第3話 私、ここにいて良いの?

 夕食の鐘が鳴ったので、マーガレット王女とリュミエラ王女と共に食堂へと下りる。

「まぁ、鐘で食事とか分かるのですね。それにしても着替えなくて良いなんて楽ですわ」

 だよね! 貧乏なグレンジャー家でも夕食の時は着替えるんだよ。

「ええ、それと寮では自分でお盆を持って席に運ぶのです。朝食と夕食は給仕はいませんの」

 マーガレット王女、それは昼食は上級食堂サロンだからです。普通の学食は自分で運びますよ。ああ、ナシウスはどうしたら良いんだろう。あの子は友達クラスメイト上級食堂サロンで食べた方が良いと思うけど、私が最初の一週間は学食で食べていたの覚えているかも? 学園生活の話をした時にそう言った気がするんだよね。

 そんな事を考えながら、マーガレット王女とリュミエラ王女の少し後から下りたら、そこにはハンサム集団が揃っていた。

「マーガレット様、リュミエラ様、自分で食事を運ぶのは新鮮な体験ですね」

 あの話を聞いても、パリス王子の態度には少しも不安そうな感じは見受けられない。優雅に快活に話しかけてくる。

「パーシバル様はどうしてここに?」

 キース王子とオーディン王子は先に席についている。それより、寮にパーシバルがいるのに驚いたよ。

「ペイシェンス様を驚かそうと黙っていたのですが、秋学期から寮生活をするのです」

 悪戯が成功したとウィンクするパーシバルだけど、それってパリス王子とマーガレット王女が不適切な関係にならないように見張る為なのかな?

 ウィンクにドキンとしたけど「驚きましたわ」とすまして応えておく。後でパーシバルには、パリス王子の事情を詳しく聞きたい。さっきは噂話程度だったし、私はどうすれば良いのか判断材料がもっと必要だもの。

 テーブルには、キース王子とオーディン王子がついていた。そこにマーガレット王女、リュミエラ王女、パリス王子とパーシバルと私が合流したのだけど……本当に美男美女軍団に囲まれていると、ここにいて良いのかと疑問に思う。

 キース王子の学友のラルフとヒューゴは、横の席に座っている。八人掛けの長テーブルだけど、寮生は少ないから、普段はこんなにぎっしりは詰めて座らない。

「なかなか美味しいな!」

 オーディン王子は、成長期の男子らしくキース王子とパクパク食べている。

「パリス様のお口に合うでしょうか?」

 パーシバルは、留学している他国の王族のお世話係をしているのかな?

「一般の寮生と同じだと聞いて心配していましたが、食べられます」

 ソニア王国は恋愛と美食の都と呼ばれるソフィアが王都になっているからね。まぁ、上級食堂サロンの方がパリス王子の口に合うかもしれない。

「あら、悪く無いですわよ」

 リュミエラ王女は、見た目の色っぽさとは違ってサバサバ系だ。お上品にだけど、食べるスピードはかなり早い。お国柄が出ているのかな? 話し方もポンポンとテンポが良い。リュミエラ王女の名誉の為に言っておくけど、唾なんて飛ばしていないよ! 外国語のモース先生はコルドバ語は、滑舌が良すぎて唾が飛ぶって言われていたけどね。

「キース様、騎士クラブか乗馬クラブに入りたいと考えているのだが、どちらが良いと思う」

 オーディン王子は、騎士クラブと乗馬クラブが春学期に大揉めしたのを知らないから、素直に尋ねている。

「私は騎士クラブだから、そちらを勧めます」

 ヒヤッとしたけど、キース王子は無難な回答だった。少しは成長しているみたいでホッとしたよ。

「そう言えば、パーシバルも騎士クラブだと聞いたな」

 デーン王国まで出迎えに来たパーシバルの事だから知ってて当然だよね。

「ええ、私は騎士クラブに属していますが、剣の修練も厳しいですよ。乗馬クラブは、名前の通り馬術が中心です。オーディン様は、どちらが希望なのでしょう」

 オーディン王子の縁談相手であるジェーン王女は、来年入学だけど、きっと乗馬クラブに属すると思う。それは、きっとデーン王国も調査済みだと思うのだけど?

「うむ、どちらも見学してから決めよう。それか二つ入るのも良いかもしれないな!」

 仲の悪い二つのクラブに属するのはやめておいた方が良いかも? まぁ、これは本人に任せよう。それにオーディン王子は、揉め事なんか気にしないタイプに見えるよ。

「そうか、王立学園はクラブ活動が盛んだと聞いていたな。私も何かしたい!」

 私が気にしなくてはいけないのは、パリス王子の方だよ。マーガレット王女が関係しそうだからね。

「リュミエラ様は何か決められたのですか?」

 一応、従姉妹のリュミエラ王女が一人でローレンス王国に留学するので、付き添いとして来た名目があるから尋ねているのかな? それとも前もって知っているの?

「私はコーラスクラブかグリークラブに入りたいと思っているのです。活動を見てから決めたいと思っていますわ」

 私的にはコーラスクラブ推しだけど、あそこは保守的なんだよね。まぁ、王女様には丁重に接するだろうから良いんじゃない?

「では、私も一緒に見学に行きましょう」

 マーガレット王女が嬉しそうに「私が案内致しますわ」なんて言っているけど、コーラスクラブと揉めたのを忘れたのかな? まぁ、コーラスクラブも面と向かって、未来の王妃を案内して来たマーガレット王女に逆らったりはしないだろうけどさ。

「ペイシェンス様も一緒に見学されては如何ですか? 音楽の才能に溢れておられますから」

 パーシバル、それは見張れって事なのかな? 確かに騎士クラブのパーシバルがコーラスクラブやグリークラブの見学をするのは不自然だし、女の子がキャーキャー言って大騒ぎになりそうだもんね。これも後で要相談だ!

「ああ、ペイシェンスときたら素晴らしいコーラスとの合奏曲を作ったのよ。次の音楽クラブが楽しみだわ!」

 あっ、マーガレット王女の音楽愛が爆発しているよ。パリス王子の前なのに良いのかな?

「ペイシェンスには音楽的な面からアドバイスして欲しいわ」

 リュミエラ王女にも言われたので、仕方なく頷く。コーラスクラブには、本当は近づきたく無いんだけどね。ルイーズが少しは私への逆恨みを忘れてくれていたら良いのだけど。

「ペイシェンス、貴女は私の側仕えなのよ。無礼な真似をする学生など許しませんわ」

 あっ、また顔に出ていたみたい。外交官どころか社交にも差し障りがあるよ。気をつけよう!

「ペイシェンス、私からもルイーズに注意しておこうか?」

 わっ、キース王子にまで気を使わせたよ。

「いいえ、大丈夫ですわ。それに女学生の問題に男子学生が口を挟むとややこしくなります」

 キチンと断っておかないと、キース王子は揉め事を大きくしそうだからね。

「そうなのか? まぁ、マーガレット姉上が対処されるだろう。それにペイシェンスは女準男爵バロネテスなのだから、伯爵令嬢に偉そうにされる謂れはない」

 伯爵の方がかなり地位は高いけど、そうなのかな?

「ペイシェンスは、自分の価値が分かっていないのよ。音楽の天才なのだから、あんな下手なコーラスなんか足元にも及ばなくてよ!」

 厳しいコメントだけど、今のコーラスクラブが酷い有様なのも確かなんだよね。でも、今はリュミエラ王女をコーラスクラブに入らせなきゃいけないんじゃなかったかな?

「まぁ、コーラスクラブは低レベルなのですか?」

 ほら、リュミエラ王女の片眉が少し上がったよ。

「ええ、でも立て直すのも面白そうですわよ! 地位を振り翳してソロを独占しているメンバーにガツンと言わせて、能力主義にしたら良いと思うのです」

 それって、今のコーラスクラブメンバーと全面戦争になりそうだよ!

「まぁ、それは面白そうね! 私はコルドバ王国では王宮に学友達を呼んで勉強していましたの。学園生活ってどんな感じかしらと想像していましたが、刺激的ですわ」

 ひぇぇ〜! リュミエラ王女は未来のローレンス王国の王妃になるんだよ。下手な真似はしない方が良いと思う。まだ13歳だから、初めて王妃様や大使夫人の監視の目から逃れて浮かれているのかも。

「マーガレット王女、コーラスクラブと揉めないようにして下さい。私は、コーラスクラブとグリークラブの見学には同行致しますが、クラブには入りませんから」

 はっきりと揉め事は駄目だと釘を刺しておく。

「まぁ、そうね! クラブの揉め事は御免だもの。楽しくクラブ活動をしたいですわ」

 良かった! マーガレット王女も騎士クラブのゴタゴタを思い出したみたい。自重して貰わないとね!

「それより、リュミエラ様も音楽クラブに入られたら如何ですか?」

 おっと、勧誘し始めたよ。音楽クラブは少数精鋭主義だけど、王族は推薦されたらアルバート部長も拒否しないと思う。

「ハノンも弾きますけど、歌ほどは上手くないのです。それに先ほどペイシェンスの新曲を聴きましたけど、私にはそんな才能はありませんわ」

 まぁ、ハノンが得意なら音楽クラブに入っているよね。かなりレベルが高いから、前にマーガレット王女の学友達も苦労していたみたいだものね。

「私は、かなりハノンもリュートも上手く弾きますよ。マーガレット様が音楽クラブに推薦して下さると嬉しいのですが」

 ええええ、リュミエラ王女からパリス王子は歌が得意だと聞いたけど? 音楽もなの? 自信ありそうだけど、どの程度なのかな?

「まぁ、パリス様は音楽全般に造詣が深いのですね」

 音楽愛の深いマーガレット王女をぐいぐい攻めてくるね! 守り切れるか不安だよ。

「あら、パリス様は私の付き添いだから、コーラスクラブかグリークラブに入ってくださると思っていたわ」

 リュミエラ王女は、かなりリチャード王子と話し合っているみたい。自分と一緒なら問題なんか起こさせないけど、目の届かない所でパリス王子が急接近するのは阻止したいのかも? なかなか頭が回る王女様だね。

「ええ、そちらもご一緒しますよ。私は、ローレンス王国の学園生活を堪能するつもりですから」

 パリス王子の笑顔が輝いて見える。ああ、マーガレット王女は頬を染めて見つめている。拙いよ!

「さて、クラブ活動もですが、中等科はコース選択と単位制ですから、そちらについても話し合わなくてはね。学期初の授業で様子を見ても良いですし、秋学期からはテストを受ければその科目は合格か修了証書が貰えます」

 オーディン王子は初等科3年なので、キース王子とほぼ同じスケジュールだ。キース王子が修了証書を取っている科目もあるけどね。初等科の説明はテーブルを移動してラルフがオーディン王子に説明をしている。そちらは任せよう!

 こちらは難航しそうだよ!

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