6. day after day 後編

 さっきの子供のことは考えないつもりだった。

 つもりだったのに、モヤモヤした気分が払えなかった。


「ほら、これで薬代にはなるだろ」


「...あんちゃん?」


 バカなこととは思いながらも、マニーの入った袋を差し出す。

 貰った報酬を全て下ろしてきたので、すっかり貧乏になってしまった。


「さっさと薬買って親父の病気を治してやりな」


 驚いた顔を見せていたが、子供はマニー袋を掴み、そのまま走って行ってしまった。

 心に引っかかりがある状態でメシを食べるぐらいなら、詐欺師にまとめて投げてやる。

 これでいいんだ......全部じゃなくてもよかったかも。

 ちょっと後悔しながら、日は暮れていく。


 ふと、視界の端に見知った顔を見た。

 その人影を追いかけ、裏路地を進み、袋道に辿りつく。


「確かに、こっちに来たと思ったが...」


「ワシがかね?」


 後ろから占い師の老婆に話しかけられた。

 追っていたのはこっちなのに、なんで後ろから?


「おや、オマイサンは無職のタスク殿じゃないかえ」


「おいおい、今は小説家にジョブチェンジしたんだよ」


「それは悪かったねぇ、それで小説家のタスク殿がワシに何の用かの?」


 思えば、この老婆のおかげでワーカーとしての道が開けたとも言える。

 感謝の気持ちも込めて、成果の報告をしておきたい。


【老婆にこれまでの経緯を話した】


「ほぉぉ、それじゃ昇級クエストに4回も落ちたのかい?」


「最後もギリギリで合格、そこまで占いで知ってたんじゃないのか?」


「ヒェッヒェ、タスク殿の運命は、ワシの占いをもってしても、一筋縄ではいかぬようじゃて」


 当たるも当たらぬも、神のみぞ知るってことか。


「ところで、バァサンの家を訪ねたんだが、何年も使われてないようなボロ家になってたぞ。あんたは一体、何者なんだ?」


「占い師にミステリアスな演出は必要不可欠じゃて。それよりも、これも何かの縁。タスク殿を占わせてはもらえんかな」


 まずい、今しがた無一文になったばかりだ。

 払えるマニーが一切無い。


「よいよい、就職祝いじゃよ。じゃが、職に就いた者がいつまでもフラフラしておってはいかんぞ?」


「何で俺の思考が筒抜けなんだ...」


 老婆は、俺の手のひらをカンテラで照らし、手相を見始めた。

 しわしわの指でグイグイと圧迫し、何かうなづいている。


「ふぅむ、身近な人間に振り回される未来が見えるのぅ」


 声優かボディビルダー、またはその両方だろうよ。


「ホォホォ、日々正しい行いをすれば、巡り巡って返ってくる。しかし、タスク殿は占うまでもなく善い方向へ進んでおるようじゃ」


「何かボンヤリしすぎてないか?それホントに占いなのか?」


「それと、強い気持ちでタスク殿を待っておる人物がおるな。良い相手でも見つけなさったか?」


「誰だよそりゃ、そんな奴いるわけ......」


 しまった!もう夜になってるじゃないか。

 トールのやつ、早く帰ってくるんじゃなかったか?


「ありがとなバァサン。もう行くよ」


「ヒェッヒェ、仲間を大切にしなされよ」


「あぁそうだ、まだ名前を教えてもらってなかったな」


「ワシかい?フフ...ワシはシモンと呼ばれとるよ」


「シモンか、覚えたよ。それじゃまた!」


"フランキーのジム前"


 入口の前にトールが座っていた。

 帰りを待っていてくれたんだろうか。

 何だか久しぶりに顔を見ると、声が掛けづらいな。


「おかえり......遅かったね。どこ行ってたの?」


 怒っているようにも寂しそうにも聞こえる声だ。


「あぁ...ちょっと恩人のとこに顔を出しに...」


「恩人?女の人?」


「え?いや、そうだけど、そうじゃないと言うか」


 声優の声は何か刺さるな。

 どうする?ここは謝るべきか?いや、そもそも何を謝るんだ。

 悪いことしてたわけじゃないし。


「べ、別に変な遊びとかしてたわけじゃないぞ!ただ......色々あってだな」


 いかん、何か言い訳してるみたいになってきた。

 これじゃ朝帰りした亭主だ。


「そっかぁ...プフッ、朝帰りした亭主みたいになってるよ?」


【タスクに痛恨の一撃が決まった!!】


「ちがっ!?ハァ...ごめん、もっと早くに帰るつもりだったんだけど」


「アハハ、久しぶりに話すと喋り方、忘れるよね。ご飯は食べてきた?」


 全マニー失ったから何も食べてないんだった。


「ちょっとだけ料理の練習したんだよ。スープ、温めるね」


「俺、味だけは妥協しないからな?」


「嘘でも美味しいって言えばいいんだよ!タスクは、もぅ!」


 言い合いながら、ジムのドアはバタンと閉まる。


【数日が経過した】


「おぉ?なんだこの魚は?またフランキーへのお供えか?」


 箱いっぱいの新鮮な魚、これならちょっとした宴会が開けそうだ。


「ムァッハッハッ!それは漁師さんから、キミへの贈り物だそうだぞ!」


「俺に?漁師に知り合いなんていないぞ?」


「ムォン!魚が欲しい時はいつでも新鮮なものを届けてくれるそうだ。あとキミ宛の手紙も預かっている」


 なんだ?子供が書いたような字だな。なになに?


『あんちゃん、くすりだいをありがとお』


【タスクは海産物の仕入れ先をおさえた】

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