第19話 夏休みを楽しむよ!

 土曜のラフォーレ公爵家への訪問を考えると気が重たいけど、折角の夏休みなのだから楽しむことにした。

 とは言え、午前中は勉強だよ。なんとサミュエルも嫌がらない。進歩したもんだよね!

「ナシウスは入学したら直ぐに2年に飛び級してくるだろう。そして、また次の年には飛び級するかもしれない。私も一緒の学年で学びたい!」

 確かにナシウスは優秀だからね。うちの弟達、マジ賢いもの!

「サミュエル、一緒に勉強しよう!」

 ナシウスもサミュエルと切磋琢磨したらお互いに長所を引き出せるよ。サミュエルの方が音楽や乗馬や剣術やダンスは上だからね。学習面は、勿論、ナシウスの方が上だよ。

 この二人は自主性を重んじよう。少し見守るだけにして、私はアンジェラとヘンリーの勉強を見てあげる。

「ヘンリー、夏休みになってかなり進んだわね」

 夏休みだけど午前中は勉強するので、ヘンリーは入学前に習得するべき事はかなり終わっている。

「そうだわ、ヘンリーもカリグラフィーを学んではどうかしら? お父様も綺麗な字を書かれるわ」

 王立学園に入学するのは3年後だ。今の段階では十分だ。ヘンリーの字は汚くは無いけど、早く書こうとする方を優先している感じだ。

「カリグラフィーですか? お姉様の字は綺麗ですものね!」

 お手本で『ヘンリー・グレンジャー』と飾り文字を書いてあげる。

「これをサラサラ書けるように練習しておきなさい」

 真面目に練習しているヘンリーが凄く可愛くてキスしたいけど、サミュエルやアンジェラの前では恥ずかしがるんだよね。後でキスしよう!

「アンジェラは何が苦手なの?」

 前にサミュエルに勉強を教えた時は、好きな物からさせたけど、ラシーヌは教育熱心だからアンジェラもかなり鍛えられている。だから、弱点を補強する方が良さそうだ。

「私は算数が苦手です」

 うん、女学生は算数が苦手な人が多いよね。初めから苦手意識を持つのかな? 私も然程得意とは言えないけど、前世の記憶があるからね。

「では、算数を勉強しましょう。難しくは無いのよ」

 アンジェラが持ってきた算数の本を見ると、やはり分数の計算で躓いていた。分数って難しいよね。いや、難しくないと言ったんだわ。

「分数の足し算と引き算ね。先ずは、足し算からしましょう」

 そう言ってアンジェラにやらしてみたけど、これは分数からやり直した方が良いかもね。

 前にサミュエルに分数を教えた知育玩具、本当に売り出したら良いよ。なんて考える。今は手元に無いから、絵を描いてアンジェラに分数を説明する。

「1つの林檎を私とアンジェラで分けるとするでしょ。それを分数で表すと何になるかしら?」

 これは簡単だよね。

「2分の1です」

「では、もう1つ林檎を貰った所に、サミュエルとナシウスも来ました。それを4人で分けるとどうなるかな?」

 2つの林檎を4人で分ける。

「ええっと、4分の1ですか?」

 それは、ある意味では正しいよね。全体の4分の1を食べるのだから。でも、算数的には間違いなんだ。

 私は林檎を2つ描いて、それを線で半分に切る。

「あっ、2分の1だわ?」

 そうなんだよ。

「これを算数で表すと2÷4。4分の2は?」

 アンジェラはパッと顔を輝かせる。

「2分の1! 何だか分数って面白いですね」

 カリグラフィーをしていたヘンリーもこちらを見ている。

「ヘンリーも一緒に分数を勉強しましょう!」

 名前を何回も書いて退屈していたヘンリーがパッと飛ぶようにやってくる。アンジェラは一瞬驚いたようだけど、仔犬の様に人懐っこいヘンリーとはすぐに仲良くなった。

 ああ、可愛い弟と可愛い従姪に分数を教えるの、すっごく楽しい。

「今度までに分数を楽しく学べる玩具を作っておきますわ」

 アンジェラとヘンリーが「玩具!」と聞いて、きゃっきゃっと喜んだ。

 聞きつけたサミュエルとナシウスが協力してくれることになった。

「あの玩具で私は分数が理解できるようになったのだ」

 ナシウスは、玩具なんか必要無かったけど「そうなんですね!」と驚いている。

「お姉様、分数が難しいと思っている子が多いと思います。その玩具を皆に使って貰えると良いですね」

 ナシウス、マジで天使。私は知育玩具として売り出して儲けようと考えていたんだよ。でも知育玩具の目的は一緒だよね。

「ええ、ロマノに帰ったらバーンズ商会に話してみますね。その見本を作るのも良いと思いますわ」

 ナシウスの尊敬の視線が突き刺さるよ。なるべく安価にしてもらおう。なんて思った瞬間から、分数だけじゃ無く、文字を覚えるのや歴史のカードなども売れるかもと考えてしまう。幼児用には形の違いを覚えるのに色々な形の穴が開いている箱に、カラフルな色々な積み木を入れる玩具も良いよね。

 ついつい金儲けについて考えてしまうのは、グレンジャー家があまりに貧しいからだよ。同じ子爵家でもサティスフォード子爵家に転生していたら、可愛い弟達を甘やかすだけで満足していたと思うね。

 いやいや、やはりグレンジャー家に転生して良かったよ。ナシウスとヘンリーは天使だからね。


 昼からは海水浴だ! アンジェラは泳ぐの上手いね。ヘンリーは身体強化系だから、もう泳げるようになった。

 ナシウスはサミュエルに特訓されているよ。午前中、ナシウスがサミュエルに勉強を教えていたから、今度は泳ぎを教えて貰うんだね。

 私も少し泳いで、後は日除けの下でメアリーにジュースを貰って寛ぐ。ついでに皆の分のジュースも冷やしておいたよ。

 青い空、煌めく海、そして可愛い弟達が泳いでいるのを見ながら、冷たいジュースを飲む。至福の時だよ。

 異世界に転生して1年と半、かなり生活も改善したし、父親も秋からは働くみたいだ。肩に掛かっていた重荷を降ろした気分だよ。

 海からの風を受けながら、うとうとしていたら、サミュエル達も休憩をしに来た。

「おい、ペイシェンス! 寝ているのか?」

 サミュエルはうるさいね。でも、起きるよ。折角、弟達と一緒に海水浴に来ているんだもの。

「まぁ、起きているわよ。海風を楽しんでいたの」

 ジュースをもう一度冷やしてから、全員で飲む。

「もうひと泳ぎしたら帰ろう!」

 私も海に駆け出す。うん、アンジェラにも置いて行かれたよ。ペイシェンス、運動神経が無いというか、お淑やかすぎるんだよね。

「お姉様は泳ぎを去年おぼえたのですか?」

 サミュエルと練習しているナシウスに首を傾げられる。鈍臭いのにすぐに泳げる様になったのか? って思われているのかな?

「ええ、夏の離宮で練習しましたからね。ナシウスも練習すれば泳げるようになりますよ」

 そうか、今泳げないのはナシウスだけだもんね。

 夏の離宮にはビート板みたいな浮く板があったけど、ここには無い。作ってあげたいな。

「それと浮く遊具も作りたいわね。ぷかぷか波に揺られるのも楽しそうだわ」

 前世のスワン型やイルカ型の浮き輪というか、フロート。プールじゃ無いから、沖に流されないように、海岸にロープで括らないとダメだけどね。

「スライム粉とガラスの素で何か出来そうなんだけど……そうだ! 夏休みはマギウスのマントも研究する予定だったのだわ」

 フロートも面白そうだけど、ヘンリーが騎士になるなら、マギウスのマントは絶対に作らなくてはいけない。可愛い弟が怪我をするのを少しでも防ぎたいのだ。

 それにノースコートの館には、染め場がある。あそこなら錬金術にぴったりだよ。

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