第18話 二度目の訪問
水曜は夏の離宮に行く。弟達と同じ馬車に乗れないのは少し寂しいけど、アンジェラも私に慣れてきたのか、色々と話している間に着いた。でも、まだペイシェンス様呼びなんだよね。まぁ、これは仕方ないかな。弟達だってお姉様って呼んでるからね!
今回は王妃様との話は簡単に終わった。前回みたいな難問はそうそう無いよね。
「遠乗りがしたいわ!」
私もサミュエルやアンジェラや弟達と一緒に乗馬だ。これはジェーン王女の希望通り。
かなり王妃様に絞られているのを、キース王子もマーガレット王女も気の毒に感じているので、ジェーン王女の案がすんなりと通ったのだ。
「ペイシェンス、もう少し乗馬を練習しなくてはいけないわ」
私の乗馬ときたら音楽ラブのマーガレット王女に呆れられる程の下手さだ。マーカス王子、一年前は一緒にゆっくりと馬を歩かせていたのに、凄く上達している。この前は、アンジェラと低い障害を跳んでいたのに、今日は馬を上手く操っているよ。グッスン!
勿論、サミュエルは乗馬クラブだから上手だし、ナシウスとヘンリーも楽に乗っている。キース王子? 騎士クラブだから馬に乗れないと話にならないでしょ。腹が立つほど上手いよ。
「アンジェラぐらいは乗れないと困るぞ」
そんな事、キース王子に言われなくても、一番下手なのは分かっている。
「マーガレット王女様、ペイシェンス様、アンジェラ様は私が先導致します。王子様方はお先にいらして下さい」
格好良い女騎士のユージーヌ卿にお世話になっちゃうよ。マーガレット王女は、乗馬もかなり上手い。やる気が無いから、男の子達とジェーン王女組と一緒に行かなかっただけだ。そちらも騎士達が先導しているよ。
二人に置いていかれないようにもたもたしている私にユージーヌ卿は優しく微笑む。
「狩りに招待されても、ゆっくりと付いていけば宜しいのですよ」
ユージーヌ卿の優しさが身に沁みるよ。少し乗馬の練習もしてみる気になった。
「落ちなければ良いのよ。ペイシェンスは難しく考えすぎるから、馬にも緊張が伝わるのだわ」
マーガレット王女は簡単そうに言うけど、その落馬が怖いから、緊張しちゃうのだ。
どうにかユージーヌ卿に途中からは手綱を持ってもらって、遠乗りの目的地に着いた。
「ありがとうございます」
乗馬台に下ろして貰いながら、お礼を言う。
「いいえ、ペイシェンス様のお役に立てて光栄です」
わぁ、格好良いね! アンジェラも降りるのを手伝って貰って、ポッと頬を赤らめている。
遠乗りして着いた場所は、野生の花が咲いていて、とても綺麗だ。先回りした召使いがテントを立てていて、そこでキース王子、マーカス王子、ジェーン王女、サミュエルとナシウスとヘンリーは、椅子に座ってジュースを飲んでいた。後から着いた私達も参加する。
「遅かったな」キース王子に言われなくても分かっているよ。でも、もうちょっと乗馬も練習しようと思うようになった。ユージーヌ卿のお陰だよ。異世界には『北風と太陽』の話は無いのかな?
キース王子は勉強会でサミュエルと親しくなったので、あれこれ話しかけている。しまった! サミュエルに口止めしていなかった。余計な事を言わないでよ。
「今年は兄上がいらっしゃらないから、退屈なのだ」
相変わらず
私の横では、リチャード王子の不在の意味を知っているマーガレット王女が小さな溜息をついた。婚約者のリュミエラ王女に同情したのと同時に、そのお相手をしなくてはいけないのを思い出したのだろう。それは私も一緒だよ。
他国に嫁ぐなんて、とても大変そうだ。マーガレット王女がそんな事にならなきゃ良いな。あれっ、それとも王妃になるのだから良いのかな? 異世界の常識が私はないから判断できない。というか、王族なんて前世では会う事も話す事も無かったからね。
ヘンリーとナシウスはマーカス王子と話している。王立学園に入学していないメンバーだからかな? それはジェーン王女も同じだけど、女の子同士でアンジェラと話している。
おっとりとしたマーカス王子だけど、意外とヘンリーと気が合ったようだ。同じ年の友だちは初めてだからかな?
「ヘンリーは乗馬が上手いね。いつも練習しているの?」
「ええ、兄のナシウスと週に3回、練習しています」
「そうか、兄上と一緒なのは良いな」
羨ましそうなマーカス王子だ。10歳までは子守がお世話しているからね。ヘンリーは返事に困っている。ナシウスがフォローしたよ。
「マーカス王子様もキース王子様と離宮では一緒に過ごせますね」
「うん!」
ナシウスには、マーカス王子は幼くて少し物足りない感じかもしれない。でも、優しい子だから、2人に話を合わせている。
なんて、ジュースを飲みながらのんびり眺めていたら、サミュエルがやらかしてくれた。
「今週の土曜は、ラフォーレ公爵家に音楽クラブのメンバーが招待されているのです」
キース王子が予定を聞いたのかな? 私は乗馬で疲れていたから、何故、そんな話になったのかは分からないよ。サミュエルの口を塞ぎたい気分だけど、生憎と席が離れていた。マーガレット王女が気づかないと良いなと願ったが、そうはいかないよね。
「まぁ、ペイシェンス! 音楽クラブのメンバーが招待されるの?」
マーガレット王女は、音楽の話題をスルーしてくれない。
「ええ」と簡単に答えておく。この前、ラフォーレ公爵家に招待されたのを「青春しているわね!」と笑っていたじゃん。
「私も音楽クラブのメンバーなのに、招待されていないわ」
そりゃ、王女様だからじゃ無いかな? 王族が夏の離宮でゆっくりとされているのに、招待状を送りつけるのはマナー違反だ。そんなのに応じていたら、忙しくなるものね。休暇にならないよ。
私が話にのらないから、マーガレット王女は標的をサミュエルに変更した。
「サミュエル、誰が招待されているの?」
やっとサミュエルは拙い事になったのではと察してきた。遅いよ!
「ダニエルとクライスとバルディシュですが、彼らはラフォーレ公爵家と遠縁ですから」
あっ、それは言い訳にならないよ。なら、なんで遠縁でも無いノースコート伯爵家や私まで招待されたかって事になる。サミュエルは、もう少し鍛えなきゃ駄目だね。
私としては悩みどころだ。マーガレット王女が付いてきたら、ラフォーレ公爵の脅威からは安全だ。でも、夏の離宮にいる間は社交はしない原則が崩れちゃう。
それはマーガレット王女にも分かったようだ。
「きっとお母様はお許しにならないわ」
がっかりされるから、音楽クラブのメンバーが招待されている件は内緒にしたかったのに、サミュエルに口止めするのを忘れたのだ。失敗したな。
カザリア帝国の壁画を見て、もしかしたら私以外の転生した人がいるのか? とか考えていたせいだ。本当に金にもならない事を考えていると失敗しちゃうね。
私にとって二回目の夏の離宮は、少し気まずい感じで終わった。アンジェラはジェーン王女と仲良くなったし、サミュエルはキース王子と親しくなった。それに、ヘンリーはマーカス王子と何故か気が合ったようだ。
活発なヘンリーとおっとりしたマーカス王子は合わない気がしたのに、分からないものだね。お姉ちゃんなのに駄目だなぁなんて、落ち込んでしまう。
「お姉様、明日は海水浴をしましょう!」
ナシウスに気をつかわれたよ。この子は本当に人をよく見ているね。サミュエル、少しは見習ってよ。姉上達とは年が離れているから、独りっ子育ち。まぁ、仕方ないかも。
「ええ、アンジェラも海水浴をしましょうね」
アンジェラも泳げるようだ。嬉しそうに頷いている。サティスフォードの弟達はまだ幼いというか、幼児と赤ちゃんみたい。私なら可愛くて仕方ないけど、異世界だと子守が世話するから、1日に数度しか会わないみたいだね。
馬車でノースコート伯爵家に帰りながら、土曜のラフォーレ公爵家の招待がキャンセルされないかなぁなんて甘いことを考えていた。
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