4_スマホの中身で見られたくないもの

「高野倉くん、私・・・浮き輪してないよ?」


また小路谷さんが、突然変なことを言い始めた。

2人とも部屋でまったりしているのに、なぜ突然、浮き輪の話をするのか。


「ああ、浮き輪じゃないや、浮気」


「浮気!?」


物騒な単語が飛び出した。

なぜ突然、『浮気してない』とか言い始めるのか。

浮気しているやつしか『浮気していない』とか言わないものだ。


食べたやつだけ、『食べてない』と言い、キレたやつだけ『キレてない』というに違いない。

あなたのために作ったやつだけが、『あなたのために作ったんじゃないんだからねっ』と言う。


世の中とはそんなものだ。

そうに違いない。


なんだか雲行きが怪しい話になりそうだ。






■ある日の夜―――

小路谷美穂(こうじやみほ)さんとは、高校からの同級生だ。

彼女は、いつも変なことを言うので、俺もそれなりに『翻訳能力』と『予測変換機能』がついてきた。


『浮き輪』のことを『浮気』ということはあっても、逆の場合は、本当に浮気のことを言っているのだろう。


俺と彼女は割といい関係を続けていて、半同棲のような生活になりつつあったが、俺のプロポーズには応じてくれない状態が続いている。



もっぱら、小路谷さんの部屋(いえ)に俺がきて、入り浸っている感じ。


この日も二人、いつもの様にリビングでテレビを見ていた。

俺もテレビは見ていたが、あまり面白い番組がなく、早くネット動画が大画面で見れるようにしたいと思っていた。

次のプライムデーでfire stickをもう1個買うか。


ちょうど、俺があくびをした後くらいだろうか。

小路谷さんが『浮気をしていない』宣言してきたのだ。

それも、何の脈絡もなく、突然に。






「小路谷さん、それはアウトと言うことでいいのかな?」


やはり、ボッチの俺では彼女の相手として不足だったという事か・・・

あまり気付かなかったが、日々不満を積み重ねて行って、ついにそれが今の瞬間爆発したのか。



「高野倉くん、今、変なことを考えているよね?」


「ん?」


「そういう顔をしている」



『そういう顔』とは、どういう顔だろうか。


小路谷さんが、こたつの上に両肘まで載せて、さっきまで飲んでいたコーヒーのカップを弄び始めた。



「あのね・・・見たんでしょ?」


「なにを?」


「この間・・・見たんでしょ?だからでしょ?」



『この間』、『見た』と言うキーワードから連想するのは、夜中に目が覚めた時に小路谷さんのスマホのロックを解除して画像フォルダを覗いたことくらいだろうか。


見始めた直後に小路谷さんに見つかって、スマホを取り上げられてしまった。

しかも、数日間、口を利いてくれなかった。

これに関しては、俺が完全に悪い。


問題は、あの画像のことを言っているのだろうか・・・



「まあ、ちょっと見たけど・・・」


「引いた?引いちゃったよね?」



そりゃあ、俺の寝顔がたくさん映っていたので、多少驚きはしたが、まあ『好き』って気持ちは伝わってきたので、そんなに悪い気はしなかった。



「その・・・ね、秘密にする気はなかったんだけど、誤解されるのが怖かったっていうか・・・」



誤解?

寝顔の写真に誤解も曲解もないだろうに。



「ブロックすると、4人で会った時にもしかして、電話が鳴らないとおかしいこともあるかと思って・・・」


「ちょっと待って」


「いや、ちょっと!説明させて!」


小路谷さんが、慌てて、食い気味に重ねてきた。


「いや、そうじゃなくて・・・」


「お願い!言い訳させてほしいの!」



『いい訳』って言い始めたし。

なんかヤバい空気が立ち込めてきた。


小路谷さんは左右の人差し指で、もじもじしながら続けた。



「嫌われるのはしょうがないけど、誤解は嫌なの・・・」



なんかいつもの下ネタも出ないし、ガチの言い訳きたー!



「ちょっと待て、話が見えてない」



俺は両手でストップのジェスチャーをして言った。



「高野倉くん、私のスマホの中、見たんでしょ?」


「見たよ?ちょっとだけど。まあ、ちょっと恥ずかしかったけど、どうせなら、起きているときに撮ってくれれば・・・」


「ん?」


「んん?」



お互いの意思の疎通が図れていないことが明らかになった瞬間だった。






■小路谷さんが秘密にしたかったこと―――


「小路谷さん、俺がなにを見たと思っているの?この際ぶっちゃけよう」


「うーん・・・そしたら、高野倉くんも・・・いや、いい。分かった」



なんか歯切れは悪いな。

小路谷さんがスマホを少し操作して、しおしおと、こたつのテーブルの上に置いた。



(コトリ・・・)「これです・・・」



スマホの画面に表示されていたのは、俺が見た『画像フォルダ』ではなく、電話の『着信履歴』だった。


そこには、ぎっしりと『仲原くん』と名前が並んでいた。

『えー!?』と思ったけれど、よく見ると、こちらからの『発信』ではなく『着信』。



「これは?」


「例の仲原くんの失踪前まで、すごく電話があって、相談とかって・・・」


「・・・」



始めて聞く話だった。

失踪前までと言うことは、結婚後も仲原は小路谷さんにちょくちょく電話していたということか。



「会って話がしたいとか言われるようになったんで、これはいかんなと・・・」



小路谷さんは下を向いてしまった。

その後、ちらりと顔を上げて『やっぱり私モテモテだった。てへっ』と可愛く言った。



「ぶっ」



その言い方に、つい吹きだしてしまった。



「でも、違うの!電話はずっとあったけど、高野倉くんと付き合い始めてからは1回も電話に出てないの!」


「はあ・・・」


「ブロックしたら、電話もLINEも来なくなるけど、そしたら4人で会うときに、仲原くんが私に連絡することがあったとき、電話が鳴らなくておかしなことになるでしょ?」


「確かに・・・」


「それで、ブロックもできなくて、着信歴がすごくて・・・誤解されたくなかったから見せたくなかったの」


「俺が、たまたまロック解除できたから・・・」


「そう、ヤバいって思って・・・」



だから、あんなに必死だったのか・・・



俺の横に来て、俺の袖を大げさに振りながら言った。



「黙っててごめんなさいーー。捨てないでぇーー(棒読み)」



小路谷さんの態度から、白だと分かった。

彼女は姑息な嘘とかつかないタイプ。


むしろ、言わなくていい下ネタを言って誤解を受けるタイプだろう。






■仲原の良いところ―――

仲原の件。

うーん、これは良くないな。

小路谷さんは結婚してないけれど、あいつは結婚しているし、完全に黒だな。

倍賞さん(妻の仲原さん)に知らせてやろうか・・・



「高野倉くん、なんか、邪悪な顔をしていんだけど・・・」


「いや、分かった。着信履歴を消さないでくれたから、逆に分かりやすかった。悪いのは仲原だ」



そう言えば、あいつが失踪から戻ってきたとき、小路谷さんの家の下にいたのは、今思えばおかしい。

俺の家とは方向が違うので、最初から俺に用事があれば、うちに来るはずだ。


そこで、俺の不在を知ったとしたら、その場で連絡するだろう。

携帯は持ってなかったとしても、うちの近くの公衆電話から電話したはずだ。


ところが、あいつはここ(小路谷さんの家)の近くの公衆電話から俺にかけてきた。



改めて、小路谷さんのスマホの着歴の日付を見ると・・・あるよ。

詳細を押すと・・・時間もビンゴ。


あいつ、俺の前に小路谷さんに電話してる。

『公衆』だから名前は出てないけど、時間的に多分そうだろう。



「ごめん。俺の友達が・・・」


「んーん、いいの。私が魅力的すぎるからいけないの」


「ま、まあ、そうなんだけどね・・・」



俺は小路谷さんの方を見て、言った。



「相談してくれればよかったのに」


「でも、高野倉くんは、仲原くんのことをいい人と思ってるでしょう?」


「たしかに、あいつはあいつで、いいとこもあるからね」


「例えば、どんなとこ?」


「大学時代、あいつバイトして400CCのバイクを買ったんだよ」


「うん」


「買って一ヶ月もしないうちにカーブでコケて一ヶ月も入院したんだよ」


「うん」


「だから、クラスでカンパして何万円か包んで御見舞で持っていった」


「ちょっと待って。それ誰が持っていったの?」


「ん?俺だけど?」

 

「それ、普通に高倉くんのいいとこの話だよ」


「え!?あ、間違えた。ちょっと待って!」


「いいけど・・・」



小路谷さんは、すごく懐疑的な目をしている。

いや、ホントにいいエピソードはあるんだって。



「それから半年くらいして、遠出したときにまたバイクでコケたんだよ」


「よくコケるねぇ」


「うん、今度は本格的にコケてバイクは1発廃車だったらしい」


「どんだけ飛ばしてるのよ!」


「この時は、コケ方が上手くなってて、早めにハンドルを離したから擦り傷で済んだらしい」


バイクはコケる時ハンドルを握ったままだと、余計に危ないらしい。

コケ方が上手になると、コケた瞬間に手を放すので、人間の傷は比較的少なくて済むらしい。

俺は免許持ってないから知らんけど。


「ふーん」


「それで、自暴自棄になって宮崎の実家に帰っちゃって、大学に来なくなった」


「あら」


「だから、友達4人で車に乗って宮崎まで迎えに行ったんだよ」


「え?家は知ってたの?」


「いや、知らないから、宮崎に着いてから電話した」


「普通に出たんだ」


「普通に出た」


「それで?」


「まあ、行った4人とあいつの5人で話して、結果あいつ戻って来た」


「ちょっと待って、それも普通に高野倉のいい話だよ!?」


「なん・・・だと!?」


「ちょっと待って!とっておきのが出るから!」






・・・でなかった。


「もう、あいつはいいや。一旦こっちに置いておこう」


ちょっと恥ずかしかったので、見えない箱を横に動かすジェスチャーをしてみせた。






■告白の理由―――

今は小路谷さんだ。

ちょっと、おかしい。

なぜ、急に自分から告白したのか。


俺がスマホのロックが解除できると分かったのはもう、少し前の話だ。



「なんで今?」


「え?」


「なんで、それをこのタイミングで告白したの?」


「高野倉くんが・・・怒ってると思って・・・」



俺は怒っていただろうか?

全く心当たりがない。

そもそもこの話を今、知ったのだから。


大きな声を出してこともないし、厭味を言ったり、悪口を言ったりしたこともない。

そもそも、そんなことしないけど。



「高野倉くん、最近よくごろごろしてて、あんまり遊んでくれないし・・・怒ってるのかなって・・・」



そういう事か・・・



「スマホのことじゃなかったら、なに?私なにか悪いことした?」


「ごめん、そういう風に見えたのなら、ごめん・・・これは・・・」






「1月病なんだ」


「新しい病気発見!」






「年末年始、ゴロゴロしてたし、年が明けて、小路谷さんが会社に行き始めても、なんか気合が入らなくて・・・」


会社って言っても、自分だけだし。

事務所もないし、小路谷さんの部屋(いえ)で仕事したり、自分の部屋(いえ)で仕事したり・・・気持ちの切り替えができないでいた。


「じゃあ、私の部屋(うち)に来る頻度が少なくなったのは?」


「そりゃあ、働かないで彼女の家でダラダラしてたら人として終わりかな、と」


社会的には完全に『ヒモ』だもの。


「そうなんだ・・・」


俺のどうしようもない最悪話だったのに、小路谷さんは少し嬉しそうだった。






■お互いの秘密を話そう―――


「小路谷さん、俺は小路谷さんと結婚も考えてる。だから、こういう気遣いからの秘密はやめよう!誤解を防ごう」


誤解したり、誤解されたりして、ケンカしたりするのはやっぱり嫌だ。

十分なコミュニケーションでこれは回避できる。

最近ブックオフで、100円で売っていたビジネス本で読んだから間違いない。



「俺も、最近言えなかったことを言う!お互いの秘密を話し合おう!」


「いいけど・・・高野倉くんが失望するかもしれないけど・・・」


「いや、いいんだ。一緒に乗り越えていこう!」



小路谷さんは、ちょっと俯き加減に恥ずかしそうに話し始めた。



「じゃあ、いうけど・・・えっちの時だけど・・・」


「ん?」


「毎回、ちょっとずつ私の新しい性感帯を探さないでほしいの!私、高野倉くんに開発されまくって、仕舞には裏がえっちゃうよ!?」


「そ、そんな事してないよぉ」


自然と天井とか見てしまってる。

そう言えば、どこが良いのか、これまで触ったことがないところとか、挑戦していた気がする。


でも、分かった。

身体の相性が合わない人と結婚したら、一生マズイ定食屋でご飯を食べなければならないような人生だ。

これを機に、前向きに話し合って改善して行こう。


そして、乗り越えればいいだけだ。



「他はないの?」


「あと、バックの時、アナルを見られるのがすごく恥ずかしいの!」



またエッチの時の話だった。

しかも、かなり赤裸々なのが出たなぁ。



「可愛いんだから、その顔で、アナルとか言わないで・・・」


「じゃあ、なんていうの?」


「お尻の穴・・・とか?」


「変わらないし!長い!そこにどんな違いがあるの!?」



それは、俺も知らんけど



「高野倉くん、女の子に夢を見過ぎ!」



酷い言われようだ。

ついこの間まで童貞だったので、夢くらい見せてほしい。

あとは、色々試したくなるお年頃なのに・・・



「高野倉くんはバックが好きなの!?」


「特別好きってことは無いけど、小路谷さんが可愛くて・・・」


「どういうこと?」


「最初は四つん這いじゃない?段々力が入らなくなって、肘で堪えて、最終的にベッドの上に崩れちゃう感じがなんとも可愛くて・・・」


「そんなとこに可愛さを見つけないでー!!」



怒られてしまった。

褒めたのに。



「あと、いい感じになった時に、最近アナルに指を入れてくるでしょ!?あれもやめて!」


「・・・嫌だった?」


「嫌・・・じゃないから、嫌なのっ!」



乙女心は複雑だ。

嫌じゃないのに、嫌なんだ・・・

でも、怒っているみたいだから、今後は控えようかな。



「あと、アナルに話しかけてるでしょ!?」


「ああ、その崩れた後は、お尻の穴がこっち向いてるから、可愛いなって思って見てるからかな。最中に話してる時には、顔が見えないから自然とお尻の穴に目が行って・・・」


「そっちが私の本体じゃないからね!?」


本体とは!?



「他には、もうないの?」


「もう無いわ」


「お尻の穴以外では?」


「ないわ!」


「ないんだ・・・」


『全部言ってやったわ!』とでも言いたげな感じで、満足気な小路谷さん。

色々複雑な気分だ。



「ホントは特に不満がないの!高野倉くんがめちゃくちゃ好きなの!」



直球の威力はすごかった。

お互い下を向いてしばし。

俺の顔は絶対真っ赤だし、目の前で顔を伏せている小路谷さんに至っては耳まで真っ赤だ。


『言っちゃった』って顔をしている。






■高野倉の秘密―――


「なんか俺達で解決できないとしたら、友達とかに相談しにくい内容だったね」


「は!?相談!?」



小路谷さんがキレ気味に聞き返した。



「彼女のアナルに指を入れたら、やめてくれと言われたとか言うの!?」


「相談したとしたら、そうなるのかな?」


「やめて!その人とはもう会えなくなる!」


「いや、誰にも相談してないから。例えばの話だよ、例えば」


「『見ろよ、あいつが今アナルを開発され中の女だぜ』と、後ろ指を指され、私は『アナル開発中女』と言う十字架を背負って生きていくことになるのよ・・・」



やな十字架だな。

俺も恥ずかしから、そんな相談誰にもしないし、そもそもそんな相談をできる友達がいない。



「次!高野倉くんの秘密は!?」


「そうだね。『1月病』のことは言ったよね」


「ちょっと待って!なんでもいいけど、その『1月病』とやらは、検索エンジンでも出てこないんだけど・・・」



それは良いとして・・・



「仕事のことなんだけど・・・実は・・・」


ちょっと切り出しにくいので、歯切れが悪くなってしまった。


「上手く行かなくなった?」


「いや、そうじゃなくて・・・」


「お金は大丈夫なの?」


小路谷さんがすごく心配してくれている。

なんなら、すぐに鞄から財布を出しそうな勢いだ。


「お金は大丈夫」


「しばらく私が働くから心配しなさんなって」


バンと背中を叩かれる。


男前だなぁ、小路谷さん。

色々な意味で好きだなぁ。



「いや、そうでなくて。実は・・・仕事量が1.5倍になって、収入が3倍になった」


「は!?」



小路谷さんが変な顔で訊き返した。






「この間、俺が嫌がってたプレゼン覚えてない?」


「ああ、あったね」



たくさんの人の前で話さないといけないので、本当に嫌だった。

心の底から嫌だった。

プレゼン資料を作るのは楽しい。

でも、プレゼンは嫌なんだ。



「あれがうまく行って・・・」


「うん」


「次のコラボが決まっちゃって・・・」


「じゃあ、早くやらないと!」


「それが・・・仕事を始めても、1.5倍あると思ったら・・・1月病で・・・」


『はーーーーっ』と、小路谷さんの心の底からの深いため息が出た。






「よく今の世の中それでやっていけるわね!」


「コラボの問合せとか来てるけど、それも回答できてなくて・・・」



問い合わせフォームに来ている100件以上のメールを見せる。



「うわー!」



小路谷さんが、俺のノートパソコンを奪い取って、メールを見た。



「なにこれ!?早くメール返しなさい!今の世の中で、何やってるの!?」


「それこそが1月病で・・・」


「世の社長さんに謝りなさい!こんなに仕事が着ているのに!?」



なんか、めちゃくちゃ怒られた。

少しやる気が出た。

・・・と言うか、やらないとダメだと思い始めた。



「高野倉くんはチートレベルで有能と思ってたけど、ダメなとこもあるのね」


「むしろ、ダメなとこだらけだよ。ボッチだし・・・小路谷さんのアイデアで始めた会社だったけど、順調すぎて・・・」


「私、あげまんだった!」



また、なんか下ネタっぽいワード来た!



「あ、通帳見る?てか、印鑑込みで渡しとく」



会社の通帳を渡した。

恐る恐る開く小路谷さん。



「ぎゃー!なにこれ!?」


「なにこれ!?毎月どんどん増えてる・・・」


「俺あんま使う用事ないし・・・」


「1、10、100、千、万・・・って、私の給料の3倍!?・・・いや、違う30倍!?はあ!?」


「そんくらいあるかも。ソフトは協力会社さん見つけたけど、色々忙しくなってて・・・」


「こんなの私に渡したらダメでしょ!?私、魔性の女だから全部貢がせるわよ!」


「小路谷さんに騙されるなら、もう、それでいいや」


「またっ!絶対騙されて全財産なくすタイプよ!」


「そうかも。それで、管理の方をお願いできないか・・・と」


「こんな大金どう管理すんの!?」


「持っててくれたらそれでいいかな」


「こんな危険物、社外の人が持っていたらダメでしょ!?」


「そう!それでさぁ、小路谷さん、うちの会社に雇われない?見ていてほしいんだ。俺を」


「どういうこと?」


「俺、ひとりだとサボるから、ちゃんと働いているか見ていてほしいんだ」


「それなんて仕事?」


もちろん、それだけじゃない。


「あと、プレゼンで説明する人とかやってくれたら嬉しい。俺苦手で・・・」


「私、内容分からないわよ?吹奏楽部だし」




吹奏楽部嘘だろ。



「プレゼン資料自体は俺が作る。吹奏楽部にも分かるように内容は説明する。要するに、お客さんに好かれて、楽しく話すのが仕事」



「私の得意分野・・・」


「あと、俺の監視」


「特に問題ない・・・」


「問い合わせの対応も」


「すでに今の会社でやってる・・・」



小路谷さんは、わなわなする両手を見ながら聞いた。



「私が今の会社辞めて、高野倉くんの会社に行ったら、いよいよ退路が塞がれない!?」


「うん、まあ、その点は、逃すつもりはないんだけど・・・」



今夜も夜は長くなりそうだ。

小路谷さんの希望でもあるから、できるだけ、お尻の穴は見ない方向で。


ただ、正常位で最後足をクロスさせて、キューって締め付けてくるところが可愛いと思っているんだけど・・・これは、言わない方がいいよね?






■ふたりらしく―――


「ところで、仲原くんはどうする?」


「あ、とりあえず、小路谷さんは仲原をブロックしておいて。あと、俺からも釘さしとく」



そう言えばと思い出した。



「あと、倍賞さんも・・・色々注意が必要だよね?」


「まあ、あそこはあそこで結婚しているから、積極的に会おうとしないと会わないよね」



小路谷さんが、割と楽観的に答えた。



「じゃあ、俺たちは俺たちで、無理せず俺たちらしくいこう」


「ウーピーパイね」


「そ、ウーピーパイ、ウーピーパイ」

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