第27話 モラン伯爵家に行くよ!
アンジェラが金曜に帰ると、モラン伯爵家に行く準備をする。フロートも持って行くけど、空気は抜くよ。この空気を抜くのがなかなか大変だった。あまり力任せにしたら破れそうだからね。隅から畳んでいくようにして空気を抜いて貰ったよ。これはノースコートの召使いがしてくれた。
準備と言っても、服はメアリーが衣装櫃に詰めるし、お土産とかはリリアナ伯母様が用意する。つまり、私達は暇なのだ。
「フロートは空気を抜いたのだな。では、海水浴は無しだから、乗馬にしよう!」
このところ、染色や錬金術で乗馬はさぼっていたんだよね。仕方ない。万が一、狩りに招待された場合、後ろから離れずについて行ける程度には乗馬を練習しよう。
「ペイシェンス、前より下手になっていないか?」
サミュエル、是非とも褒めて伸ばす遣り方でお願いします。
「いえ、お姉様は同じです。私達が上達したからそう見えるだけです」
ナシウス、あまりフォローになってないけど、ありがとう。本当にヘンリーは前から上手かったけど、ナシウスの進歩は目覚ましいよ。
「では、私達について来れるようにしっかりと乗馬訓練をしなくてはな」
後ろからついて行くだけで良いのよ。でも、みっちりとしごかれて、低い障害は跳べるようになったよ。
「このくらい跳べないと、狩りの時に溝があると前に進めなくなるぞ。垣根とかは大回りする夫人も多いから良いが、低い障害は跳ぶ練習をしないといけない」
サミュエルは乗馬クラブに入るぐらいだから、厳しいよ。でも、間違ったことは言ってないんだよね。なんだか腹が立ってきた。プンプン!
そして、翌朝はモラン伯爵家へと出発した。お昼には着く予定だ。隣だから近いね。
馬車は伯爵夫妻と私達と召使い達の3台と、護衛の人が何人か馬でついて来ている。あの倉庫の素材を見ると、やはり異世界の旅は危険だと思っちゃう。
街道は、それぞれの領主がよく討伐しているから、魔物は出ないみたいだ。これを怠ると、他の領主からの苦情が王家に伝わって、叱責されちゃうそうだ。ここら辺の事はサミュエルから聞いたんだよ。グレンジャー家は領地を持たないから、そんな事は知らないので、私達には良い勉強になった。
「モラン伯爵家に行くのは初めてだから楽しみだ」
サミュエル達は弟達と気楽に湖でボート遊びをしたり、フロートを浮かべようと話している。
でも、私は少し緊張してきた。だって、縁談があるモラン伯爵家を訪問するんだからね。やはり、伯爵夫妻にチェックされるだろう。ペイシェンスのマナーは完璧だけど、私の前世の常識が時々出てしまいメアリー的には少し令嬢としては変な事をする様なんだもの。
町を見学したいとか、ショッピングを自分でしたがるとか、他の令嬢は考えないのかな? メアリーは母親の侍女として実家からついてきた。つまり、母親はそんな事は言い出さなかったのだろう。
染物やハノンが好きだったのは、他の人からの言葉で分かるけど、ペイシェンスの記憶を遡っても優しくて躾には少し厳しい印象しかない。ヘンリーを産んでからは一日の殆どをベッドで過ごしていたからかも。
ペイシェンスも若くして亡くなったぐらいだし、体力強化して長生きするぞ! 異世界に来て1年と半年。何となく前の世界には帰れない気がする。もし帰れるとしたら、帰りたいのかな?
こちらの生活に慣れたけど、やはり前世が恋しくなる時もある。だって娯楽が少ないんだもの。でも、目の前の弟達エンジェルを見ると、それだけで幸福感が込み上げてくる。やはり、帰れるとしても、帰らないよ。
そんな事を考えているうちにモラン伯爵家に着いた。わっ、パーシバルの出迎えだ。やはりハンサムだね。あっ、モラン伯爵夫人も美しい。伯爵も見栄えが良いけど、パーシバルは母親に似たんだね。異世界は容姿の優れた人が多いのか? いや、貴族の容姿が特に優れている気がする。
「ノースコート伯爵夫妻、ようこそモランへ」
そんな事を考えているうちにモラン伯爵夫妻とノースコート伯爵夫妻の挨拶が済み、サミュエルが紹介され、私や弟達も紹介されて挨拶したよ。
「ペイシェンス・グレンジャーです。お招きありがとうございます」
弟達もキチンと挨拶をしたよ。マジ賢いし、マナーもちゃんと覚えているね。
「さぁ、皆様お疲れでしょう。どうぞ入って下さい」
さっとパーシバルがエスコートしに来る。こういう所が格好良いんだよね。
メアリー達が荷物を部屋に運んだりしている間に、私達は居間で歓談する。ヘンリーも一緒で良かったよ。まぁ、殆どモラン伯爵夫妻とノースコート伯爵夫妻が話していて、子供は質問に答えるだけしか口を開かないのがマナーだから気は楽だね。
「お部屋の用意が出来ました」
執事が告げに来て、一旦は部屋に下がる。ここで馬車の埃がついた顔を洗ったり、服を着替えたりするのだ。ナシウスとヘンリーの世話をする従僕はノースコート伯爵家の召使いを貸してくれたから安心だ。でも、晩御飯の時はメアリーがヘンリーの世話をしてくれる事になっている。やはり、そちらの方が安心だからね。
「まぁ、湖が見えるわ!」
部屋の窓は夏なので開け放されていた。そこから湖がキラキラと光って見える。ここにボートを浮かべたら楽しいだろうな。
「素敵ですね」
メアリーも嬉しそうだ。風光明媚だよね。
「ねぇ、お母様の実家のケープコット伯爵領はどんな所だったの?」
ふと聞いてみたくなった。まぁ、老カッパフィールド侯爵が亡くなったからと言って、母親が亡くなっているし、そうそう関係が回復しそうには無いんだけどね。
「ローレンス王国の東に位置していますから、ソニア王国との間のアンドレアの森が近かったです。そのせいか魔物も多かったですわ」
魔物が多い? それって暮らしにくそうなように感じるよ。でも、メアリーからは否定的な感じを受けないんだよね。
「メアリーは魔物を見た事があるの?」
何故、そんな質問をするのかとメアリーは不思議そうな顔をした。
「ええ、小さな魔物なら見た事がありますわ。それに魔物の肉はとても美味しいです」
確かに去年の秋に食べた魔物の肉は美味しかった。でも、怖くは無いのかな?
「私が魔物を見たのは、去年の秋の討伐の時の獲物だけなの」
メアリーがハッとして頷く。
「お嬢様は王都ロマノの生まれですから、ご存知無いのですね。地方暮らしの人々は小さな魔物なら矢で射て食べたりします。大きな魔物はギルドメンバーや兵士達が討伐しますけど」
母親の実家について聞くつもりが、魔物についての話になった。貴族至上主義だと聞いていたので、着飾って贅沢しているイメージだったけど、かなり野生的な感じなのかな? それか討伐するのは配下の騎士や兵士達だけなのかな? よく分からない。
少し休憩して、下の食堂へ降りたら、ナシウスとヘンリーはもう待っていた。はあぁぁ、正式な服を着たヘンリー、めちゃ可愛い。勿論、ナシウスも可愛いけど、夕食で見慣れているからね。
「ヘンリー、素敵よ。ナシウスも着慣れてきたわね」
素早く2人の頬にキスしておく。グレンジャー家にいる時と違って、他の人がいる時は自粛気味だからチャンスは逃さないよ。
「お姉様も素敵です」
ナシウスはマナーが身に付いてきたね。
「素敵です」
ヘンリーはお兄ちゃんの真似だけど、先ずはそこから始めなきゃね。
あっ、パーシバルとサミュエルがやってきた。何だろう、話しているけど?
「パーシバル様は騎士コースと文官コースを選択されるのですね。私は父から騎士コースを取るようにと言われているのですが、乗馬クラブと騎士クラブは揉めたので、少し気が乗らないのです」
おおっと、いきなり難しい話だね。
「サミュエル君、今回の件は騎士クラブの過ちだ。乗馬クラブに迷惑をかけてしまった。申し訳ない。だが騎士コースを取る事を辞めないで欲しい」
パーシバルの言葉は正しいけど、それが通らない人、特にカスバート先生みたいな人がいるから、サミュエルが悩んでいるんだよ。
「私は領地の管理もしなくてはいけないので、文官コースを取って、騎士コースの防衛に必要な科目だけ履修しようかと考えているのですが、やはりそれでは駄目でしょうか?」
私は、それで良いのではと思うんだけどね。違うの?
「そうだなぁ、騎士コースを選択すると、将来の騎士と親しくなれる。つまり、君がノースコート伯爵になった時に雇う騎士の事をよく知ることができるのが大きい」
あっ、成る程ね。武芸だけでなく人間性も雇うなら重要だし、自分の寄子の騎士爵には一定の土地を与えたりするみたいだもの。
「ああ、それは考えていませんでした。もう少し父と話し合ってみます」
わぁ、サミュエルが尊敬の眼差しでパーシバルを見ているよ。ノースコート伯爵も同じ様な事を言っていた筈なんだけど、やはり親子関係だと伝わるのが難しいのかな? 先輩の言葉の方が伝わり易いのかも?
ナシウスとヘンリーもキラキラした目でパーシバルを見ている。
「ナシウス、ヘンリー、後で剣術訓練をしよう。前よりずっと上達していそうだ」
「「はい! お願いします」」
わぁ、うちの弟達の尻尾があったら振り切れているよ。あっ、サミュエルもだ。
「私もお願いします」
これは、パーシバルにやられた気がするな。私が弟達に弱いと見抜かれているよ。
昼食は和気藹々とした雰囲気で、モラン伯爵夫妻からのチェックの目も感じなかった。そこら辺は優れた外交官だからだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます