第37話 計画変更!

 カルディナ街で、色々な食材や調味料を手に入れたけど、寮に行かなくちゃいけない。制服に着替えてメアリーと馬車で学園まで急ぐ。


 メアリーが荷物を片付けている間に、マーガレット王女も寮に着いた。チョコレートの小箱を持って特別室に行くよ。

「まぁ、チョコレートなのね! ありがとう」

 マーガレット王女もチョコレートの魅力に嵌ったようだ。

「それに箱も可愛いわ」

 ハート型の箱も好評みたい。ゾフィーがお茶を淹れてくれたので、早速、試食だよ。

 控え目なノックがして、ゾフィーが扉を開けるとリュミエラ王女もやってきた。

「リュミエラ王女にも新作のチョコレートをお持ちしましたわ」

 こちらにもハート型の黒い箱を渡す。

「まぁ、ありがとうございます」

 ゾフィーがリュミエラ王女のお茶も淹れて、王宮に帰る。寮に侍女は長居してはいけないみたい。

「リュミエラ様、ご招待ありがとうございました」

 マーガレット王女は、コルドバ王国の大使館を訪問していたみたいだね。

「いえ、とても楽しかったですわ。ジェーン様とも仲良くなれましたし」

 ジェーン王女もリュミエラ王女と友達になると話していたからね。でも、本当はスレイプニルの方に興味があるんじゃ無いかな?

 二人は嬉しそうに新作のアーモンドチョコレートを食べている。

「大使夫人にお土産でチョコレートを2粒ほど持って帰ったら、とても喜んでいましたわ。何処で買えるのか聞いて欲しいと頼まれましたの」

 ああ、バーンズ商会で早く売り出して欲しいよ。チョコレートまで作ってくれたら、アレンジレシピをエバに渡せば良いだけなんだからね。

「まだ、試作中ですの。いずれはバーンズ商会で売り出されると思いますわ」

 一応、宣伝はしておこう。さて、ご機嫌が良いうちに家政数学の話をしようかな?

「ペイシェンスはどんな週末だったの?」

 危険を察知したのか、マーガレット王女が話題を振る。

「プリースト侯爵家の昼食会とバーンズ公爵家のお茶会に招かれましたわ」

 それにはあまり興味が無さそう。大人の付き添いがあるのは分かっているし、子供の私は大人しくしているだけだからね。

「ペイシェンスは、ずっとお呼ばればかりね。退屈な週末で可哀想だわ」

 パーシバルとカルディナ街に行ったのは内緒にしておくよ。煩いからね。

「来週末もお茶会です」と答えておく。

 リュミエラ王女が、何か言いたそうだ。何かな?

「ペイシェンスには私もお世話になっているし、大使夫人が一度大使館へ来て欲しいと言っているのだけど、予定が詰まっているのね」

 あっ、それはちょっと荷が重いかも。王妃様が大使夫人がリュミエラ王女の側仕えに欲しがっていると言っていたしね。

「申し訳ありません。予定がぎっしりで」と断っておこう。

「コルドバ王国の大使館に行くなら、私も一緒に行きましょう。ペイシェンスは私の側仕えなのですから」

 マーガレット王女の『渡さないわよ』との牽制に、リュミエラ王女は『分かっています』と笑顔で返す。


「キャサリン達は社交界デビューしたようね。この週末に王宮でデビュタントの舞踏会が開かれたのよ。来年の今頃には私達も社交界デビューね」

 そこからは、社交界デビューの話になった。家政数学は、別の日にしよう。マーガレット王女が予習をサボっている件は、リュミエラ王女がいない時に言った方が良いからね。

「リュミエラ様は、その時に婚約発表ですのね!」

 恋バナ好きなマーガレット王女の声が弾んでいる。リュミエラ王女は、頬を染めて嬉しそうだ。良かった。政略結婚だけど、リチャード王子のことが好きみたいで。

「リチャード様と週末に会えるのが楽しみなのです」

 マメに大使館を訪れては、プチデートしているみたい。大使夫人や侍女が一緒だから、お行儀よくしているだろうけどね。

「ああ、羨ましいわ」

 マーガレット王女の溜息が漏れる。パリス王子に惹かれてはいるけど、ややこしい事情も聞いたからね。揺れ動いているのだろう。


 夕食でパリス王子と会ったけど、そりゃ惚れるなってのが無理だと思うね。理想の王子様なんだもの。

 これに対抗するにはパーシバルがマーガレット王女を口説くしかなさそうだけど、私と別のテーブルで話しているしね。再来週のサティスフォード行きについて計画変更だよ。

 うちの父親は放任主義だけど、モラン伯爵は常識派みたいだ。令嬢を王都外に連れ出すのに難色を示したみたい。で、話が大袈裟になっちゃったんだ。

「サティスフォードに一泊するのですか?」

 親戚の家だし、頼めば泊めてくれそうだけど、社交界は始まっているよね?

「ええ、丁度、サティスフォード子爵は領地に戻られるそうですから、一緒に行って、一泊して一緒に王都に戻ります」

 ラシーヌは社交界シーズンは、ずっと王都にいるけど、子爵は領地と行き来している感じだった。やはり独身の男女が遠出するのは駄目なんだね。

「その上、父はキャシディ伯爵やヨーク伯爵も巻き込んでしまったので、フィリップスやラッセルも一緒になりました。サティスフォード子爵は歓迎して下さっていますし、計画がかなり変更になりましたね」

 フィリップスやラッセルは外交官志望だし、親も外務省に勤めているみたい。話がツーツーだよ。

「仕方ありませんわ。サティスフォードのバザールを見学できるだけで満足しましょう」

 考えていた気楽な遠出とは違った形になるけど、こちらの習慣に従うしか無い。

 この点も、うちの父親は常識が無いから、困るんだよね。まぁ、やりたい事を止められる事も無いから、良いんだけどさ。


 日曜の夜は、恋バナで終りそう。リュミエラ王女の恋バナとマーガレット王女のお悩み相談だよ。

 マーガレット王女達とは違うテーブルで話していたのに、地獄耳なのかな? リュミエラ王女の特別室で、恋バナやお悩み相談していたのに、急に質問されたよ。

「ペイシェンスは、パーシバルと何処かへ出かける計画があるみたいね? ズルいわ!」

 そりゃ、王族は窮屈だと思うよ。グィグィ質問してくる。マーガレット王女を取調官に採用するべきじゃないかな? それとも、私がちょろいのか?

「経済学2の課題の調査の為にサティスフォード港のバザールに行くのです。サティスフォード子爵も一緒ですし、フィリップス様やラッセル様も行きますわ」

 あっ、やはり保護者と他の同行者が一緒じゃないと駄目だったんだね。マーガレット王女がホッとした顔をした。心配したのかな?

「ペイシェンスには母親がいないから、こう言った方面のチェックが緩いのが心配だわ。社交界デビューの前にパーシバルと婚約する気なら良いけど、そうじゃ無いなら気をつけないといけないわよ」

 それからは、マーガレット王女とリュミエラ王女が何故か私の求婚者候補について、あれこれ話し出した。

「ペイシェンスはモテモテなのに無自覚なのよ。錬金術クラブになんか入っているから、浮世離れしたんじゃ無いかしら?」

 リュミエラ王女も、自分の婚約はほぼ決まっているので、他人の恋バナが面白いみたい。やめて!

「まぁ、ラフォーレ公爵家の次男、バーンズ公爵家の嫡男、プリースト侯爵家の嫡男、モラン伯爵家の嫡男、キャシディ伯爵家の嫡男! 凄いですわ。私のコルドバの学友達が聞いたら、嫉妬でハンカチをキィーッって噛みそう」

 マーガレット王女がクスクス笑う。

「私の元学友達もキィーッとなっているでしょうね。特に、パーシバルには憧れていましたから」

 ああ、それは……パーシバルを選ぶのを躊躇うのは、それもあるんだよね。

「ペイシェンス、もしかして気にしているの? パーシバルは確かにモテモテだけど、他の女学生に自ら話しかけたりはしないわ。その点でも安心できる相手だと私は評価しているのよ」

 パリス王子も王立学園では、他の女学生から声を掛けられても簡単に返すだけだけど、ソフィアではどうかは分からないからね。

 マーガレット王女も不安なのかも。父のシャルル陛下は愛人に夢中みたいだし。

「リチャード様も他の女性には気軽に話し掛けるタイプではありませんわ」

 まぁ、あの威厳ある態度には女学生達も一歩引いて接していたからね。

 それにアルフレッド陛下もビクトリア王妃だけで、愛人とかいないし。まぁ、浮気なんかしたら、王妃様が怖いからかもしれないけどさ。

「ペイシェンス、パーシバルの手を取るのを戸惑っているのは、他に気になる方がいるからなの?」

 わっ、マーガレット王女の食いつきが凄い。自分の恋は先行きが不安だから、こちらで憂さ晴らしする気かな?

「私はまだ……」と答えると、二人がクスクスと笑う。

「そんな呑気な事を言っていると、変な男に捕まるわよ。社交界には素敵な殿方もいるけど、碌でもない男もいますからね」

 マーガレット王女の注意に、リュミエラ王女も同意する。

「ペイシェンスが変な男と結婚するなんて駄目よ。私のローレンス王国でのお友達ですもの」

 マーガレット王女も頷いている。なんだかくすぐったい気分になった。

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