第42話 2回目の防衛魔法の練習

 木曜は防衛魔法を習いに王宮に行く。メアリーが寮まで迎えに来てくれる。

 ゲイツ様は迎えの馬車を出すと言われたけど、侍女を伴わないといけないからね。

 それに、グレンジャー家にも馬がいる。

 今回も玄関までサリンジャーさんが出迎えてくれる。忙しそうなのに良いのかな?

「ペイシェンス様が来られる日は、ゲイツ様のご機嫌が良いし、真面目に働いておられるので感謝しています。この前は陛下に養鶏場の浄化について進言され、王宮魔法師として立派な態度でした」

 王宮魔法師として、陛下に養鶏場の浄化が不十分だと進言したりしたのが、サリンジャーさんにとっては嬉しいみたい。

 自分の上司が仕事をサボってばかりだと嫌だもんね。


「ああ、ペイシェンス様! この前のアーモンドチョコレートは絶品でした!」

 この子供っぽい態度が無ければ、少しは尊敬できるんだけど。

「王妃様にも差し上げたのですか?」

 あれっ? 目が泳いでいるよ!

「後悔したので、あげない事にしたのです。それに、どうせ父はお説教を止めないですからね」

 バーンズ商会は、王妃様分も渡していると思うんだけど、違うのかしら? 今度、聞いてみよう。

「何箱、バーンズ商会からは届いたのですか?」

 ゲイツ様は質問に答えず「防衛魔法の授業を始めましょう!」と話を変えた。


「今日は魔法攻撃の防衛魔法を練習しましょう」

 まぁ、それが目的でここに来たんだからね。

「実は物理攻撃だろうと、魔法攻撃だろうと、防衛魔法バリアは同じなんですよ。魔法攻撃の方が少し難しいかもしれませんね」

 さぁ、見本を見せようとした所で、私が攻撃魔法を使えない事に気づいた。

「ペイシェンス様も攻撃魔法ぐらい使えると思うのですが……まぁ、今日はサリンジャーに手伝って貰いましょう」

 えええ、良いのかな? 忙しそうな人だけど?

「ゲイツ様、何でしょう?」

 控室で書類仕事をしていたサリンジャーさんが、ベルの音でやってきた。

「サリンジャー、魔法攻撃の防衛魔法の見本が必要なのだ。私に魔法攻撃をしてくれないか?」

 えええ、嫌な予感がするよ。

 サリンジャーさんが、にんまりと笑った。それに、魔力が……「ウィンドカッター」暴風並みのウィンドカッターがゲイツ様に向けられて発射された。

「おいおい、それは見本にならないぞ!」

 少し慌てたゲイツ様だけど、防衛魔法バリアが少しだけ光って消えた。

 それに、保全魔法も同時に強化したのか、豪華な室内も被害なしだよ。

「ああ、申し訳ありませんでした。日頃の鬱憤が溜まっていたようですね」

 シラッと謝って、サリンジャーさんは控室に戻った。

「彼にもチョコレートをあげるべきなのかもしれませんね」

 えええ、一粒もあげてないの? 酷いなぁ!

「まぁ、少し派手でしたが、これが魔法攻撃の防衛魔法です」


 ああ、しまった! メアリーが隅の椅子で固まっているよ。

「メアリー、大丈夫ですよ! ゲイツ様はきっと隕石が落ちて来ても平気だと思いますからね。それに周りの人も護って下さいます」

 ゲイツ様もメアリーの顔色が悪いのに気づいて、サリンジャーを呼びつける。

「ペイシェンス様の侍女を怯えさせたな。女官にお茶とお菓子を持ってこさせなさい」

 サリンジャーさんもメアリーの青褪めた顔を見て「申し訳ありませんでした」と謝って、女官を呼ぶ。

 まだ授業が始まったばかりだけど、お茶とお菓子を食べる。少しメアリーが落ち着いてから、練習だよ。


 部屋の真ん中に私は立っている。いくら保全魔法が掛かっているとしても、窓ガラスとか花瓶とか壊しちゃいそうなんだもん。

「私が弱いウィンドカッターを飛ばしますから、防衛魔法を掛けて防いで下さい。大丈夫です。当たっても突風が吹き付けた程度ですから」

 紙ボールよりは緊張したけど、うまく防衛魔法を掛けられた。

 それに、紙ボールより視覚的な恐怖が無いからかも? ボールは受け取るのも苦手だからね。

「ああ、かなり上達されていますね。できれば、いつも防衛魔法を掛けておくと良いのですが……」


 それからは、少しずつスピードを上げたり、強いウィンドカッターを防衛魔法で防ぐ。

 アニメのバリアのイメージが役に立つよ。魔法ってイメージ力も大切じゃないかな?

「肉体的な防衛魔法は、もう十分ですね。後は、練習あるのみです。次からは精神攻撃に対する防衛魔法を練習しましょう。それと、弟君達の魔法訓練もしなくてはいけませんね。精神攻撃が終わったら、弟君達も連れて来て下さい。それか、グレンジャー家に私が行っても良いのですが……」

 弟達の魔法訓練なら、家の方が良いのかもしれない。

 特に、ヘンリーはまだ7歳だから、子供が王宮にいると悪目立ちしそうだ。

 でもね……悩む。一度、ゲイツ様が屋敷に来るのを許したら、居座られそうな気がするんだよ。

「それは、弟達に聞いてからにしますわ」

 異世界に来てから、即答しないで、曖昧な返事をする事を覚えたよ。

 なんて呑気な事を考えていたら、グィグイ攻めてくる。

「そう言えば、もうすぐペイシェンス様の誕生日ですね!」

 忙しくて忘れていたよ。

 ヘンリーの誕生日は忘れないけどね! 一緒に祝おうと思っている。

 チョコレートの誕生日プレートのついたケーキを焼いて貰うんだ!

「ああ、何か美味しそうな感じがします」

 早く精神攻撃の防衛魔法を習わなきゃいけないよ! 考えがダダ漏れだもの。


「精神攻撃の防衛魔法を教えて欲しいですわ!」

 私の心からの叫びに、ゲイツ様は肩を竦める。

「心にバリアを張れば良いだけなのですよ。普通の大人は自分の考えを表に出さないようにしています。それでも、感情の揺れで、ふと本音が覗いたりしますけどね。ペイシェンス様は、精神が澄んでいるのか、丸わかりです」

 ポーカーフェイスになりたいよ。心にバリアねぇ? 何かアニメで無かったかな?

「本当は、肉体的な防衛魔法もこんなヤワなものでなく、咄嗟に相手を殺す……いや、拘束する方法を学んで欲しいのです」

 殺す! 無理! との私の拒否感を読み取って、拘束と言葉を変えたけど、確かに防衛魔法で攻撃を防げても、誘拐とか大丈夫なのかなと私も考えていた。

「精神攻撃に対抗するのにも、自分を護るだけでなく、精神攻撃して来た相手を止めないといけません。つまり、反撃しないと防衛魔法だけでは駄目なのです」

 それは、分かっていたけど、見ない振りしていたんだ。

 瞬時の攻撃を防衛魔法で防いでも、反撃しないといずれは負けちゃうよね。

「私は甘いのかもしれませんが、人を殺すのは嫌なのです」

 ゲイツ様がケタケタと笑う。

「なら、魔物なら殺せますか? あれは放置しておけば、人を襲います。それに討伐した肉は美味しいですよ」

 魔物ねぇ……こちらの魔物は巨大だからなぁ。

「魔物に怯えて、襲われてしまう姿しか想像できませんわ」

 ゲイツ様は、ヤレヤレと肩を竦めたけど、令嬢なら普通だよ!

「でも、攻撃は最大の防御なのです。何か考えましょう。そうですね、攻撃が嫌なら、拘束はどうですか? 動きを封じるなら、良いのではないでしょうか?」

 あっ、それなら良いかも? できるかな?

「教えて下さい」と頼むと、ゲイツ様は嬉しそうに頷いた。

「これで、当分は授業が続きますね。ああ、暗記術も教える約束でした!」

 何だかとても楽しそうなんだけど、仕事をサボれるからじゃないよね? 

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