第41話 ワークショップを開こう!
「ペイシェンス、遅いぞ!」
ベンジャミンのその言葉を聞くと、錬金術クラブに来た気がするよ。
「ご機嫌よう」と挨拶する間もなく「キックボードを作ろう!」と吠えているし、髪の毛が逆立ってライオン丸になりかけている。
「見本を作らないといけませんわね」
四時間目にキックボードを作った。
「これは面白いな!」
ベンジャミンは気に入ってクラブハウス内をクルクル回っている。
「どこまで自分達で作らせるか、それが問題だ」
放課後、全員が集まって議論する。
アーサーとベンジャミンは組み立てだけでも十分だと主張している。
「だが、組み立てだけでは錬金術とは言えない」
カエサル部長の発言に「錬金術1は組み立てだけだぞ!」とベンジャミンが反論する。
ミハイルは組み立て派みたいだ。
「物を作る楽しさを知るのが大切です」
それも一理あるよね!
「だけど、簡単な錬金術を試させても良いのでは無いだろうか? 私も初等科の時、魔法クラブと錬金術クラブのどちらに入ろうか迷った時、錬金術ができないかもしれないと思って魔法クラブを選んだ。騎士クラブとのゴタゴタで退部したけど、あれが無かったらずっと魔法クラブだったかもしれない」
やはり、ブライスの意見は参考になるね!
「私は、組み立てだけしたい学生には、それで十分だと思うの。でも、少しでも挑戦したいと考える学生には簡単な錬金術をする機会を与えたら良いと思いますわ。私も、錬金術には興味があったけど、自分ができるか不安でしたもの」
ベンジャミンが「ペイシェンスが不安? あのヘンテコな錬金術でやりたい放題なのに?」なんて失礼な事を言っているけど、無視するよ。
「そうだな! よし、組み立てだけでも良いし、挑戦したい学生には簡単な錬金術を用意しておこう」
タイヤ部分はスライム粉と炭で作る。私は簡単だと思ったけど、アーサーが反対する。
「錬金術は、金属単体の方が簡単だ。このキックボードのハンドル部分なら、少しぐらい失敗しても大丈夫ではないのか?」
組み立て派のアーサーが折れたよ。
ここからは、何処が一番簡単かを議論した。
「キックボードの基礎部分が一番簡単なのでは?」
板だからね! それにタイヤを付けて、ハンドルを差し込むだけだ。
「だから、板は木材だから難しいのだ!」
ベンジャミンが吠えた。
そうか、私は錬金術クラブに入る前から木材で分数の知育玩具を作っていたから簡単だと思っていたよ。
「その部分も金属にしたらどうだ?」
カエサル部長の提案に、ああだ、こうだと反論が出る。
「金属にしたら重くなるし、参加者に無料配布するには高価になるんじゃ無いか?」
アーサーの発言にベンジャミンが食いつく。
「鉄なら然程高くないさ。ただ重くなるのは問題かもな! 作ってみよう!」
鉄でタイヤ以外を全て作ったら、重いよ!
「これでは簡単に持ち歩けないわ。キックボードで進めない所は簡単に持ち歩けるようじゃないと駄目よ」
階段とか段差とか、人通りの多い場所では持って歩かなきゃね。それと、ハンドル部分を折り曲げたい。
「このハンドルをカチャッと折り曲げられたら、コンパクトになるわ。持ち歩くのも楽だと思うの」
あああ、ベンジャミンが吠えている!
「ペイシェンス! 面倒な事を今更言うなよ! それに、その方が良いとわかっているから腹が立つ!」
完全にライオン丸になっているね。
ミハイルはせっせと設計図を書いている。本当に機械的な事は頼りになるよ。
「よし、ハンドル部分を錬金術で挑戦してもらおう。この継ぎ目に差し込むだけなら、棒と持ち手だけだから簡単だろう」
カチッと折り曲げる金具に突っ込めるハンドルならできるかもね!
「いつ頃にワークショップとやらを実行するのだ?」
ベンジャミンの質問に、全員が黙り込む。
「先ずは、キックボードの宣伝をしよう。それとポスターを作らなくてはな」
カエサル部長? 何か考えがありそうだけど?
「カエサル様、その言い方は、あてがありそうに聞こえるけど、教えて欲しい」
アーサーが突っ込む。
「収穫祭にしたらどうかと思ったのだ」
えええ、やめて欲しい! 収穫祭は忙しいんだよ。
「ペイシェンスは忙しいだろうが、音楽クラブ、グリークラブ、演劇クラブ以外の学生は暇なんじゃないかな?」
それは、そうかもしれない。
講堂の一階は卒業生達でいっぱいだけど、在校生の二階席は、出演するクラブメンバーが多い。
騎士クラブとか運動系のクラブの学生はほとんどいないよ。
「でも、欠席している学生も多いのではないか? 私も収穫祭はパスしているからな」
ベンジャミンの一言で、カエサル部長が頭を抱え込んだよ。自分もパス組だったのを思い出したみたい。
「収穫祭の前日はどうでしょう? 青葉祭の前日は終日準備だけど、収穫祭の前日は午後から授業がありません。学園に来ているのだから、錬金術クラブによって何かしているのを覗いてみようと考える学生もいるかもしれません」
ミハイルの提案に、ほぼ全員が賛成した。
私は……準備で忙しそうだから、不参加になりそう。ぐっすん!
「ペイシェンス、午後ずっと準備している訳じゃないだろう」
ベンジャミンががっくりしている私を励ましてくれるけど、無理そうだよ。
「音楽クラブの発表だけじゃなく、グリークラブの伴奏もありますから……多分、無理ですわ」
カエサル部長が難しい顔をしている。
「ペイシェンスの発案なのに不参加なのはおかしい。他の日にしよう!」
ああ、それは駄目だよ!
「いえ、練習が早く終われば、こちらに駆けつけますわ」
言っている私が信じていないのだから、誰も信じていない。
でも、他の日より学生が集まり易いのも確かなのだ。
「それに、ワークショップは一度だけではありませんわ。何回か参加したら、組み立てだけの学生も錬金術に挑戦したくなるかもしれません。今回はキックボードでしたが、次回は別のにしても良いですよね!」
あれっ? 全員から溜息が漏れた?
「ペイシェンス! 何を作らせる気なんだ!」
ベンジャミンが吠えているよ。
「キックボードも面白いと思ったが、他にもあるんだな!」
カエサル部長がアルバート部長に見えるよ。
錬金術愛が溢れている。
「それは……今度は皆様で考えてみたら如何でしょう?」
穏やかなアーサーとブライスにまで睨まれたよ。
「何か考えているなら、教えて欲しい」
アーサーに言われて、ちょこっと考えていた物のスケッチを出す。
「スケートボードとローラースケート、これらはキックボードと同じ感じで乗って遊べます」
スケートボードは、キックボードのハンドル無し版に思ったのか、然程騒がなかったけど、ローラースケートは驚いたみたい。
「靴に駒を付けるのか? 転ばないか?」
ああ、これを作るなら防護も考えなきゃね。
「ヘルメットと肘当て膝当てをして、遊びます」
私のスケッチをベンジャミンが取り上げて、マジマジと見ている。
「危険なのか?」
慣れるまでは転ぶかもね?
「それなら、これは?」
弟達と遊んでいた竹馬だよ。竹じゃないから木馬だけど、それは違う遊具があるからね。
「変な物だな? ここに乗るのか? 難しいのでは無いか?」
ベンジャミン、文句多いよ!
「私と弟達も競走して遊びましたわ」
ああ、全員がそれなら大丈夫だと笑う。酷い!
「でも、木材で作るのは難しいのでは無いか?」
カエサルは、錬金術を試させたい派だからね。
「縦の棒に足乗せ台を付けるのですが、その部分を金属にしたらどうでしょう? そこぐらいなら錬金術で作れるのでは? 組み立てだけの学生も簡単そうだと挑戦する気になるかも?」
それと、青葉祭のメインに考えている熱気球の試作品の試乗も餌に使うことに決めた。
「先に乗せたら、ワークショップをサボって帰る学生もいるかもしれないから、作品を作った者から乗せる事にしたら良い」
アーサーは現実的だね。
「でも、それでは錬金術の楽しさより、熱気球に乗りたいだけで終わってしまうのでは無いか?」
カエサル部長は、錬金術クラブの楽しさを感じて欲しいみたい。
「そうだわ! 何も熱気球に乗せなくても、アイスクリームや綿菓子とかでも良いんじゃないかしら? 綿菓子を作る体験も面白いと思うわ」
全員が「それなら女学生も来てくれるかも!」と喜ぶ。
ただ、入部してくれるかどうかはわからないよ。
「女学生はキックボードとかより、可愛い魔導灯の方が呼べるかもしれませんわ」
サササとスケッチして、百合の花のように下を向いて咲いた花型の魔導灯とか、三個の丸いボールがポンポンポンとカーブした柱に付いているインテリア魔導灯のデザインを見せる。
「ペイシェンス! これをバーンズ商会で売らないか?」
カエサル部長、脱線しているよ。でも、全員が同意している。えっ、無かったの?
「これらは魔導灯をアレンジしただけですわ」
あるんじゃないの? と思ったけど、無かったみたい。
なら、いっぱいデザインはあるよ。間接照明って素敵だから、ウィンドウショッピングではよくチェックしていたんだ!
一個しか買わないけど、見るのは好きだったんだ。
「床に丸い大きな魔導灯を、ポン、ポンと置いても面白いですわ」
あれ? これはあまり評判が良くないね。
もう少し豪華な方が良いのかな? 収穫祭シーズンって前世のクリスマスシーズンに近いんだよね。なら、これでしょう!
「それかカラフルな小さな魔導灯を何個も木に飾っても楽しそうな雰囲気になりますわ」
前世のクリスマスツリーのイメージだよ。私のスケッチをカエサル部長が取り上げて、ブツブツ呟いている。
「クズ魔石で小さな魔導灯を何個も作れば、楽しそうな飾りになるな」
あっ、面白い飾りも考えついたよ!
「こんな風に星形の魔導灯にすれば、より可愛いですわ」
小さな星形の魔導灯を何個か間に置けば、よりファンシーになるよ。
「だが、クズ魔石だとすぐに取り替えなくてはいけないぞ」
ベンジャミンの指摘で、前世のイルミネーションライトを思い出したよ。
小さな灯をコードで繋いでいたんだ。
「なら、こうしたら? 小さな魔導灯にコードを繋げて、下に少し大きめの魔石を置くの。これなら、収穫祭シーズン中付けておいても大丈夫じゃ無いかしら」
全員が黙り込んだ。
「ペイシェンス、それはカザリア帝国の遺跡のコードの応用だ。駄目なんじゃないか?」
アーサーが一言漏らす。
ええ、これも駄目なの? 太陽光発電じゃなくて太陽光蓄魔が駄目だと思っていた。
「ペイシェンス、確か巨大毒蜘蛛の糸は魔力を通すと言っていたな。それを使えば良いのでは無いか? それなら、大丈夫だと思う。銀のコーティングとかは有りだろう!」
カエサル部長の発言に、全員が自分の意見を出す。
「ピカピカ光っていたら、子供は触りたがるだろ。巨大毒蜘蛛に銀のコーティングだと、ピリリと来るかもしれない」
アーサーの言葉で、ハッとしたよ。ヘンリーがピリリとしたら大変だ。
「なら、何か絶縁体でコーティングすれば良いのでは? それか銀のコーティングをやめて、巨大毒蜘蛛の糸を柔らかいガラスでコーティングするのよ」
皆が夏休みのフロート素材を思い浮かべたみたい。
「それなら良さそうだ。銀のコーティングが必要かどうかもテストしなくてはな!」
収穫祭シーズンまでに作りたい! あれっ? ワークショップについて話し合っていた筈なのに?
私とアーサーは、変わったインテリア魔導灯。
ベンジャミンとブライスは、巨大毒蜘蛛の糸のコーティング。
カエサル部長とミハイルは、綿菓子機の完成を目指す。
この熱気、なんだかワクワクするね!
「収穫祭前日のワークショップの前に、これらの魔導灯を飾って宣伝しよう! それに、月一はワークショップを開催しよう!」
下手な鉄砲も数打ちゃ当たる方式だけど、ワークショップの本来の意味に似ているよね。
「下手な魔法も数打ちゃ当たるかもな!」
ベンジャミン、異世界ではそう言うんだね! と思っていたら、ブライスが突っ込む。
「それを言うなら、下手な矢も数打ちゃ当たるだろ!」
ああ、そちらが正解みたい。クラブメンバーが全員でゲラゲラ笑っている。
錬金術の楽しさを広げたい! それと、できたら女学生も入部して欲しいな!
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