11. over ture 後編

 魔王の復活ライブが開催される中、リアと名乗るジャーナリストの手伝いをすることになったわけだが。


「今回のMAOGUNの再結成は、何か理由があるんじゃないかと思うのよ。熱狂的なファンを多く抱える裏で、多額のマニーが動いてるみたいなの。中央の政治と繋がっている...なんて黒い噂まであるぐらい」


「中央の政治って、総理大臣なんかが関わってるってことか?」


「あくまで噂の段階だけれど。ただ、MAOが次期総理大臣って線まであると、私は考えているわ」


 魔王が総理大臣って、世界征服されたようなものじゃないか。

 あの人気ぶりなら、本当にありそうで怖い。


「私はね、今は芸能部門にいるけれど、本当は政治部門で仕事がしたかったのよ。国の政治を正しく見極めるのがジャーナリストの本懐だもの......と言っても、MAOなんて大物を追えるチャンスは滅多に無いのだけれどね」


 恨み節かと思ったら笑みがこぼれている。

 リアとしても、魔王を相手に仕事をするのは、燃えるものがあるようだ。


「さぁ!MAOを取材して丸裸にしてやるわ!」


「どうやってMAOに接近するんだ?何かコネでもあるのか?」


「それなのよね、ファンが多すぎてステージには近づくこともできないし......何か手は無いかしら?」


「そうだな、あのステージは魔界城から出てきたよな?じゃあ、こういうのはどうだ」


【ステージの裏側に移動した】


 城から出てきたなら城に収納されるはずだ。

 こっそりステージに忍び込んでライブが終わるまで待てば、魔界城に潜入できる。


「確かに良い考えなのだけれど、裏側にも警備がいるわね」


 いかにして警備に気付かれずに潜入できるか。

 そんなゲームもあったような気がする。


「おい!そこで何をしている!?」


 いきなり見つかった...現実はいつもハードモードだ。


「何って、恋人同士がここで毎日イチャイチャする習慣をこなしている所に、あなた達が来たのだけれど?デリカシーというものは無いのかしら?」


 リアが腰に手を回して密着してくる。

 言動といい距離感といい、妙にドキドキさせてくる。


「そ、そうか...随分、堂々とするんだな。見なかったことにしておこう」


 イケナイものを見たかのように、警備は目を反らして離れていった。

 チャンスだ、今なら潜り込める。

 そのままステージ裏の物陰に隠れ、ライブが終わるのを待った。


「上手くいったけど、大胆なことするよな」


「あなたに比べれば可愛いものでしょう?魔族の巣窟とも言える魔界城に、たった二人で乗り込むなんて、余程の度胸が無いと出来ないわ」


 あ、何も考えてなかった。


≪じゃあな愚民共ォ!次のライブまで、せいぜい退屈な人生を生きテロォ!!≫


 帰りたい、と思ったところでライブが終了してしまった。


【魔界城へ転送された】


「侵入者じゃー!出合え出合えぃ!ニンゲンがおるぞー!」


 最悪の選択肢を引いた。

 あっという間にバレて、魔族の軍勢に取り囲まれてしまった。


「わりゃ、ここが魔界城じゃと知って来とんか?あんまナメとったらシゴウしたるぞコラ!やいのやいのオドリャースドリャー!!」


 言ってることが全然わからない。

 別次元の言語が飛び交っているのか。

 多分怒っているんだろうけど。


「俺はジャーナリストのタスクだ!ここに来る前に遺書を書いてきた。俺達が戻らず、遺書が見つかれば、次からライブどころじゃなくなるぞ!」


 これ全部ウソ、リアは目をパチクリさせてるし、魔族も強気な俺に一歩下がってしまう。


「騒がしいな、何をしている?」


「ヴァッサゴ様、城に不法侵入した不届き者がおりまして。ジャーナリストと申しております」


 MAOの横でギターを弾いていた奴だ。


「ジャーナリストがここに何のご用で?」


「そりゃあ取材しかないだろう。MAOに取り次いでもらえると助かるんだが?」


 強気を保ちつつも、冷や汗ダラダラ。

 ハッタリがどこまで通用するやら。


「ふむ...かしこまりました。MAO様にお伺いしてきます。こちらへどうぞ」


 リアと目が合い、二人で安堵のため息をつきあった。


【応接室に通された】


 まさかこれほど早い段階で、魔王に面会することになるとは思ってもみなかった。

 魔王なんて普通はラスボスだ。

 戦うわけじゃないが、緊張してきた。


「ありがとう、タスク君。ここからは私の仕事ね」


 ギュっと、俺の手を握ってくるリアからも緊張が伝わってきた。


 そして、厚底ブーツをコツコツと響かせながら、魔王がその姿を見せた。

 ライブ時の仰々しい格好はそのままに、今まさに魔王と対峙した。


「お待たせして申し訳ございません。われがMAOGUNのボーカルを務めます、MAOと申します」


 魔王が深々とお辞儀をしてきた。

 ライブの時と口調がまるで違う。

 その姿に似合わないほどの礼儀正しさだ。


「我の取材でしたね。何なりとご質問ください......あら?貴方は、作家さんですか?」


「なんで、俺が作家だと?」


「えぇ、我の知り合いにも、作家になられた方がいらっしゃったものですから。フフ...」


 物腰は柔らかだが、その赤い目を見ていると、全てを見透かされているような感覚になる。

 急に襲ってきたりしないだろうな。


「私がジャーナリストのリアです。本日は取材を受けていただき光栄です。今回のMAOGUNの再結成、おめでとうございます。早速ですが質問に入らせてもらいますね。復活ライブの地にカラーズを選んだ理由はなんですか?」


「カラーズの街は全ての始まり。あらゆるジョブが、ここから生まれましたの。MAOGUNの最初のステージとして、相応しいと思いません?」


「なるほど、カラーズは始まりの象徴ということですね。活動を再開されたということは、何か目的があってのことですか?」


 リアは矢継ぎ早に質問を繰り出していく。

 ジャーナリストにとって、これは戦闘なのだ。


「えぇ、もちろん。今回は、今まで成し得なかった大業を果たすために降り立ちましたの。フフ...ずばり『7大都市コンサートツアー』を行いたいと考えています」


「7大都市?このクーベの全てを廻るおつもりですか?しかし、それには莫大な予算がかかりますね。あなたは政治系のジョブと癒着し、多額のマニーを動かしているという噂もありますが?」


「経済支援の一環として協力関係にある、という所でしょうかね。純粋にアーティスト活動をしたいのですが...ほら、我達は魔族でしょう?後ろ盾は必要なのですよ」


 その後も二人の問答は続いていった。

 フリーの魔王をしていた時にスカウトされただの、魔王コンサルタントの指示で、今の姿が確立されただの。

 およそ魔王と話すような内容じゃない。

 いっそのこと、世界の半分をお前に......なんて話を持ってきてほしいぐらいだ。


【魔王への突撃取材を達成した】



 取材から数日後、リアが俺を訪ねてきた。

 ジムの入り口に立つ彼女は、俺を見つけると小さく手を振る。


「先日は、どうもありがとう。タスク君のおかげで良い記事ができたわ」


「そうか、それなら良かった。あ、立ち話もなんだし、お茶でも淹れようか?」


「せっかくだけれど遠慮するわ。実はね、今回の取材が上に認められて、政治部門に異動することになったのよ。発つ前にお礼を言いたくて」


 魔王の取材で栄転?話が早すぎないだろうか。

 功績が認められたなら嬉しいが、あの取材はそんなに内容のあるものだっただろうか。


「これからは政治の中枢で仕事をすることになるわ。カラーズには、あまり来れなくなるわね」


 そう言うとリアは、両手を俺の後ろに回し、抱きしめてきた。


「ありがとう......タスク君」


 耳元で囁かれたあと、頬にキスをされた。

 正直、魔王と対峙した時よりも緊張する。


「タスク君にも......してほしいのだけれど?」


 伏し目がちに顔を赤くするリア。

 心臓バックバクで焦る俺。

 何を『して』良いのかわからん...

 テンパったまま、頬に触れる程度のキスをして、リアを見送った。


 なんだろう...胸がザワついてる


【タスクの心に春の風が吹いた】

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