第68話 収穫祭の準備
10月になると収穫祭の練習がほぼ毎日行われるようになった。それはアルバート部長の独断で決定した。マーガレット王女も賛成していたけど、私は自由時間が無くなるのが嫌だし、他のメンバーも何人かは不満みたい。特にマーガレット王女の学友3人は文句をいつも言っている。まだ卒業されてはいないけど、メリッサ部長が懐かしいよ。
「ルーファス学生会長は何も分かっていない」
珍しく遅れて来たアルバート部長がぷんぷん怒っている。
「何があったの?」
マーガレット王女に、アルバートは収穫祭の時間割タイムスケジュールの憤懣をぶつける。
「あの下らないコーラスクラブと同時間しか音楽クラブに割り当てて無いのだ。その上、大声で叫ぶだけの演劇クラブには2時間も振り当てているのだぞ」
それはあまり不公平では無いのでは? 演劇部は劇だけでは無く、舞台を設置したり片付けもある。コーラスクラブと音楽クラブが同時間なのは、公平だからでは? なんて事言いませんよ。凄く皆んなが怒って騒いでいるから。
練習しないのなら、部屋で内職したいな。今はレース編みから思いついて、レースを解いて糸にして、ボレロとか編んでいる。これがかなり高く売れるんだよ。元手はタダだからね。
生活魔法ってジェファーソン先生の言う通り、極めたら何でも出来るのかもしれない。
寒い時に助けられた灰色の毛布。メアリーは子爵令嬢らしく無いので、本当は使って欲しく無さそうだった。だから、私の薄くてペラペラの絹の服と灰色の毛布を生活魔法で解いて、絹の糸と毛の糸を合成したんだ。薄い青色の絹と毛の糸になったのを、毛布に再合成したら、灰青色の混合繊維の毛布ができたの。手触りは絹ほどじゃないけど、前の毛布よりは柔らかい。メアリーはこれならと使用も許可してくれた。残った糸で弟達のベストを編んだよ。軽くて暖かい。
なんて事を考えている間もコーラスクラブ、演劇クラブ、そしてルーファス学生会長の悪口大会は続いている。音楽クラブのメンバーって音楽の才能はあるけど、ちょっと締める人が居ないと前に進まないよね。
収穫祭の演目は合奏がメインだ。私はまだリュートとか練習の最中なので、マーガレット王女と『2台のハノンの為のソナタ』を弾く予定。
「演劇クラブが舞台設置に時間がかかるなら、合奏の楽器設置も同じだ。なのにルーファス学生会長は理解していない。コーラスクラブなんか、ハノン1つで事足りるのに」
また最初に戻って不満を述べているアルバート部長に呆れる。今日の練習は無しかな? なんて考えていたら、キャサリンがややこしい事を言い出した。
「今の演目にはどうかと思う物があるわ」
私とマーガレット王女が連弾するのが気に入らないのだ。
「それより合奏をやめたらどうかしら? 色々な楽器を舞台に設置するのは時間が掛かるわ。ハノンとリュート、ハノンとフルー(笛)とかにすれば良いのよ」
ハリエットはハノン以外の楽器は上手くないので、自分に都合の良い提案をする。でも、案自体は悪くない。色々な楽器を設置する時間が省けるからね。
「合奏しない音楽クラブなんて、ハノン同好会にしたら良いのだ」
あっ、あの合奏曲はアルバート部長の作曲だったね。かなり気分を害しているみたい。お子ちゃまなんだから。
「なら、全員が合奏にしたら良いのよ」
キャサリンは分かりやすいね。私がマーガレット王女と連弾するのが気に入らないから、阻止したいのだ。
「でも、ペイシェンスはリュートがまだ練習中ですよ」
マーガレット王女は『2台のハノンの為のソナタ』が気に入っているからね。
「合奏をするにはそれしか無いかもな。ペイシェンス、今から打楽器の特訓だ」
絶対に合奏曲を諦めたく無いアルバート部長の無茶振りがきた。
「ええっ、打楽器はルパート様がされるのでは?」
男子学生のルパートが打楽器の担当だった筈なのに、私に代わるの? それに出来るの?
「あっ、私は3個担当だから1番簡単な打楽器を譲るよ。ほら、この鐘なら大丈夫」
前世のトライアングルみないなのを持たされた。
「それならタイミングさえ間違えなければ大丈夫だな」
アルバート部長は簡単に言うけど、タイミングを間違えたら大失敗になるのでは?
マーガレット王女にはアルバート部長がハノンを弾きながら指揮をする予定だったが、ハノンを譲った。
「私もペイシェンスみたいに楽な楽器にしたいわ」
ハリエットが愚図っていたが、キャサリンとリリーナはマーガレット王女との連弾が無くなったので相手にしない。
トライアングルを持って鳴らしてみる。そこにアルバート部長がやってきて、持ち方から指導された。
「ペイシェンスはトライアングルは素人だな。タイミングを外すといけないから、もっと上にあげて、その間から私の指揮を見ながら演奏しなさい」
トライアングル越しにアルバート部長の顔を見るのか……なんて考えていたけど、結構重いな。初め持った時は重く感じなかったけど、高く挙げていると手がぶるぶるしちゃう。体力無さすぎ。
叩き方は打楽器パートのルパートに教えて貰う。
「叩く位置は自分で決めないといけない。私は下の真ん中辺りを叩くけど、アルバート部長は好みがうるさいからね。もっと低音を響かせろとか言われたら、移動させた方が良いかもしれないな」
トライアングル、馬鹿にしててごめんなさい。確かに叩く位置で音の響き方が変わる。何だか駄目だしされるのでは? 悪い予感は当たるんだよ。
「ペイシェンス、もっと高い音で」と言われたから、高い音が出る所を叩くと「そこは低音で」とか言われるんだ。
まぁ、私だけじゃ無いのが救いだよ。キャサリンとリリーナは少し注意されるだけだけど、ハリエットはかなり目をつけられているよ。それにこの曲、癖がありすぎ。転調が多いから弾き難いし、合わせ難い。全員が内心で文句言っていると思う。
まぁ、トライアングルに転調は関係無いけどさ。でも、トライアングルの間からアルバート部長の顔を見るのは微妙だなぁ。
私の好みからすると、少し少年っぽさが感じられないんだよね。私は生意気なキース王子や大人ぶっているラルフ、猪突猛進タイプのヒューゴの方が好みかな。顔だけを鑑賞するのならの話だよ。勿論、私の理想は家の弟達エンジェルだよ。
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