が良いよね。
それに人数が多いから、三段にしたんだ。
「美味しい!」
ヘンリーがパンを刺して、チョコレートをいっぱいつけて食べている。
「贅沢なスイーツだな」
サミュエルは、ケーキにチョコレートだ。甘いよ!
「チョコバナナも美味しかったですけど、こうして食べるのも良いですわね」
アンジェラは、バナナチョコにハマったみたい。
「パーシバル様もどうぞ」
私がパンにチョコレートをつけて差し出すと、パクリと食べる。
「とても美味しいです」
2人で、いちゃいちゃ食べさせ合うのも楽しいね。
えええ、視線が集まっている?
「ペイシェンス様、子供の前ですよ。自重して下さい!」
ゲイツ様に叱られちゃったよ。
こうして、楽しく誕生日パーティーを過ごしていたのだけど、突然、王宮からシャーロット女官がやってきた。
慌てて、チョコレートファウンテンを片付け、皆には子供部屋に上がってもらう。
「突然ですが、王妃様からの誕生日プレゼントです。来年の社交界デビューのドレスは、もう少し成長されてからにされますが、こちらは先にお渡ししておくと言付かりました」
差し出された箱は、かなり大きい。
「開けてみてもよろしいのでしょうか?」
返事を届けて欲しいからね。
「ええ、どうぞ」
シャーロット女官が鍵を差し出したので、受け取って箱を開ける。
中にはダイヤモンドのティアラと首飾りとイヤリングの3点セットが煌めいていた。
「これを頂いて、宜しいのでしょうか?」
びびるよ! とても高額な宝石だもの。
「これは、ペイシェンス様のお母様の持ち物だったと王妃様から伺っております」
えええ、母親のだったって事は、売ったのを買い取っていたんだ。
側に控えていたメアリーに目で尋ねると、肯定しているから、そうなんだね。
ケープコット伯爵家から嫁ぐ時に持ってきたのだろう。
私は、王妃様にお礼の手紙を書いて、シャーロット女官に渡す。
「王妃様にお礼を申し上げていたと伝えて下さい」
シャーロット女官が王宮に向ってから、メアリーとティアラを手に取って見る。
「ああ、ここにケープコット伯爵家の家紋がありますわ」
ティアラの裏側に小さく刻印がしてある。今も断絶状態なので、少し微妙な気持ちもするけど、母親の持ち物だったのだから、大切にしたい。
それに、これを買うのは大変そうだから、本当に有難いよ。
これは、ワイヤットに金庫にしまって貰う。来年まで身に付ける事は無いからね。
「奥様が亡くなられて、これも手放してしまったのです」
凄く辛そうなワイヤット、こんな顔は初めて見るよ。
「でも、戻ってきましたわ!」
私の言葉で、ワイヤットは顔を上げて笑った。
「おっしゃる通りです! 王妃様に感謝しなくてはいけませんね」
今度、お会いしたら、直接お礼を言おう。
さて、2階に招待客を放置していたよ。子供部屋に行くと、ブロックのお城と城壁が造られていた。
ヘンリーの大きなブロックで城壁をパーシバルが作り、ナシウスの小さなブロックで城をゲイツ様が作っている。
子供たちは、私の作った偉人カルタで遊んでいるよ。
「ペイシェンス様、もっとブロックが必要です!」
ああ、ゲイツ様もブロックに嵌まったな。
「やはり基礎を台形にして欲しいです」
パーシバル、攻城戦は求めていないんだけど?
「ブロックを2人に取られたんだ。私にもブロックを作って欲しい」
サミュエルの言葉に、2人は少しだけ恥ずかしそうな顔をした。
「やはり、もっとブロックと基礎が必要なのです!」
ゲイツ様は、反省していないね。
「さぁ、今度は庭でゲームをしましょうね! 2人はブロックを片付けてから来て下さい」
庭では竹馬で競争したり、走り縄跳びの競争をして遊んだよ。
私は、惨敗だけど、前みたいに息切れはしなくなったから良いんだ。
パーシバルは、竹馬も縄跳びも初めてなのに、すぐにできるようになった。
それにゲイツ様もね。ふーん、ちょっと腹が立つから、何かないかな?
「一輪車なら乗れないかも?」
うっ、ペイシェンスも乗れないかも? 私は小学生の頃は乗れていたけど、大人になってからは乗っていないよ。
なんて考えているうちに、秋の日が暮れてきた。
「そろそろ、お暇します」
ああ、楽しい時間は過ぎるのが早いよね。
サミュエル、アンジェラ、ゲイツ様を見送る。
お土産は、チョコレートの箱だよ。
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