第73話 初デートはキャンパスで
指輪のサイズを調整して貰う間、初デートをする。
「どこか行きたい場所はありませんか?」
そんな事聞かれたら、いっぱいあるんだよ!
「私は、学園と王宮とバーンズ商会しか行った事が無いのです。あっ、この前カルディナ街にも行きましたけどね。だから、他の所なら何処でも!」
パーシバルとはカルディナ街に行ったし、何処が良いかな?
「そうだ! ロマノ大学に行きましょう!」
あっ、行ってみたいと思っていたんだ。
「ええ、一度見てみたかったのです」
大体の位置は知っていたけど、南門までの大通りからは1つ外れているから、行った事は無かったんだ。
「お父上が学長なのに、ペイシェンス様は行かれた事もないのですね」
パーシバルに呆れられたよ。
土日は授業はない筈なのに、キャンパスには学生が何人も歩いている。
「大学はお休みでしょう?」
私が不思議に思っていると、パーシバルが笑う。
「寮生もいますし、研究室で学んだりしているのでは? さぁ、図書館に行ってみましょう」
パーシバルにエスコートされて、ザッとロマノ大学を見学する。
図書館は、王立学園よりも広くて立派だったけど、ここでは話せないので、カフェテリアでお茶をする。
「パーシバル様はよくご存知なのですね」
ああ、従兄弟のミッシェル・オーエンがロマノ大学に通っていると言っていた。
「ええ、ミッシェル様に案内して貰ったのです」
ここまでは甘いデートだったけど、話し合わないといけない事があったんだ。
「冬の魔物討伐についてですが、攻撃魔法を実地訓練すると言うのはあまりに無茶です」
そうだよね!
「私もそう思いますわ。でも……」
パーシバルも困っている。
「陛下は、ペイシェンス様を王宮魔法師になさりたいのでしょうか?」
私は、なりたくないんだけど……。
「一度、お父様と相談してみます。私は王宮魔法師にはなりたくありませんし、冬の魔物討伐も御免ですから」
うちの父親が断ってくれたら、行かなくて良いんじゃないかな?
「もし、参加を強制される様な事があれば、私も反対しますから」
それは、パーシバルの立場が悪くならないかしら?
「あまり無理はなさらないで下さい。魔物の肉には魅力を感じているのですから」
深刻な話なのに、パーシバルはプッと吹き出した。
「ペイシェンス様は、楽天的ですね! それと、少し食いしん坊さんです」
意地汚いのは、転生した時に飢えたトラウマだよ。いや、前世から美味しいものは好きだったかも?
「お恥ずかしいですわ。でも、弟達も食べ盛りですから、冬中、魔物の肉が食べられるのはありがたいです」
「ええっ? そんなに配分されませんでしたが……ああ、ゲイツ様ならそのくらいは倒しているのかもしれませんね」
討伐した数に応じて、肉も配分されるのかしら? ちょっとやる気になってしまう自分に驚くよ。
「これから攻撃魔法を習いますから、習得できたらの話です。できなかったら、不参加だとキッパリ断りますわ」
パーシバルに呆れられたよ。
「ペイシェンス様は、私の考えの斜め上をいかれますね。それは、陛下に目をつけられる筈です」
ぶー! それはないよ!
「私は、細々とした生活を豊かにする道具を作ったり、綺麗な小物を作ったりしたいのです。外交官になることができないのなら、ロマノ大学で何を学ぶべきなのかしら?」
行く意味があるのかな? ここのキャンパスは素敵だし、こうした学生生活も魅力的だけど……。
「外交官になられないと決まった訳ではないでしょう。国内でも仕事はありますよ。でも、他に興味があるものを学ばれたら良いのかも?」
他に興味がある物?
「植物や鉱石かしら? 薬学は上級薬師の資格を取りたいですし、錬金術はグース教授は苦手ですが、素材の勉強はしたいと思っています」
うっ、魔法使いコースになりそう! 科学的な事は錬金術になっちゃうからね。
「ふふふ……考えが顔に出ているから、わかりやすいですね。魔法学科なんか選択したら、王宮魔法使いに決定してしまいますよ」
それは勘弁して欲しい。
「この前、上級王宮魔法使い達に怪しいチビっ子だと睨まれましたし、ゲイツ様ほど傲慢にはなれないので絶対に嫌だと痛感しましたわ」
女官も女の世界でややこしそうだと思ったけど、男の官僚や王宮魔法使い達の世界もややこしそう。
「ペイシェンス様は、自由にされている方が良いのかもしれません。でも、私の婚約者なのは忘れないで欲しいです」
ああ、こういった所がパーシバルを好きな理由の一つなのかも。私を縛りつけたりしないで、でも、少しだけ捕まえていてくれる感じが丁度良いんだよね。
「パーシバル様こそ忘れないで頂きたいですわ」
2人でいちゃいちゃ話すのも楽しい。
「月曜が怖いですわ」
私の不安をパーシバルが笑う。
「私も睨みつけられそうな相手が何人もいますが、全く恐れてはいませんよ。だって、ペイシェンス様は私の婚約者なのですから」
ああ、その強気が羨ましいよ。
「私は中等科1年の中でも1番の歳下ですし、他の方から嫉妬されそうで……ああ、マーガレット王女とリュミエラ王女は、喜んで下さるでしょうが……恋バナを訊かれるのは困りますわ」
パーシバルは女の子達のこんな話は知らないだろうね。
「姉のナタリアも社交界デビュー前に婚約していましたが、そんなに苦労はしていなかった様ですけど? まぁ、割と前から縁談が持ち込まれていたみたいですけどね」
ふうん、お姉様もモラン伯爵夫人やパーシバルの顔面偏差値の高さからいって美人そうだよね。
「お会いしたいですわ」
夏も領地に行った時も会えなかったよ。
「ナタリアは、今はモーリス様と一緒にコルドバ王国に行っています。ああ、そんな顔をしないで!」
やはり、外交官は妻が同伴するのが普通なんだね。
「コルドバ王国は、近いですし、今回のリュミエラ王女との婚姻の件で、王妃様とも話し合う事案が多いからナタリアも同行したのです」
慰められても、やはり気にしちゃう。
「それに、私が外国に行っている間、留守を護って欲しいです」
ああ、でもモラン伯爵が今は王都にいるのに?
「父は外務大臣で忙しいですし、領地の方は代官に任せっきりです。この前、サティスフォード子爵を見て、もう少し領地の管理について勉強すべきだと感じたのです。それに、ペイシェンス様の領地もありますからね。そちらの管理だけでも忙しそうですよ」
ああ、忘れていたよ!
「王都に近い方が管理は便利そうですけど……海産物も捨てがたいです」
あっ、また食い気に走っている。
「乾物も魅力的ですよね。母にペイシェンス様から頂いた干鮑のレシピを見せたら、とても喜んでいました」
レシピで思い出したよ!
「カルディナ街で買った調味料で、新しいレシピを考えますわ」
流行病で忙しくて、レシピどころではなかったからね。
「ペイシェンス様は、忙しそうですが、私との時間も作って下さいね」
「勿論ですわ! パーシバル様、私にマントに守護魔法の刺繍をさせて下さい」
冬の魔物討伐なんて、危険かもしれないもの。
「それは、ありがたいですが、無理をなさらない様に。収穫祭の準備も忙しいのでしょう?」
ああ、音楽クラブを2回サボったよ。アルバート部長にリュートの練習をさせられそう。
「ええ、でもパーシバル様も収穫祭の準備が忙しいのでは?」
パーシバルは肩を竦める。
「私は、演目の時間と順番を決めるだけですから、忙しくありませんよ。それに学生会のメンバーを使っていますからね」
そういうのが上手そう。私の苦手分野だ。
「人を使うのが下手なのかも? これではいけませんね」
本心から言ったのに、パーシバルに笑われたよ。
「王宮魔法師のゲイツ様をチョコレートで操り、カエサル様を新しいアイディアで夢中にさせ、アルバート様も新曲で熱狂させているのに?」
ううん? 違うのだけど、そう言われると、そうなのかも?
「このところ、お父様にも報告をおざなりにして叱られてしまいましたの。これからは、少しセーブしていかないといけないのかもしれません。でも、ミシンも作りたいし、新しいレシピも考えたいのです」
あっ、バーンズ公爵と話し合う予定も忘れていたよ。
「ペイシェンス様、これからはスケジュール表を作られた方が良いですよ」
確かにね! ラシーヌ様からも手紙の返事が来ていたよ。
「ああ、アマリア伯母様にも挨拶に行かないといけないかも?」
「ああ、私も忘れていましたが、この縁談はモンテラシード伯爵夫人からでしたね」
2人で顔を見合わせて笑う。
「手紙を書いて、訪問の予定を伺いましょう。一緒に挨拶に行った方が良いですね」
こうやって、予定を決めていくのって親しい間柄みたいで嬉しい!
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