第71話 夏休みの予定

 青葉祭が済んだら、期末テストだ。私は行政と法律の終了証書を取る為の猛勉強中だ。覚える事がいっぱいで大変だよ。

 その他にも経営学と経済学のレポートもあるし、外交学は何故か私達のグループはコルドバ王国側になったから、調べるのが大変だ。多分、優秀なフィリップスやラッセルがいるから難しい方にされたんだと思う。

 薬草学の座学は5月になってから1、2回授業に出たけど、本当に学生に教科書を読ませるだけだった。だから、教科書に載っている薬草を図書館で調べまくったよ。やはり、この教科書は親切ではなかった。大切な事が書かれて無かったんだ。組み合わせたら効果が出る薬草とか、組み合わせたら絶対に駄目な薬草とか調べたよ。薬草学1、薬草学2、薬草学3のテストを受けなくてはいけないのは大変だ。普通の科目では3が合格なら終了証書を貰えるのにね。やはりマキアス先生は意地悪だよ。

 マーガレット王女も国語と魔法学の終了証書を取るために猛勉強中だ。美術も真面目に描いたから何とか終了証書を取れた。歴史と古典は秋学期に終了証書を取るつもりみたい。それと育児学も終了証書を取ると頑張って覚えている。これは簡単そうだね。

 秋学期は初めから裁縫の時間を増やすと言っている。裏地も縫わなくてはいけないから、今回みたいにギリギリは避けたいそうだ。だって本当は付ける予定だったフリルやレース飾りも付けてないシンプルなドレスだったからね。お洒落なマーガレット王女としては不本意だったのだろう。

 あっ、講堂の投票はギリギリ音楽クラブが1位だった。2位はグリークラブ。かなり下で3位が演劇クラブ。そして最下位はぶっちぎりでコーラスクラブだ。

「グリークラブの楽曲が音楽クラブの提供だと知っている学生は、こちらに投票したみたいだわ」

 マーガレット王女は1位を取れてご機嫌だ。それにしてもコーラスクラブの零落ぶりは激しいね。新入生のほとんどはグリークラブに入った様だし、勢いが違うもの。私はルイーズを避ける事にするよ。難癖つけられるの御免だもの。

 期末テストまでは音楽クラブも錬金術クラブも活動は半停止状態だ。サミュエル、大丈夫かな? 少し不安だけど、分からない所が有れば土日に質問するよね? Bクラスに落ちる成績では無いと思うよ。

 私は何とか経営学のレポートを書き上げた。温室を使って野菜の先物販売をする事業を立ち上げるレポートにしたんだ。ほぼ実践スタイルに似ているね。野菜の値段はエバに聞いたよ。

 経済学はそれの延長線上のレポートになった。より高く売れる野菜の調査と、野菜の値段変化をグラフにして示したんだ。これもエバの助けが多かった。エバは仕入れ値段をノートに十何年分も書いているから、それを参考にさせて貰ったよ。

 その時、転生した頃の食糧の値段が跳ね上っているのに気づいた。冬が本当に厳しくて北部では凍死者や餓死者も出たそうだ。二度と飢えない為にも食糧の備蓄は頑張るよ。

 それと5月は薔薇が満開なんだ。つまり、縁だけピンクの白薔薇や、真ん中が赤い黄色い薔薇、紫色の薔薇、色々な薔薇をハサミで切って持って帰っては家の温室に植えたよ。前からのピンクや赤の薔薇の一部は庭に植え替えた。これらは手入れがおざなりな中でも生き残った丈夫な品種だから、外の庭でも咲き誇ってくれるだろう。

 私が考えていたよりも冬の薔薇は高収入だったから、温室の半分は薔薇を植える。ペイシェンスが初めに『薔薇は素敵よ』と言った通りだったね。でも、あの時は飢えていたから、食糧を優先したんだ。

 そして今は夏野菜を植えているよ。冬には葉物野菜と薬草と苺だね。

 夏休みはどうなるか分からない。去年みたいに夏の離宮に招待されるかもしれない。できたら家で弟達とまったり過ごしたい。裏の畑で作りたい野菜がいっぱいあるし、マギウスのマントの研究やミシンの仕組みも考えたい。それに絵画刺繍を仕上げたいんだ。サティスフォード子爵家からは週に3回も馬術教師を派遣して貰っているからね。ちょこちょこ暇を見つけては刺繍しているけど、半分くらいしか出来てない。生活魔法を使っても、細かな色変えが多くて大変だよ。

 音楽クラブと錬金術クラブも週に一度ぐらいは顔を出すけど、ほぼ勉強漬けで5月は終わった。期末テストはまぁまぁだった。

 経営学と経済学のレポートも出したし、外交学はコルドバ王国の勝利で終わり、微妙な雰囲気になったよ。先生が『今度からは私がグループ分けをする』と言ったから、絶対にフィリップスとラッセルは離される。ローレンス王国側を悉く論破して圧勝だったからね。

 期末テストの成績発表がある時期になっても、夏休みの予定は立たなかった。

「どうもリチャードお兄様は外国へ行かれるみたいなの。だから、お母様も忙しそうだわ」

 ロマノ大学も夏休みがあるから、その期間に次代の王になるリチャード王子に外国を遊学させるのだろう。良いなぁ、外国旅行なんて貧乏なグレンジャー家には縁が無いもの。なんて呑気な事を考えていたら、王宮へ呼び出された。

「きっと夏の離宮へペイシェンスも一緒に行こうと言われるのだわ」

 多分、そうだろうな。弟達との夏休みは今年もちょっとだけなのだろうと溜息を押し殺す。

「マーガレット、今年の夏はジェーンも10歳になったので、貴女がお手本となって指導しなくてはいけませんよ」

 あっ、ジェーン王女は10歳になられたんだね。つまり、子守と離れて食事も一緒なんだ。

「ペイシェンス、マーガレットの側仕えで疲れているでしょう。夏休みはゆっくりと過ごしなさい」

 これって夏の離宮に行かなくても良いって事だよね。マーガレット王女は文句を言いたそうだけど、ビクトリア王妃様に睨まれて黙った。私は喜び過ぎないように、無表情で話を聞いている。

「マーガレットはペイシェンスに甘え過ぎだと感じます。夏休みは自分で起きなさい」

 わっ、大変そうだよ。

「来年の秋には社交界デビューなのですよ。もっと自覚を持たなくてはいけません」

 そっか、社交界デビューって事は大人の仲間入りなんだね。寮から出るのかな? 側仕えも要らなくなるかもね。なんて気楽な事を考えていた。

「ペイシェンスも来年には13歳になりますね。マーガレットと一緒に社交界デビューしなさい」

 えっ、それは無理では? 家は貧乏なんです。キャサリン達はこの秋に社交界デビューすると教室で騒いでいたから知っている。14歳でデビューは早い方で、クラスの女学生達から羨まらしがられていた。

 あれこれ噂話を聞いたところ12歳でデビューする人もいるけど、そんな場合は許婚とかが決まってて、その披露としての意味合いが多いみたいだ。お相手の社交界デビューに合わせるのだが、実際はパーティには出席しないと聞いた。

「まぁ、ペイシェンスと一緒なら楽しいわ」

 マーガレット王女は喜んでいるが、私はパーティに行くより、錬金術や内職したいよ。

「ペイシェンス、心配しなくても社交界デビューの支度はこちらでします」

 ドレスなどは用意してくれるみたいだ。でも、やはり気が進まないよ。それに、父親は免職中なんだし、娘が社交界でちゃらちゃらしてて良いのかな? なるべく表情に出さないように気をつけていたが、不安そうな顔をしていたようだ。王妃様は微笑んで話を続けられる。

「グレンジャー子爵には苦労を掛けましたが、秋には良い知らせが来るでしょう」

 えっ、それって何か職に就けるって事なんだろうか? 期待し過ぎては駄目だ! と思っても、やはり期待しちゃうよ。

「マーガレット、来年の秋までになるべく多くの終了証書を取りなさい。パーティは基本的に週末しか出席しませんが、何事も例外がありますからね。ペイシェンスは言わなくても単位は大丈夫でしょう」

 週末の弟達との時間がパーティで潰れるの? 

「王立学園の勉強の方を優先しますから、社交界シーズンの秋から冬は数回パーティに出席しますが、そんなに多くはありませんよ」

 王妃様はくだらないパーティにマーガレット王女を出席させたりしないのだろう。

「夏休み中にジェーンと勉強しなさい」

 古典と歴史は集中して勉強すれば、秋学期に終了証書を取れるかもしれない。魔法実技はもう少しだけなのに、今学期は終了証書は取れなかった。

「勉強するならペイシェンスと一緒の方が分かりやすいわ。キースも古典をペイシェンスに教えて貰って理解できるようになったのよ」

 あっ、そんな事を言ったら……ああ、王妃様の微笑みが深くなったよ。怖い!

「その甘えた考え方を改めるまで、家庭教師に厳しく指導して貰いましょう」

 これは厳しい夏休みになりそうだね。まぁ、でも海で泳いだり、馬に乗ったり、ハノンを弾いたりも出来ると思うよ。マーガレット王女、頑張って下さい。

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