第74話 婚約したんだ!
パーシバルと宝石店でサイズ直しした婚約指輪とステディリングを受け取った。
「ペイシェンス様、どうぞ」
ステディリングをつけてから、婚約指輪を嵌めて貰う。
婚約指輪は、自分の部屋に置いていくつもり。
「パーシバル様も」
私がパーシバルの指に指輪を嵌める。
思わず、前世のスターの婚約発表の手を真似したくなるけど、やめておく。
「あのう、支払いは?」
コソッと小声で尋ねるけど、パーシバルは笑って答えてくれなかった。
これってモラン伯爵家持ちなの? 良いのかしら?
小市民の私には気になるけど、貴族にとっては当然なのかも?
やはり、高くても巨大毒蜘蛛の糸を買って、パーシバルに守護魔法のマントを作ろう!
なんて意気込んで屋敷に戻ったら、屋敷の様子が変だ。
「馬車が何台も止まっていますね?」
パーシバルも首を傾げている。
「ああ、あの馬車はモンテラシード伯爵家とノースコート伯爵家とマックスウェル子爵家の馬車ですわ」
3人の伯母様方が何故やってきたのか?
「もしかしたら、母がモンテラシード伯爵夫人に婚約の事を知らせたのかもしれません」
ああ、きっとそうだよ! 2人で顔を見合わせて溜息をつく。
「伯母様方の連絡網は凄いですから。パーシバル様、ここで帰られますか?」
パーシバルは苦笑して「それは駄目でしょう」と一緒に馬車から降りる。
サッとエスコートしてくれるのって、スカートが少し長くなっているから助かるんだよね。
「ありがとう」と言うと、パーシバルは当然ですって顔をしているけど、弟達にも身につけて欲しいマナーだよ。
応接室には、3人の伯母様方と既に疲れた顔の父親が座っていた。
待ち構えている伯母様方に婚約の報告をする。
「この度、ペイシェンス様と婚約したパーシバル・モランです。どうかご指導ご鞭撻お願いします」
アマリア伯母様とリリアナ伯母様とは、パーシバルは何回か会ったことがあるけど、シャーロッテ伯母様とは会ったことが無かったみたい。
「私はペイシェンスの伯母のシャーロッテ・マックスウェルです。婚約おめでとうございます」
シャーロッテ伯母様が祝福してくれたら、他の伯母様方も口々にお祝いを言う。
そこからは、私が嵌めている婚約指輪やステディリングに話題が移った。
「婚約をしているのにステディリングだなんて、おかしな風習ね」
アマリア伯母様は、昔気質だから、婚約指輪を嵌めたら良いって考えみたいだ。
「あら、素敵じゃない! それに、ペイシェンスはまだ学生だから婚約指輪は勉強の邪魔になるかもしれないわ」
シャーロッテ伯母様は進歩的な考え方だね。
「そうよ! それにとても可愛い指輪だから、ペイシェンスに似合っているわ」
リリアナ伯母様は、アマリア伯母様を懐柔していくみたい。
「まぁ、近頃の流行りなら仕方ないわね」
ああ、ステディリングでも、こんな風に考え方が違うのなら、ユージーヌ卿が結婚しても近衛隊を辞めないのを説得するのは難しそう。
でも、サリエス卿には頑張って欲しいな。プロポーズしたのかしら?
こんな風に他の事を考えているのは、伯母様方が私の社交界デビューやかなり先の結婚の準備について延々と話し出したからだ。
「そろそろ、パーシバル様は帰らなくてはいけないのでは無いかな?」
パーシバルは如才なく、伯母様方から偶に飛んでくる質問に答えていたが、父親はかなり疲れたみたいだ。
姉達に帰って欲しいとは言えないから、パーシバルを使う。
「いえ、大丈夫です」と答えたけど、リリアナ伯母様が気を利かす。
「そうですわ、モラン伯爵夫人もお待ちになっているでしょう」
パーシバルは解放されたけど、伯母様方は実家なので、訪問時間が長くなっても気にしない。
普通は3時間以上も滞在するのはマナー違反なんだけどね。
私は、パーシバルの見送りをするので退席したけど、父親から恨めしそうな視線を感じたよ。
「パーシバル様、お疲れ様です」
なんて言ったら笑われた。
「このくらい何でもないですよ。明日の予定は?」
えええっ、デートかしら?
「ラシーヌ様を訪問する予定は入っていますが、他は空いています」
バーンズ公爵も会いたいと言っているみたいだけど、そちらよりサティスフォードの流行病を心配しているラシーヌの方が優先だよ。
「では、これからの事を話し合う時間はありますね。午前中にナシウスやヘンリーとの剣術の練習に来ますから、少し時間を下さい」
それは良いけど、何の話だろう? やはり外国に一緒に行けないから、止めるとかじゃないよね?
「そんな不安そうな顔をしないで下さい。貴族の結婚は色々とややこしいのですが、幸い父とグレンジャー子爵は従兄弟ですし、多分、問題はありませんよ。それではなく、2人の生活について考えていきたいと思っているのです」
ええっ、結婚は5年後でしょう?
「結婚の準備は早くからしないと、最後は修羅場になりますよ」
それはお姉様の結婚の時の経験かしら? あの優雅なモラン伯爵夫人が神経を尖らしていたと言っていたけど、そんなに大変なの?
「私は、新婚早々に外国に派遣されるかもしれません。その間にペイシェンス様が住む屋敷とかも考えないといけませんよ。私の両親と同居でも良いですが、私が不在なのに嫌では無いかと思うのです」
ああ、嫁姑の同居はこちらでも問題が起こるんだね。
「両親も祖父母達が領地に引っ込むまでは、王都に別の小さな屋敷を借りて住んでいました」
へぇ、別居もありなんだ!
「まぁ、同居を当たり前だと考える方も多いみたいですが、うちは別居派です」
ああ、アマリア伯母様とかは同居派かも?
「話し合わないといけないことが、いっぱいあるのはわかりましたわ」
別の屋敷に住むのなら、そこに使用人も雇わないといけないのだ。
パーシバルを見送って応接室に戻ろうと思ったけど、ナシウスのブロックを作ると約束していたよね。
工房に逃げ出したいけど、メアリーに見つかった。
「お嬢様が主役のお話なのですよ!」
そうだよねぇ! それに、聞いておかなきゃいけない事もある。
「ペイシェンス、パーシバル様は帰られたのね」
父親が「お姉様方もお帰りになられては?」と言いたそうな顔をしている。
「ええ、明日の午前中に弟達に剣術の稽古をしに来て下さるみたいですわ」
あっ、アマリア伯母様の顔が曇る。サリエス卿の件だね。
「いつもサリエス卿にも弟達の剣術を見て頂いて感謝しているのです」
その言葉には頷くけど、やはり険しい顔のままだ。
「お姉様、ユージーヌ卿と言えば、麗しき女性騎士として名を馳せておられますわ。良いお話ではありませんか?」
シャーロッテ伯母様が、やんわりと諭す。
「でも、結婚しても近衛隊を辞めないだなんて……」
ああ、昔風の考えだと、結婚したら家に入るのが普通なんだ。
「私も結婚しても仕事はしたいですわ」
少しだけサリエス卿の味方をする。
「ペイシェンスは、マーガレット王女の側仕えとして立派にやっています。リュミエラ王女がリチャード王子と結婚なさって、王太子妃となられても側仕えを続けるのに問題はありませんわ。とても名誉な事ですからね」
うっ、それは勘弁して欲しい。
「そうではなくて、何か職に就きたいと考えています。パーシバル様は外交官として外国に行かれますから、そのお留守を護りながら仕事をしたいのです」
3人の伯母様達は驚いている。
「ペイシェンスは、外交官になりたいと言っていたと思うのですが? いえ、外交官にならなくてもパーシバル様と一緒に外国へ行くのだとばかり考えていましたわ」
ああ、伯母様方は知らないんだ。
「陛下が、私を外国には行かせられないと仰っていたのです。だから、パーシバル様と結婚できないと諦めようとしたのですが、それでも良いと言われたのです。」
伯母様方は、あれこれ騒いでいたが、パーシバルがそれで良いなら問題は無いと落ち着いた。
「未開の国に行ったら、不自由な生活ですものね。それに、ペイシェンスが側にいてくれた方がウィリアムも安心でしょう」
リリアナ伯母様が纏めてくれたよ。割とこの件は、こちら側の親族的には問題にならないのかな?
「でも、夫の留守を護るのは良いですが、仕事はねぇ」
やはり、アマリア伯母様は女の人が働くのに反対みたい。
「まだペイシェンスは若いし、何をしたいのかもわからないようだ。ロマノ大学でゆっくりと考えたら良い」
父親が珍しく姉達に意見してくれた。
「まぁ、ウィリアムは立派な事を言えるようになったのね!」
「ちゃんと学長としてやっていっているの?」
「ああ、学部長達を招いて、お食事会もしなくてはいけないのよ!」
ここから、夕食の時間になるまで、伯母様達のお説教タイムになった。
幸い、秋の日は短い。夕闇が迫ってきたので、伯母様方は各々の屋敷に帰った。
疲れ切った父親に「モラン伯爵が領地の件で話し合いたいと言われていました」と伝えると、ガックリしていたよ。頑張って!
そのかわり、教授達を招いた食事会はちゃんとするからね。
夕食後は、もう眠っているヘンリーの額にキスをして、自分のベッドで休む。
昨夜は、ドキドキして眠れなかったからね。
『婚約、おめでとう』
ペイシェンス! やはり消えてないんだね!
「パーシバル様でよかったのかしら?」
この身体はペイシェンスの物だもの。嫌な相手と結婚とか駄目だから。
返事は無かったけど、ピンク色の幸せな気持ちが広がった気がした。
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