第58話 夏の離宮 海水浴

 夏の離宮に来て3日目、やっと夏休みらしくなりそうだ。朝食の後、サロンにジェーン王女とマーカス王子が子守に連れて来られた。挨拶とキス、それも昨日と同じだったが、そこからが違った。

「今日の午前中はリチャードもマーガレットもキースも、ジェーンやマーカスと海で遊んであげなさい」

 リチャード王子は、塩作りの続きをしたそうだが、喜んでいる幼い妹と弟に負けた。

「ペイシェンス、泳ぎ方を教えてやるぞ」

 キース王子が張り切っている。そんな熱血指導は遠慮したいな。泳げるのではと信じたいけど、バタ足からかも? それに服を着たまま泳ぐの難しいよね。水泳の時間に一回だけ災難訓練で水着の上から体操服を着て、プールに落ちた事がある。マジ、溺れるかと思ったよ。その時は、バッグとかを浮き輪にし、どうにか浮かんでバタ足でプールぎわまで泳いだ。

『あっ、でも海水は浮きやすいかもね』

 メアリーに古い服を着せて貰う。ドロワーズもいつもの下着ではなく、服と同じくらいの厚みがある生地だ。

「さぁ、海水浴よ! 楽しみだわ」

 浮き浮きと浜辺へ向かう。そこには大きなパラソル何本も刺してあり、日影にはデッキチェアーが置いてある。それにテントにはメイド達が控えていた。飲み物とかサービスしてくれるんだ。なんか至れり尽くせりの海水浴だね。

「おっ、ペイシェンス来たな。海に入る前に体操をするぞ」

 張り切っているのはキース王子とジェーン王女とマーカス王子だけだ。子守達は大変そうだね。

「私は日影で休んでいるわ。暑くなったら、海に入るかもしれないわ。ペイシェンスは泳ぎなさい」

 マーガレット王女は本を持参だ。やる気無いな。

 キース王子じゃないけど、泳ぐ前の体操は大事だよ。足が攣ったら溺れちゃうもんね。手足ブラブラさせて、アキレス腱を伸ばしたりする。

「お前、何をふざけているのだ」

 あれっ、異世界ではアキレス腱を伸ばさないの?

「まぁ、良い。お前はマーカスと浅い所で水に慣れておけ」

 ジェーン王女はなかなか活発そうだ。ミニマーガレット王女かと思ったが、違うタイプだ。中身はキース王子?

 私は可愛いマーカス王子と水遊びするよ。家のヘンリーと同級生になるんだね。仲良くして欲しいけど、あれっ、大人しいね。

「マーカス王子、少しずつ水に慣れましょうね」

 子守に水をかけられて、マーカス王子はキャキャと笑う。可愛い。

 私も参加しよう。水をかけたり、かけられたり。楽しいよ。

 子守は砂遊びの道具も持っていた。

「マーカス王子、砂でお城を作りましょう」

 小さな木製のスコップなら手を傷つける事もないよね。それと小さなバケツ。

 私が手で砂を掘っていたら、子守がジェーン王女のスコップを貸してくれた。

「ジェーン王女様は砂遊びはあまりお好きではありませんから」

 そうだろうね。キース王子と一緒に泳いでる。私はマーカス王子と砂遊びが楽しいよ。ショタコンの本領発揮だ。

 バケツに海水を汲んで、砂を濡らして砂山を固める。あっ、ちょっと無意識に生活魔法を使っちゃった。

「凄い、お城だぁ!」

 やり過ぎたね。私1人で作っちゃった。

「マーカス王子、城にお堀を作りましょう」

 城の周りを一緒に掘って、生活魔法で少し固める。バケツに海水を汲んで来て、マーカス王子と堀に注ぐ。

「リチャード兄上、見て! お堀だよ」

 遅れて海岸に来たリチャード王子に自慢する。無邪気で可愛いな。

「これは見事だな」

 褒められて嬉しそうだね。うん、見ているだけでハッピーだよ。

 でも、幸せな時間は終わったよ。キース王子がリチャード王子を見つけて駆けて来た。ワンコみたいだね。あれっ、ジェーン王女は? 放って来たんだ。駄目じゃん。

「キース、ジェーンをおいてくるんじゃない」

 ほら、叱られた。でも、ジェーン王女は自分で砂浜に上がって、もっと泳ぎたいと女官を困らせている。

「リチャードお兄様、一緒に泳いで!」

 女官に1人で泳いでは駄目だと言われ、リチャード王子に強請っている。うん? 大人しいナシウスと同級生なんだね。まぁ、男女だし、大丈夫でしょ。でもナシウスには学年飛び級を勧めておこう。

「ほら、ペイシェンス、泳ぎ方を教えるぞ」

 顔を水につける所から始まった。うん、浮かんでいるね。

「意外と上手だな」

 失礼なキース王子だが、教えるのは上手い。

「浮かべたなら、バタ足だ。ほら、この板を持って脚をバタバタさせるんだ」

 ビート板は無いけど、コルクっぽい浮く板を持ってバタ脚の練習をする。あっ、なんか泳げそう。

「お前、板を放したら駄目だろう。えっ、泳げるようになったのか? 嘘だろ?」

 体力が無いから長くは泳げなかった。でも、ちゃんと泳げるよ。

「少し休憩しますわ」

 本当にペイシェンスの体力は無さすぎるよ。マーガレット王女の横のデッキチェアーに座る。

「ペイシェンスにジュースを」

 メイドにジュースを出して貰って飲む。

「少しだけ泳ごうかしら、ペイシェンスも泳ぎましょう」

 少し暑くなったようだね。私ももう少し泳ごう。体力強化だよ。

 その後は、昼食に着替えないといけないからと、愚図るジェーン王女を引きずる様にマーガレット王女は離宮に帰った。勿論、私もね。やはり、海水浴は疲れるね。

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