第10話 泣いちゃうよ

 それから弟達の服も修復したし、父親のも勿論したよ。それと、使っている部屋のカーテンもね。カーテンがペラペラに擦り切れていると寒いんだよ。

 あと、ペラペラといえば薄い掛け布団も修復したら、少しだけ膨らんだよ。チェッ、元々、薄いんだ。ペイシェンスの知識をググると、この上に豪華なベッドカバーとか掛けるみたい。そんなの見当たらない。

「見当たらなければ、作れば良いのよ」

 もはや共犯者のメアリーを捕まえて、お嬢様のおいでになる所じゃないと騒ぐのを騙し騙し、屋根裏部屋に連れて行ってもらう。

「埃が凄いわね」と事実を言っただけなのに、メアリーったら、申し訳なさそうにする。申し訳ないのはこちらだよ。内職させてるご主人なんて家だけだ。きっとね。

「綺麗になれ!」あらあら不思議。塵と埃にまみれた屋根裏が、パリのアトリエに見えてきた。と言うのは大袈裟だけど、これで探し物に集中できる。埃まみれになっても生活魔法で一瞬で綺麗になれるけど、くしゃみが止まらないからね。

「これはかなり綺麗なカーテンだわ」

 羽振りの良かった頃の古くなったカーテンとか、擦り切れた絨毯、流行遅れになった古い服。私にとっては宝の山だ。

「よく取って置いたわね」

 売り払えば、少しでもお金になっただろうに……。そこのところは、忘れていたのか、こんな古い物は売っても仕方ないと思っていたのかわからない。父親には生活能力が無さすぎるよ。

 そんなの愚痴ってても仕方ない。先ずはカーテンを修復する。

「ねぇ、これでベッドカバーができるわよね」

 メアリーと一緒に、私、弟達、父親のベッドカバーを縫う。縫うのも生活魔法で早い。これ本当に便利だわ。

「メアリー、私は王宮の女官になる方が良いのかしら?」

 生活魔法でベッドカバーを縫いながら、メアリーに質問する。ペイシェンスの記憶では『王宮の女官になりたい』と言っていたが、私的には女の世界は怖いので避けたい気分だ。

「王宮の女官になるのはたいへんですよ。先ずは、学園の成績が良くないといけませんし、家柄も問われます。勿論、グレンジャー子爵家の家柄は問題ありません」

 メアリーは自信満々にグレンジャー子爵家は問題ないと言い切るが、この激貧ぶりを見る限り、問題大有りだ。父親がクビになった理由も知りたいところだ。

 メアリーが縫いながら話しているのを聞いているうちに、どうやら女官とメイドは違うと分かった。女官とは王妃様や王女様のお付きの人、秘書、相談役を兼ねているみたい。でも、同じような仕事もあるようだ。衣装を管理したり、アクセサリーを選ぶのを手伝ったり、髪を結ったりする女官もいるみたい。メアリーも王宮の女官については詳しくないそうだ。私の百倍は詳しいけどね。

 学園へ行く前に、弟達の為にするべき事。それは食事の改善だ。部屋の修復は使っている部屋は終えた。後は、夏休みにでもぼちぼちやっていこう。

「エバ……痩せているんだよね」

 料理人って太っているイメージなのに、エバは痩せている。それに、台所にほとんどいない。まぁ、そんなに手の込んだ料理は出てこないけど、何処に居るのかな?

 こんな時は共犯者のメアリーに聞くに限る。だって執事のワイヤットはガードが堅そうだし、下男のジョージは本当に忙しそうなんだよ。暖炉の火を起こしたと思ったら、消して、また起こして。それだけじゃなく、メアリーの集めたオマルを洗ったりもしてるし、庭の掃除もやっている。聞く暇無さそう。

 メアリーも忙しいのは一緒だけど、夕食前には着替えさせに来るんだもん。髪を結って貰っている間は、捕まえられるよ。

「ねぇ、エバっていつも何処にいるの?」

 メアリーがぎょっとして、ブラシを落とした。

「エバは台所にいると思いますよ。夕食の準備をしなくてはいけませんもの」

 動揺してる! ってことは、何かしているんだ。メアリーは内職していた。でも、それは女中部屋でだ。エバは台所にいない時間が多い。じゃあ、何処かに出かけているんだ。

「何処かで働いているの?」

 純真さを装ってカマを掛ける。

「いえ、まさか……」動揺しまくりだよ。もう少し、突っ込んでみよう。

「もしかして、食卓にのぼるハムはエバが働いて貰って来ているの?」

 確か、ハムは高級な筈だ。現代では普通に食べているが、庶民の口に入らない時代もあったと本で読んだことがある。

「子爵様にはご内緒にして下さい」

 エバは、市場で朝早くから働き、そこで賃金代わりにハムを得ていると聞いて、申し訳無さにくらくらした。だから、朝食はいつも作り置きのスープと固いパンだけなのだ。昼前に帰って来て、大事なハムを薄く薄く切るエバを思うと涙が出ちゃう。

『何とかしなきゃ』

 私は使用人のお陰で生きている。でも、それは間違いだ。

「お金を儲けたい。でも、内職だけでは……それに学園に行ったら土日しか内職出来ないし、帰るにもお金がかかるのよ」

 土曜の朝にメアリーに学園まで迎えに来て貰って歩いて帰るつもりだった。メアリーに往復歩かせるのは疲れるだろうから、行きだけでも辻馬車に乗せる必要がある。帰りは乗らないのか? 貴族の令嬢は辻馬車になんか乗らないのだ。でも、侍女を従えての散歩はありだ。それが長くても良いみたい。ダイエットとか必要な令嬢は、公園を散歩したりするのが流行しているとかメアリーに聞いた時は、殺意を覚えたね。きっと、甘いケーキとか食べているにちがいない!

 日曜の昼から学園に歩いて行き、メアリーを辻馬車で屋敷に帰らせる。つまり、往復の辻馬車代が必要なのだ。それは、内職で賄える計画だった。でも、エバをこのままにしておけないし、食事の改善も必要だ。

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